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2006/10/29

秋庭 俊著「帝都東京・隠された地下網の秘密」

 以前読んだ事があるんですが,読み直した本があります。秋庭俊氏の「帝都東京・隠された地下網の秘密」という本です。以前読んだときは単行本だったのですが,今回は文庫版で読みました。
 この本は,以前読んだものの,内容はすっかり忘れてしまったので,9月にインドに出張した際に,飛行機の中やホテルで暇つぶしに読もうと思って買っておいたものなのですが,別の本で事足りたので,この文庫版はお蔵入りになっていました。最近本棚で再発見したので,読んでみたのです。
 再読してもやはり面白かったです。
 東京の地下には,国民に知らされていない戦前に出来た地下鉄網や道路網が走っているという事を述べた本で,再読しても最初に読んだときの印象は全く変わらず,著者の思い込みと妄想で成り立っていると思われる本です。それを,あまり説得力の無い論理や証拠にもならないような証拠で展開しているんですが,読んでいる間だけでもその気になって読むと,これが面白いんですね。私はこのようなまじめな「とんでも本」が大好きです。
 NASAがUFOの存在をつかんでいるにもかかわらず,その事実を発表せず,一般人をだましているというUFO本がよくありますが,この本もそんな類の本です。現在の地下鉄をしのぐ500kmもの地下鉄や地下街路を戦前に建設しておきながら,権威(この場合は日本政府)が国民にその存在を隠している(なぜ隠しているのかは,この本からはあまりよくわからない。テロ対策と書いてある部分がどこかにあったような気がします)という事を述べている本です。ただ,文章が悪いのか,それほど確たる論理で論破しているというわけでないためか,よく分からない意味プーな部分も多く,じっくり読んでしまうと腹が立つかもしれません。あまり論理展開を気にせずに,読み飛ばしてください。
 この本の中には,東京の有楽町線の駅である「小竹向原」の事が出ています。偶然この近くに友人が住んでいるので知っている場所です。その部分を引用してみましょう。
--<引用はじめ>------------------
 『有楽町線建設史』にこの駅の断面図がある。小学校の校庭の下に巨大な地下建築ができている。
 「8号線」とあるのは有楽町線,「放射36号地下街路」はこの図のタイトルにもあるとおり,地下の道路になる。
この駅の周りには,いま,キャベツ畑が広がっている。小さな家並みが畑を囲んでいる。そんな田園風景を見ていると,この巨大な地下建築がいかにも唐突なものに思えてくる。
 だが,この図が唐突というだけでなく,不自然に見えるのは私だけだろうか。「地下街路」はなぜ,校庭と植樹帯にまたがっているのだろうか,最近の地下鉄の駅にしては柱が多くないだろうか,道路と地下鉄の間になぜ「間詰コンクリート」というものがあるのだろうか。
 「間詰め」というのは二つの建築物のスキマにコンクリートを詰めるようなときに使うはずで,私には「地下街路」というものが以前からあったように思えてならなかった。
--<引用終わり>---------------------

 この文章を読んだ印象では,小竹向原というところは畑が広がる人口密度が低い関東平野の農村で,地下鉄の巨大な駅などありようが無いという感じですが,実際の小竹向原は西武線の江古田にも近い住宅地であり,家庭菜園でもない限りキャベツ畑など目に付かないと思うのですが,この記述はいったいなんなんでしょう?
 また,引用している断面図に描いてある「放射36号地下街路」といっている道路も,以前から地上にある小竹小学校と向原小学校という2つの小学校の校庭を避けて,校庭部分だけトンネル(地下街路ではありません。短いトンネルです)になっているものなのに,なんだか著者の記述は地下を延々と走る地下道路であるかのようではありませんか? この記述から,私は著者がこの場所に行った事が無く,多分この場所を見に走らせたアルバイトの供述を勘違いして書いたように感じます。
 この部分だけを見ても,この本は全体的にこんな勘違いと妄想と思い込みによって作り上げられているのだろうなと想像できるのです。
 著者は,地下鉄だけでなく,地下の街路も戦前に相当の距離出来上がっていたといっているのですが,こんな記述があります。
--<引用はじめ>-------------------------------
 小泉首相が就任早々,国交省街路課の廃止にふれると,その日のうちに街路課から,「上下分離」という提案があった。
 私はそれを聞いて,「上下」というのは道路と地下道のことだと受け取り,生き残りのためについに本音が出たのだと思っていた。
 ところが,翌日になるとマスコミの記者を集め,「上」は計画と管理,「下」は建設と何とかという解釈を徹底していた。以後,どうもよくわからない「上下」が幅を利かせ,はじめから「上」のない道路公団の「上下分離」まで検討されている。
 建設の中には確かに下請けがある。しかし,建設というものは,計画や管理の上でも下でもない。それが普通の日本語ではないだろうか。
--<引用終わり>-------------------------------

 私が勤めているような製造メーカーで「上下分離」というと,「設計」と「製造」,または「設計・製造」と「営業」を別会社に再編する事を意味するのが普通で,街路課の『「上」は計画と管理,「下」は建設と何とか』という分離は普通に理解できるもので,「上下」というのを地上の道路と地下道路のことと受け取る方が余程普通でないように思います(ここら辺,著者は本当にジャーナリストだったのか? 本当に上下分離の意味を知らないのか? と思ってしまうポイントです。知っていて,知らないふりをしているだけなのではないか?と思ってしまいます。だって,ジャーナリストだったんでしょ)。
 著者がもっとも力を入れ,1章を設けてまで戦前に地下鉄網が作られていることの証拠といっている事柄として,丸の内線の赤坂見附付近の182.881mのカーブというのがあります。この寸法はちょうど200ヤードに相当し,なぜかメートル法で作られた戦後の地下鉄丸の内線に戦前のヤードで作られている部分がある,つまり丸の内線は戦前に作られたというわけです。
--<引用はじめ>-------------------------------
 「182メートル88センチ1ミリ」。丸の内線・赤坂見附-四ツ谷間にこのような半径のカーブがある。その手前のカーブは400メートル,その後は200メートルの半径になっている。十メートル刻みの数字が並んでいるなか,なぜ,ここだけがこれほど細かい数字なのだろうか。
 「このトンネルは,もともと,メートルで設計されていないのではないだろうか」
--<引用終わり>-------------------------------

 しかし,たしかに丸の内線は戦後の地下鉄ですが,戦前に銀座線を作るとき,将来赤坂見附で地下鉄新宿線(これが一部経路が手直しされて丸の内線という名で戦後開通した)と接続することになっていたために,はじめから2階建て(島式ホーム上下二階構造)で設計され建設されていたことは,東京の鉄道ファン(特にメトロファン)にはよく知られた事実です。当然,その駅付近では駅だけでなく,旧「新宿線」のトンネルも一部できていたであろう事は想像できることです。できていなかったとしても,設計は戦前に済んでいたとも考えられます。秋庭氏は一箇所の事実をもって,全線(しかも500kmも)地下鉄が開通しているという妄想を抱いてしまったところに無理があります。
 また,小竹向原について,次のような記述があります。
--<引用はじめ>-------------------------------
 とはいえ,こうして小竹向原に巨大な地下建築が出来ると,今度は13号線はこないのだという。
 ----なんだ,要するに工事ができればよかったのか。
--<引用終わり>-------------------------------

 地下鉄13号線は,小竹向原に来ないのではなく,既に池袋-小竹向原が開通している有楽町線急行線(新線)につなげるべく,渋谷-池袋を建設中ですが,その間違いはさておいても,著者は「要するに工事ができればよかったのか」と感じてしまい,戦前に建設されて75年も経って寿命がきたトンネルや駅の補修のために,有楽町線や小竹向原駅を「作った」ように見せかけて工事したと思い込んでいるのです。
 この本では,このような思い込みから妄想が発展して,自分の思い込んだ方向に論理を作り上げている部分が多いです。しかし,読者の方もその妄想に付き合うつもりになれば,面白い本ですよ。あまり論理展開を気にせずに,読み飛ばせばね(笑)。
 しかし,この本を読んでも,東京の地下に500kmもの戦前の地下鉄網や道路網が隠されているような気にはなりませんが,旧陸軍がたくさんの防空壕(地下鉄霞ヶ関駅はその防空壕跡を利用しているのは衆知の事実)や地下施設を作っているというのは考えられる事です。ただ,秋庭氏が言うように,長大な線である地下鉄や道路などではなく,スポット的なものだとは思います。実際のところ,秋庭氏のような思い込みの激しい人でない別の人に,もっと実証的な研究をお願いしたい気がします。

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<追伸>
 この本について,その後こんな記事も書きました。

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