2019/04/09

アガサ・クリスティの「動く指」

Moving-thumb

 クリスティの「動く指」は,おそらくクリスティ作品としては有名でない方の一作だと思います。クリスティ作品は全作読んだ事がありますが,内容を忘れてしまっている作品です。だから再読(本当は再再読くらいかもしれない)。
 飛行機事故でけがをして,静かな田舎で静養する様医師から勧められたジェリー・バートンが,妹のジョアナと共にやってきたのは,リムストックという田舎町です。バートンが引っ越してきたとたんに,「ジェリーとジョアナは本当の兄妹ではない」という内容の,下品な言葉を連ねた誹謗中傷の手紙を受取ります。宛先はタイプライターで打ってあり,手紙自身は印刷物から活字を拾って貼付けたものでした。
 ジェリー達は,はじめは自分たちがよそ者だからそのような馬鹿げた手紙を受取ったのだろうと考えましたが,診察にやってきた町の医師から,町の誰彼となく同様の誹謗中傷の手紙を受取っている事を告げられます。しかもその内容が嘘としか思えず,町の誰もが信じていないという手紙です。
 そんな中で,町の事務弁護士ディック・シミントンの妻が自殺する事件が起りました。「次男が夫の子どもではない「という手紙を受取った直後の事件でした。誰も信じていない嘘くさい一連の手紙ですが,へたな嘘も数打ちゃ当たるという事で,ひょっとして真実を掘り当てたのか・・・・?
 さらに,シミントン家のお手伝いのアグネスが,以前一緒に働いていたバートン家のメイドであるパトリッジに相談したいことがあると電話してきてバートン家に来る事になっていたにもかかわらず,ついにやって来なかったという事件が起ります。アグネスはそのまま行方不明になってしまったのです。結局アグネスは,シミントン家の階段の下の戸棚で他殺死体となって発見されました。アグネスはディック・シミントンの妻が自殺した日から様子がおかしく,誹謗中傷の手紙をシミントン家のポストに投函した者を見たのではないかと思われました。
 誰も信じていなかった誹謗中傷レター事件が殺人事件に発展してしまい,町の牧師の妻が旧知のミス・マープルを呼びよせます。この作品全体の75%という終盤で,やっと名探偵ミス・マープルが登場します。この後,あまりミス・マープルの活動も描かれませんが,残り25%で見事に真犯人を指摘します。
 この作品全体がジェリー・バートンの一人称で語られますが,ジェリーとミス・マープルが深く関係しているわけではない為に,たまたまジェリーが牧師宅を訪れたときくらいしかミス・マープルと接触がなく,マープルの探偵活動や発言はそれほど描かれません(ジェリーとしては描き様がないのです)。ミス・マープルの推理は,真犯人が捕まってすべてが終わった後,彼女の口から語られます。
 この作品では,町の人々がそれぞれ個性的に印象的に描かれ,ミステリーである前に読み物として面白いものに仕上がっていました。しかしまあ謎ファンとしては,もうすこしミステリー要素が濃かったらなあとは思いました。

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2019/04/03

三津田信三の「四隅の魔」

Yosumi  以前刀城言耶シリーズを紹介した三津田信三の別のシリーズ,死相学探偵 弦矢俊一郎のシリーズです。他人の死相が見える主人公探偵。今作でもそれが手がかりとして生かされています。
 「四隅の間」とは,真っ暗な部屋で5人が四隅に配置され,まず二人配置された一カ所の隅から1人が次の隅に向い,その隅の人にタッチします。タッチされた人は次の隅まで移動して,その隅の人にタッチ,タッチされた人は次の隅に向い・・・という循環を行います。それが最高潮に達した頃,そのなかの1人が部屋の中央に移動し,循環から抜けます。すると「隅の人タッチ」の循環が途絶えるはずですが,途絶える事なく循環が続く。それは霊か魔物がその部屋に召還され,それが循環に加わるからというオカルト儀式なのです。
 大学の非公認サークル「百怪倶楽部」のメンバー男性2人,女性3人が,寮の地下室で「四隅の間」を行うところからこの話が始まります。その儀式の最中,真っ暗な部屋の真ん中に抜けた女子学生が突然死を遂げます。死因は心臓マヒで,警察の捜査でも事件性はありませんでした。
 やがてもう1人,「四隅の間」に参加していた男子学生1人が歩道橋から転落して死亡。その段階で,女子学生二人が弦矢俊一郎をたずね,解決を依頼,俊一郎はその二人に様相の異なった死相を視ます。実はその前に,百怪倶楽部の周辺に黒衣の怪しい女性が目撃されていました。
 そしてそれから,もう1人の男子学生が男子寮の部屋で首を吊っているのが発見されます。彼の首に警察は絞められた跡がかすかについているのを発見,3件目にしてはじめて犯罪として認められます。
 最後は関係者全員を集めての弦矢俊一郎謎解き。意外な犯人が指摘されます。手がかりになったのは,女子学生の死相が異なっていた事,それに途中から1人の死相が消えた事。なぜ死相が消えたのかが,犯人の手がかりになりました。
 とても面白い推理小説です。最後に本筋とあまり関係ないちょっとした怪異が認められるのは三津田信三のお約束ですが,オカルト風の物語りはおおむね本格推理小説としておわります。

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2019/03/17

河野裕の「つれづれ、北野坂探偵舎」シリーズの第6作,「物語に祝福された怪物」

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 河野裕の「つれづれ、北野坂探偵舎」シリーズの第6作,シリーズ最終作,「物語に祝福された怪物」を読みました。
 このシリーズについては,これまでもこのブログで紹介してきました。ついに今回が最終作,完結編となります。
 このシリーズ,1作目から3作目までは,「つれづれ珈琲店」店主にして「北野坂探偵舎」の探偵,元書籍編集者の佐々波が依頼を受けた事件を解く推理小説でした。もちろんそのバックでは,過去の交通事故からはじまる紫色の指先という幽霊と佐々波の友人,作家の雨坂続,雨坂の姪のノゾミと第一作での探偵依頼人,高校生〜大学生,小暮井ユキの物語が,ゆったりと流れていました。
 しかし4作目以降は,紫色の指先とそれに取り込まれた人物,というか幽霊達,彼らに佐々波,雨坂,小暮井ユキが関わっていく物語で,むしろ4〜6巻というより一つの作品の上,中,下巻というものになっています。これまでのバックの物語が表に出てきて,その物語が大団円にむかう話が4作目以降です。
 今回は第5作「トロンプルイユの指先」から2年後の物語です。佐々波は珈琲店の運営を完全にウェイトレスだったパスティーシュに任せており,探偵舎も閉めて編集者に返り咲いています。前作の続きとして,雨坂続は紫色の指先の世界に行って「トロンプルイユの指先」の続編小説を執筆中で,現世では病院で眠り続けています。
 そんな状態から,小暮井ユキが,そして佐々波が紫色の指先の世界に渡り,雨坂続の姉や天才的な小説家であるその夫,ノゾミやもちろん雨坂続,そして紫色の指先と交流する様を描いたのが今作です。
 結局今作で,紫色の指先の世界を操り,雨坂や佐々波やユキ,紫色の指先自身にいたるまで,だれが動かしていたのかがわかります。何故動かしていたのかもわかります。
 紫色の指先の正体が分かりかけますが,それはその世界を動かしていた人物が仕組んだフェイクである事が明らかになります。
 結局最後に至っても紫色の指先の正体は分からないのですが,それで終わるのがこの物語では正解でしょう。「紫色の指先が誰なのか分からない」と不満を持っている方がいる様ですが,この作品は分からなくて正解です。パスティーシュの背景も分からないと不満を言っている感想をネット上で見ましたが,パスティーシュは,初登場時にキャラが立っていたけれどもほんの脇役だったという事で,物語全体に不満を持つ必要はありません。
 完結作として上手く美しく終わったという感じです。でも,推理小説ではありませんでしたよ。

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2019/03/13

三津田信三「山魔の如き嗤うもの」

Yamanma

 三津田信三の「山魔の如き嗤うもの」を読了しました。
 奥多摩にある神戸地方,そのいちばん手前にある初戸出身の郷木靖美(のぶよし)が,初戸につななる三山に1人で登って帰ってくるという「成人参り」に出かける。それは初戸に昔から伝わる青年の成人の儀式でした。
 しかしその成人参りで道に迷ってしまい,靖美は忌み山として畏れられている乎山に迷い込む。そこで思いがけなく,大きな家屋を発見する。そこでは,若いとき家を出て行方不明になっていた神戸地方の奥戸の有力者鍛炭家の長男一家,立一と後妻のセリ,前妻の息子の平人,後妻セリと立一の長女ユリ,セリの母のタツが暮らしていた。
 ところが翌朝,靖美が起きてみると,朝食の途中と思われる状況で郷木立一一家全員が家から消えていた。ところが家の二つしかない出入り口には内側から閂が下りていたし,二つしかない山道のどちらからも出た者がいなかった。二重の密室状況の中で,立一一家が消えていたのです。
 そんな事が記載された郷木靖美の手記を入手したおなじみ,怪奇小説作家にして名探偵,刀城言耶が奥戸の地を訪れ,奥戸のもう一つの有力者,楫取家に逗留して事件を解決しようと試みます。
 そんな最中,鍛炭家の一家が順々に殺害され,さらに楫取家の当主力枚(りきひら)までもが殺害されるという連続殺人事件が起ります。しかも,村内各所に祭られている黒,青,金,黄,赤,白の各色の地蔵から盗まれた前掛け(よだれかけ)を首に着けられて。それも,各色の地蔵を謡い込んだ昔から奥戸に伝わるわらべ歌に擬えて。
 残念ながら,前述の密室状態の解決は常識的なもので,それほどたいした事はありませんでした。しかし立一一家の秘密や最後の真犯人として指摘される人物の二転三転などは,推理小説としての見所です。
 この作品,刀城言耶シリーズの第4作ですが,私としては,「厭魅の如き憑くもの」「首無の如き祟るもの」に続く位置を占める作品でした。

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2019/01/21

買った本の95%は読み切れていない!

Book 「買った本の95%は読み切れていない!」という記事がありました。曰く,「購入された書籍全体の95%は、読了されていない」「購入された書籍全体の70%は、一度も開かれることがない」。
 これは最近の傾向なのか,それとも以前からこれらの数字は変わらないのか,むしろそっちに興味があります。私が思うに,多分以前からそれほどかわっていないのではないかとおもいます。
 「マンガなら読むけど、文字がたくさんある本はちょっと……」とも書いてありますが,わたしはむしろ漫画を読む方が文字の本を読むより面倒くさい。ぱっと見の情報量は漫画の方が多くて,読むのに苦労すると思うんですけれどね。
 ところで,うちのカミさんは,始めの部分を読んであまりにも面白い推理小説は,中を飛ばして最後を読みます。他にも,終わりを読んで安心してから読んでいくという女性の方を知っています。一世を風靡した朝ドラ「おしん」は,まずドラマのはじめにスーパー経営者として成功した晩年の姿を音羽信子の姿で見せておいて,小林綾子の苦しかった少女時代につなげるという演出を行い,視聴者を安心させておいてその後に厳しい物語が続くというドラマになっていました。これなども,先ず安心したいという女性の多い視聴者意識の表われで,結構そういう方は多いのではないでしょうか。

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2019/01/16

三津田信三「凶鳥の如き忌むもの」,刀城言耶シリーズ第2作

Magatori

 刀城言耶シリーズの第2長編である「凶鳥の如き忌むもの」。時は昭和30年頃,楫取(かじとり)郡潮鳥(しおとり)町にある兜離の浦(とりのうら)という集落。取材のためにそこを訪れた刀城言耶は,郷土史家の町長から話を聞いているうちに,18年ぶりに近々行われる鵺敷神社に伝わる秘儀「鳥人の儀」に立会って欲しいという依頼を受ける。
 これは,兜離の浦の沖合いに浮かぶ絶海の孤島,鳥坏島の鵺敷神社に伝わる儀式です。18年前,当時の巫女である朱名によって儀式が執り行われたとき,逃げ場がないはずの断崖絶壁の拝殿から,朱名と6人の立会人が忽然と消えてしまい,朱名の6歳の娘,朱音のみが道具倉庫に監禁された状態で見つかるという事件が起きました。
 そんなことが過去にあったため,何かと周囲の人々が心穏やかでない状況下で行なわれた今回の鳥人の儀,巫女として成長した朱音と刀城言耶を含めて7人の立会人が鳥坏島に渡ります。
 そこで起こった消失事件。朱音,さらに3名の立会人が姿を消してしまいました。
 鳥人の儀とは何なのか,18年前の,さらに今回の消失事件の謎は?
 最初から鳥に彩られたミステリー,文中早くから出てくるチベットという言葉,そうなってくると,多分「アレ」ではないかと思うわけですが,やはり「アレ」でした。
 この作品,先日紹介した第三作「首無の如き祟るもの」の複雑さはなく,第一作「厭魅の如き憑くもの」の驚きもないという作品になってしまいました。ちょっと残念。
 Kindleも持っているものの,以前このブログで紹介したいくつかの利点がある為に,電子書籍をKOBO端末で読みました。これまで,刀城言耶シリーズ第一作,第三作,第二作と読んできましたが,楽天KOBOから,「次は山魔の如き嗤うものをお読みください。」というメールが届きました。実際のところ、メールが来るまでもなく,すでに第四作「山魔の如き嗤うもの」はKOBOで購入済みです。

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2019/01/10

三津田信三「首無の如き祟るもの」

Kubinasi 刀城言耶シリーズ第三作,「首無の如き祟るもの」の舞台は首なしの伝説が生きている姫首村。姫首山の北,東,南に広がる村が舞台です。ここで支配的な地位を得ているのが秘守家という一族。先代の長男が当主である一守家,長女が当主である二守家,次女が当主である三守家の三家が,次の秘守家当主の座をめぐって抗争している状態です。
 初めの事件は,秘守家の子供が13歳のときに行われる十三夜参りという儀式のときに起こります。時は第二次世界大戦の最中の昭和18年。一守家の長男,長寿郎と双子の長女,妃女子が,一人づつ順番に媛首山にある媛神堂に参る行事で,井戸で水を浴び禊をして,婚舎と呼ばれる建物を経て媛神堂へ行くのですが,先に山に入った長寿郎が婚舎で妃女子を待っていても妃女子がやってこない。そこで戻ってみると,井戸の中で2本の脚が井戸水から突き出ているのを発見します。
 実はこのとき,長寿郎をつけて山に入っていた幾多斧高という6歳の少年がいました。身寄りがなく一守家にもらわれてきた一守家最年少の使用人です。斧高は,いつも「よき坊」と呼んでやさしくしてくれる長寿郎の事が心配で,こっそりつけてきたのです。長寿郎は井戸のところまで戻ってきて斧高と出合い,二人で井戸の中の足を発見したのでした。
 もう一人,この行事を心配していた人が居ました。村の駐在である高屋敷巡査です。高屋敷巡査は独断で,3ヶ所ある山の登り口に警察官をつけて,山に不審者が入るのを防いでいました。
 この作品は,斧高少年と高屋敷巡査の視点で交互に語られていきます。
 さてこの井戸の二本足の死体について,一守家は警察に届けることなく,妃女子として早々に火葬を済ませてしまいました。
 それから10年後,長寿郎が23才,斧高が16歳の秋,長寿郎の二十三夜参りが終わり,嫁選びの儀式,婚舎の集いが行われます。秘守一族から選ばれた三人の花嫁候補が三つの婚舎に入った後,三人の中の一人,毬子と思われる首無し全裸死体がその婚舎の中で発見されました。一方,長寿郎は各婚舎に一度は回ってきたらしいのですが,どこにも居らず失踪した状態でした。しかしその後,参道の途中の馬頭観音の祠の中で,長寿郎と思われる首無し全裸死体が発見されます。
 秘守一族の跡継ぎであった長寿蝋が死んだ事から,秘守一族を一守家に集めて,後継ぎ問題の話合いが行われます。その場で,斧高自身さえ知らなかった事実が一守家当主から発表され,長寿郎亡き後,一守家,さらに秘守一族の次期当主は斧高にきまります。斧高は,一守家当主が家庭教師の女性に産ませた子供だったのです。その事実を初めて知って,斧高は失神してしまいます。
 その後,話合いにも出席していなかった二守家の次男,身持ちのよくない紘弐と思われる首無し全裸死体が媛神堂で発見され,しかも祭壇上には発見されていなかった長寿郎の頭部が置かれていました。紘弐の首は林の中に捨ててありました。
 まあこんな調子で語っていったら,冊子になるくらいの長い話になってしまいます。話が複雑で,謎を語ろうとするだけでもいろいろなことを説明しなければならず,非常に紹介しづらい作品です。読み終わっても,よくよく読み込んでいないと誰が誰だか訳が分からず,私は2度読みしました。
 刀城言耶シリーズとはいえ,最後に謎解きをしたのが刀城言耶だったのかどうかも定かでなく,大変難物です。
 この作品,刀城言耶シリーズの最高傑作という誉れ高いのですが,私としては前作(刀城言耶シリーズ第一作),「厭魅の如き憑くもの」の方がすっきりしていて好きですね。そちらの方が,トリックも分かり易く納得できます。

 しかし,被害者が首を切られていること,全裸であることは単に猟奇を狙ったわけではなく,しっかり必然性があって,しかもその理由が想像の右上をいくものであったのには感心しました。

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2018/12/27

三津田信三の「厭魅の如き憑くもの」(ちょっとネタバレ)

Maji

 三津田信三の「厭魅の如き憑くもの」を読みました。
 因習に満ちた山深い神々櫛(かがぐし)村。村のあちこちに蓑と傘を着けたカカシ様と呼ばれる案山子が祭られ,信仰を集めさらに怖れられていました。その村ではかつて,子どもの神隠し事件がいくつも起こっていました。
 その村は昔から,谺呀治(かがち)家と神櫛(かみぐし)家という2家が対立しています。この二家のうち,谺呀治家は祈祷と憑きもの落としを生業とし,憑きもの筋として村に君臨していました。しかし,二家の現在の当主である老婆同士の因縁の対立にもかかわらず,若い者はロミオとジュリエットのごとく家を超えて好意を持つ・・・。
 神々櫛家の三男,漣三郎と谺呀治家の双子の妹,嵯霧がそんな関係。漣三郎は6歳の時,9歳だった長兄の聯太郎と谺呀治家の裏山,九供山へ冒険に行き,兄が行方不明になったという事件を経験しています。九供山は村の災いの源と見なされている山で,ナガボウズという化け物が棲むとされています。一方の嵯霧は,谺呀治家の女児が巫女や憑座になる儀式,9歳になると行われる九供儀礼で,宇迦之魂(うかのみたま)という薬酒を飲んだ姉の体調が急変,その葬儀が性急に行われたという経験を持っています。
 そんな村へ取材にやってきた怪奇幻想作家である刀城言耶(とうじょうげんや),ちょっと頼りなさげに見える名探偵の登場です。
 その神々櫛村で,というか谺呀治家で起こる連続殺人事件。4つの殺人事件では,被害者はそれぞれ,櫛,竹の皮,傘などを口にくわえさせられ,カカシ様の蓑と傘をかぶって死んでいました。そしてそれらは不可能犯罪。様々な状況により,誰にしろ犯行が不可能と思われる殺人事件でした。
 この作品は,長編の中でも長い方だと思いますが,中盤まで村や登場人物の説明,登場人物たちが経験した怪異の説明に費やし,そのあと矢継ぎ早の連続殺人事件,そしてラスト,少なくとも4つの解決が刀城言耶によって語られ,最後についに刀城言耶が真犯人を指摘する。そこまでは見事な本格推理小説なのですが・・・,最後の最後,刀城言耶は指摘した真犯人が連続殺人事件の一つにアリバイを持っていることに思い至り,読者の背筋を寒からしめて終わるということになります。
 この手のエンディングを持った長編推理小説として,ディクソン・カーの傑作「火刑法廷」や高木彬光の「大東京四谷怪談」などがありますが,「厭魅の如き憑くもの」はその伝統に則った傑作といえるでしょう。(ここら辺,ちょっとネタバレなのですが,作者自身が「最後まで読まなければホラーなのかミステリなのかわからない小説は書けないだろうか。」という言葉で公表していますから,まあいいでしょう。
 私は電子書籍端末でこの作品を読みましたが,いくつもの図版や家系図のページに全てインデックスをつけ,それらを参照しながら読みました。そんな読み方をするには,電子書籍は最適です。そして,そんな読み方をしなければならないことを覚悟の上,じっくりこの作品をお楽しみください。
 三津田信三の刀城言耶シリーズは,この作品が第一作ですが,既に全て読んでいる娘によると, 3作目の「首無しの如き祟るもの」がシリーズ最高傑作だということです。次はそれを読むかな・・・。娘も自分の電子書籍で読んでいるのですが,紙の本のように家族の間で自在に貸し借りできないところが,読者にとっては難ですねwww。

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2018/11/09

柄刀 一の「月食館の朝と夜」

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 柄刀 一の「月食館の朝と夜」を読みました。奇蹟審問官アーサーシリーズの4冊目の本です。長編作品としては3作目となります。
 ローマ法王庁から派遣され,申告された奇跡を調査して世界中を飛び回る奇跡審問官,アーサー・クレメンスを主人公とする本格推理小説です。
 放浪の陶芸家として世界的に有名な五十幡萬生。萬生は既に亡くなってますが,その長男,昭が住む萬生の屋敷をアーサーが訪れます。霧で有名な竹田城にも近い場所にある屋敷です。そこにはアーサーの日本人の異母弟,高校生の甲斐・クレメンスとガールフレンド,五十畑由比とその父で当主昭の弟である五十幡宗正も滞在していて,アーサーにとっては甲斐と久しぶりの休日を過ごす為の訪問でした。
 その夜は皆既月食の夜。月食マニアの昭が,館の別棟というべき月宮殿の塔の最上階に籠もって月食を観測したはずの次の朝,昭が死体で発見されます。顔などを焼かれ,左腕も手首から上の肩まで,布を巻き付けて火をつけられたらしくもえている。手首から先も異様に黒くなっています。だから殺人に間違いはありません。しかし死体の発見は作品の半ば。遅すぎる・・・・・。
 さらに,五十幡邸に滞在していた遠國という光学器械をこの屋敷に納めた業者の男も刺殺されているのが発見されます。この男は生前,この館には隠し部屋・隠し財産があるかもしれないと言ってました。そこに萬生の遺作が眠っていると言っていた人物でした。
 月宮殿へのアクセスは,暗証番号付きのエレベータとテラスからの外階段だけ。犯人は? そして殺害の目的は? 死体が損壊されていたのは何故?
 照明のスイッチに関する細かい考察や館の構造,そして皆既月食の観測時には、館の全ての照明を落とすという習慣。この作者の推理小説は,分かり易い大トリックを使うというより,小さな考察がたくさん必要な推理小説です。優れた本格推理小説でありながら,この作者が今ひとつ大受けしないのも,そこら辺のトリックの分かり難さ,小粒感,というより細かく難解なトリックが影響しているのだろうと思います。本格好きを唸らせる一方,大受けしないという作品です。
 読者の書評では,分かり難さを云々されている方が見受けられました。トリックの肝の一つである月宮殿の外階段のレイアウトなど,月宮殿自体の図版が欲しかったと思いました。
 これまでの作品では名前だけが登場していたアーサーの弟,甲斐・クレメンスが本格的に登場し,アーサーのワトソン役を勤めている事は,好ましい雰囲気でした。

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2018/07/10

週刊少年ジャンプは創刊50年

Giga 週刊少年ジャンプが,7月11日で創刊50周年になるそうです。
 現在の発行部数は漫画誌トップの176万部だそうですが,一時は600万部に達していたと思います。
 聖闘士星矢,ジョジョの奇妙な冒険,北斗の拳,ドラゴンボール,魁!男塾!!,ハイスクール!奇面組,キャプテン翼,こちら葛飾区亀有公園前派出所,キン肉マン,などなど・・・。漫画史にのこる名作ぞろいですね。
 私が最近読んでいるのは,週刊ジャンプ掲載の麻生周一先生の「斉木楠雄のΨ難」ですが,既に本編は完結していて,現在続編が掲載されているのは季刊のジャンプGIGAなんですよね。

(写真はアマゾン書店のホームページより。)

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