2019/05/20

クリスティーの「白昼の悪魔」

Evil

 最近クリスティーづいている私ですが,「白昼の悪魔」を読みました。
 小学生のころから今までに,既にクリスティーの全作品を読んだことがあるはずの私ですが,この作品と別の作品を取り違えて記憶していました。別の作品というのは,「死との約束」です。「死との約束」は,親族や周囲に絶対権力をふるう嫌な女性が登場し,登場人物達も読者も早くクタバレと思うのですが,そんな女性をクリスティーは必ず殺してくれます。鉄板の死亡フラグの立った女性が,中東の焼け焦がすような陽光の下で死んでいたというミステリーです。この「陽光の下で」というのと「白昼の」というのが被ってしまい,私の頭の中で取り違えが起こったようです。
 さて白昼の悪魔ですが,舞台は英国デボンシャーのスマグラーズ島という小島です。本土とは満潮時には海面下に隠れてしまう細い渡り道でつながっている小島です。この島の邸宅を改造したホテルに,名探偵エルキュール・ポアロをはじめ10名程の滞在客が泊まっていました。その中に,アリーナ・マーシャルという女性がいいました。夫ケネスと彼の連れ子ともにこの島に避暑に訪れたこの女性は,アリーナ・スチュワートという名で有名な女優でした。女性として魅力的なこの女性を見て,滞在客の一人,パトリック・レッドファンという若い男が夢中になってしまいます。妻であるクリスチン・レッドファンと一緒に滞在しているにもかかわらず・・・。アリーナを巡る夫ケネスとパトリック・レッドファンの三角関係,もう一つ,アリーナとパトリックとその妻のクリスチンの三角関係。二つの三角関係が手際よく説明され,何か起こりそうな雰囲気がかもしだされます。
 ある滞在客は,アリーナのことを「男をたぶらかすわがままな悪魔」と呼びますが,上述のようにクリスティー作品では,そんな登場人物は被害者と決まっています。やがて島のとある浜で,彼女の絞殺死体が発見されました。
 この作品は1941年に発表されたものですが,クリスティーの傑作の一つとして広く知られています。
 物語のラスト,ケネス・マーシャルの娘リンダ(被害者アリーナにとっては夫の連れ子)が,「自分が継母を殺した」という遺書を残して自殺未遂を起こし,まさかそれが真相ということはないよねと思っていると,滞在者たちが集まっている場で,ポアロは別の人物を犯人として言及します。しかし,その男で犯人は決まりと思ったとたん,急に矛先を変えて別の人物を真犯人として指摘するのです。論理的に推理が成り立っているとしても,物的証拠がなく,犯人に動揺を与えて自供を促す作戦でした。
一件落着の後,皆にせがまれてポアロが真相を見抜いた推理過程を披露します。読者は冒頭のシーンを読み返し,そこにトリックの手掛かりが指摘されていたことに「してやられた」感を覚えるのです。
 やはりクリスティーは面白い。次は何を読もうかな?

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2019/05/03

霜月 蒼の「アガサ・クリスティー完全攻略」

Agasa

 「アガサク・クリスティー完全攻略」は,著名なミステリー評論家,霜月 蒼によるクリスティー全作の解説書です。早川書房のクリスティー文庫の1作で,クリスティー文庫の各作品と同じ装丁になっていますから,公認版のような本といっていいでしょう(何に公認されたのかわからないが・・・)。最近このブログでも,クリスティー作品を再読した感想などをアップしていますが,それはこの本を読んで,再読したくなったからという事です。
 エルキュール・ポアロ長編作品,ミス・マープル長編作品,トミー&タペンス長編作品,短編集,戯曲,ノンシリーズ長編作品,そして特別収録 ポアロとグリーンショアの阿房宮に分類されています。それぞれ簡単なあらすじが付いていますが,もちろんトリックや犯人には言及されておらず,未読の人も安心して読むことができます。評論の上でネタバレが必要なものは,ネタバレ部分を巻末に抜き出してあり,クリスティーの原作を読んでから巻末を読めばいいようになっています。
 作品には,星マークで霜月氏が考えるランキングがつけられています。同意すべき点もあり,そうでない点もあります。
 たとえば傑作として名高い「オリエント急行の殺人」は星四つです。最高は星五つで,「白昼の悪魔」「カーテン」「鏡は横にひび割れて」「ポケットにライ麦を」「五匹の子豚」などがそれに相当します。「ナイルに死す」は星四つ半,「ABC殺人事件」が同じく星四つ半。「オリエント急行の殺人」は,それよりわずかに評価は低いのです。ここら辺の感覚は,私と同じですね。「オリエント急行」は,私の中では横溝正史の「本陣殺人事件」同様に,史上初という特異なトリックで世評は高いのですが,作品としての面白さは「同じ著者の他の作品のほうがおもしろい」と感じます。
 霜月氏に同意しない部分もあります。「マギンティ夫人は死んだ」を霜月氏は高く評価しています。クリスティーっぽくなく,ポアロが街を始終移動し続け,視点もポアロに固定し,読者はポアロの慨嘆や印象や思考を共有し,すべてはポアロの目を通じて見て,ポアロと共に空間を移動する。それはハードボイルドミステリーのやりかたで,ハードボイルド好きの霜月氏は,これに共感しています。また,登場人物の多くがクリスティーにしては珍しく「裕福でない人」であり,そこらへんもハードボイルド的だと霜月氏は考えます。だから玉に瑕なのは中盤からのオリバー夫人の登場で,ハードボイルド的な雰囲気を壊しているというのです。しかし,被害者は雑役婦であり裕福でない人かもしれませんが,殺害の秘密は裕福な家庭にあり,事件の根はお屋敷にあるので,私はそれほどハードボイルドを意識しなくていいような気がしました。それにクリスティーが被害者を裕福でない人に設定したのは,殺人の動機となった行為を裕福な人が行うのは,単に不自然だからではないかと思います。
 ハードボイルド好きの霜月氏と,謎で背中がぞくぞくするのが好きな私は,微妙に意識がずれていて,私としては,同意できる部分とできない部分がありました。
 ちなみに,私もハードボイルドが嫌いではありません。霜月氏は本書の中で「ハードボイルドの流儀は,謎解きミステリの快楽と矛盾するものではない。ハードボイルドは語り口の名称であり,謎解きミステリは構造の名称であるからだ。」と述べています。まさにその通りですね。

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2019/05/02

クリスティーの「像は忘れない」

Elephant-can-remenber

 クリスティーの「像は忘れない」は,クリスティーのポワロシリーズの最終作。本作は1972年作品で,ポワロ物の最終作「カーテン」は1975年の出版だから,その順番でいけば最後から2作目の作品という事になりますが,「カーテン」は実は1943年に執筆された作品で,自身の死後出版する様に契約がなされていた作品です(実際には死後ではなく,存命中に出版許可を出したもの)。
 文学者昼食会に出席した推理作家のオリバー夫人(クリスティー自身をモデルにしたおなじみのおばさま)が,知らない女性から,オリバー夫人の名付け子,シリヤ・レイヴンズクロフトの両親の十年以上前の心中事件は,父親と母親のどちらが相手を殺して,後に自殺したのかを調べて欲しいと言われるところから始まります。聞けば,息子がシリアと恋仲になり,結婚を考えているからとの事。
 奇妙に思ったものの,オリバー夫人は旧知の名探偵ポアロに調査を依頼します。ポアロは夫人自身が当時の関係者を回って話を聞き,「忘れていない象」を探す様アドバイスします。ポアロ自身は,当時の警察の調査状況を調べます。
 今回改めて年代などを調べたわけですが,出版された1972年と言えば私が子どもの頃で,クリスティーを昔の作家という感覚で認識していた私としては,同時代に生き,私が知っている時代に新作が出ていたという事に驚きます。
 しかし,クリスティー最晩年の作である事は確かです。謎は「ヒロインの両親のどちらがどちらを殺したか」という一点,最後に至って関係者の驚愕の事実が分かりますが,クリスティー中期作品の読者に挑戦する緻密な筋立て,張り巡らされた多くの伏線,それらを見事にラストに向って回収していく緊張感は失われ,論理的なポアロの推理による解決ではなく,関係者の告白による解決など,本格推理小説というより面白いクライムストーリーとなっています。まあ,2時間ドラマの様な感じと言えばいいでしょうか。そんな筋立てのせいか,イギリス製作のテレビドラマ版では,原作にない水治療院のシークエンスを加えていました。
 過去の事件を解き明かすというという作品です。そもそもクリスティーは過去に根をもつ事件を描く事が多いです。しかしそれは,現在時点で事件が起り,その事件の解明のために過去を探ったら,その真相は過去にあったという事が多いわけです。ところが「象は忘れない」は,事件は全く過去のものなのです。過去の心中事件の真相解明です。そのため,読者はミステリーの緊迫感よりまったりしたクライムストーリーの楽しさを味わえるわけで,ベッドで横になってから眠る前に読んでいくのに最適です。しかしイギリス製作のテレビドラマ版では,過去の事件だけでは緊張感不足という事で,水治療院での現代の殺人事件をプラスしたのでしょう。現在では何も事件がおこらず,しかも殺人ではなく過去の心中事件の解明,それも関係者の尋問が主体・・・,「それだけではちょっと」と思って,現在の殺人事件を追加したテレビドラマの脚本家の気持ちはよくわかります。

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2019/04/25

クリスティーの「NかMか」

Norm

 クリスティーの「NかMか」は,トミーとタペンスのベレズフォード夫妻が活躍する長編小説です。ベレズフォードシリーズでは,屈指の傑作とされている作品で,私は何回か読んでいるはずで,さらに英国BBCが制作したテレビドラマも見ているはずですが,すっかり内容は忘れていて,たいへん面白く読みました。
 第二次世界大戦中,ドイツのスパイを追っていたイギリス情報局員が,「NかM。ソング・スージー。」と言う言葉を残して死亡します。情報局はNとMはドイツ人の男女二人のスパイを表し,ソング・スージーはイングランド南部の保養地,リーハンプトンにあるゲストハウス「サン・スーシ(日本語では「無憂荘」)」の事であるのを突き止めます。そこで,ドイツ側に知られていない人物としてトミーを無憂荘に送り込むのですが,そこには情報局のグラント職員とトミーの会話を盗み聞きしたタペンスが先回りしていました。
 というわけで,無憂荘という限られた館,そこに滞在している人々のうちだれがNとMなのかを突き止めるベレズフォード夫妻の活動が始まります。
 ポアロやミス・マープルが活躍する本格推理小説と違って,コメディー仕立てのクリスティーのスパイものは実に楽しい。特に本作はNとMの正体をめぐって,クリスティーのスリラーとしては最も本格推理小説寄りの作品で,ミステリーファンも満足する作品になっていると思います。
 トミーとタペンスシリーズでは,「親指のうずき」も印象的な謎に満ちている作品ですが,こちらは印象的な分,筋立てをかなり覚えているので再読までには至りません。「NかMか」は「親指のうずき」に次ぐ面白さの作品といえそうです。

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2019/04/09

アガサ・クリスティの「動く指」

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 クリスティの「動く指」は,おそらくクリスティ作品としては有名でない方の一作だと思います。クリスティ作品は全作読んだ事がありますが,内容を忘れてしまっている作品です。だから再読(本当は再再読くらいかもしれない)。
 飛行機事故でけがをして,静かな田舎で静養する様医師から勧められたジェリー・バートンが,妹のジョアナと共にやってきたのは,リムストックという田舎町です。バートンが引っ越してきたとたんに,「ジェリーとジョアナは本当の兄妹ではない」という内容の,下品な言葉を連ねた誹謗中傷の手紙を受取ります。宛先はタイプライターで打ってあり,手紙自身は印刷物から活字を拾って貼付けたものでした。
 ジェリー達は,はじめは自分たちがよそ者だからそのような馬鹿げた手紙を受取ったのだろうと考えましたが,診察にやってきた町の医師から,町の誰彼となく同様の誹謗中傷の手紙を受取っている事を告げられます。しかもその内容が嘘としか思えず,町の誰もが信じていないという手紙です。
 そんな中で,町の事務弁護士ディック・シミントンの妻が自殺する事件が起りました。「次男が夫の子どもではない「という手紙を受取った直後の事件でした。誰も信じていない嘘くさい一連の手紙ですが,へたな嘘も数打ちゃ当たるという事で,ひょっとして真実を掘り当てたのか・・・・?
 さらに,シミントン家のお手伝いのアグネスが,以前一緒に働いていたバートン家のメイドであるパトリッジに相談したいことがあると電話してきてバートン家に来る事になっていたにもかかわらず,ついにやって来なかったという事件が起ります。アグネスはそのまま行方不明になってしまったのです。結局アグネスは,シミントン家の階段の下の戸棚で他殺死体となって発見されました。アグネスはディック・シミントンの妻が自殺した日から様子がおかしく,誹謗中傷の手紙をシミントン家のポストに投函した者を見たのではないかと思われました。
 誰も信じていなかった誹謗中傷レター事件が殺人事件に発展してしまい,町の牧師の妻が旧知のミス・マープルを呼びよせます。この作品全体の75%という終盤で,やっと名探偵ミス・マープルが登場します。この後,あまりミス・マープルの活動も描かれませんが,残り25%で見事に真犯人を指摘します。
 この作品全体がジェリー・バートンの一人称で語られますが,ジェリーとミス・マープルが深く関係しているわけではない為に,たまたまジェリーが牧師宅を訪れたときくらいしかミス・マープルと接触がなく,マープルの探偵活動や発言はそれほど描かれません(ジェリーとしては描き様がないのです)。ミス・マープルの推理は,真犯人が捕まってすべてが終わった後,彼女の口から語られます。
 この作品では,町の人々がそれぞれ個性的に印象的に描かれ,ミステリーである前に読み物として面白いものに仕上がっていました。しかしまあ謎ファンとしては,もうすこしミステリー要素が濃かったらなあとは思いました。

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2019/04/03

三津田信三の「四隅の魔」

Yosumi  以前刀城言耶シリーズを紹介した三津田信三の別のシリーズ,死相学探偵 弦矢俊一郎のシリーズです。他人の死相が見える主人公探偵。今作でもそれが手がかりとして生かされています。
 「四隅の間」とは,真っ暗な部屋で5人が四隅に配置され,まず二人配置された一カ所の隅から1人が次の隅に向い,その隅の人にタッチします。タッチされた人は次の隅まで移動して,その隅の人にタッチ,タッチされた人は次の隅に向い・・・という循環を行います。それが最高潮に達した頃,そのなかの1人が部屋の中央に移動し,循環から抜けます。すると「隅の人タッチ」の循環が途絶えるはずですが,途絶える事なく循環が続く。それは霊か魔物がその部屋に召還され,それが循環に加わるからというオカルト儀式なのです。
 大学の非公認サークル「百怪倶楽部」のメンバー男性2人,女性3人が,寮の地下室で「四隅の間」を行うところからこの話が始まります。その儀式の最中,真っ暗な部屋の真ん中に抜けた女子学生が突然死を遂げます。死因は心臓マヒで,警察の捜査でも事件性はありませんでした。
 やがてもう1人,「四隅の間」に参加していた男子学生1人が歩道橋から転落して死亡。その段階で,女子学生二人が弦矢俊一郎をたずね,解決を依頼,俊一郎はその二人に様相の異なった死相を視ます。実はその前に,百怪倶楽部の周辺に黒衣の怪しい女性が目撃されていました。
 そしてそれから,もう1人の男子学生が男子寮の部屋で首を吊っているのが発見されます。彼の首に警察は絞められた跡がかすかについているのを発見,3件目にしてはじめて犯罪として認められます。
 最後は関係者全員を集めての弦矢俊一郎謎解き。意外な犯人が指摘されます。手がかりになったのは,女子学生の死相が異なっていた事,それに途中から1人の死相が消えた事。なぜ死相が消えたのかが,犯人の手がかりになりました。
 とても面白い推理小説です。最後に本筋とあまり関係ないちょっとした怪異が認められるのは三津田信三のお約束ですが,オカルト風の物語りはおおむね本格推理小説としておわります。

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2019/03/17

河野裕の「つれづれ、北野坂探偵舎」シリーズの第6作,「物語に祝福された怪物」

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 河野裕の「つれづれ、北野坂探偵舎」シリーズの第6作,シリーズ最終作,「物語に祝福された怪物」を読みました。
 このシリーズについては,これまでもこのブログで紹介してきました。ついに今回が最終作,完結編となります。
 このシリーズ,1作目から3作目までは,「つれづれ珈琲店」店主にして「北野坂探偵舎」の探偵,元書籍編集者の佐々波が依頼を受けた事件を解く推理小説でした。もちろんそのバックでは,過去の交通事故からはじまる紫色の指先という幽霊と佐々波の友人,作家の雨坂続,雨坂の姪のノゾミと第一作での探偵依頼人,高校生〜大学生,小暮井ユキの物語が,ゆったりと流れていました。
 しかし4作目以降は,紫色の指先とそれに取り込まれた人物,というか幽霊達,彼らに佐々波,雨坂,小暮井ユキが関わっていく物語で,むしろ4〜6巻というより一つの作品の上,中,下巻というものになっています。これまでのバックの物語が表に出てきて,その物語が大団円にむかう話が4作目以降です。
 今回は第5作「トロンプルイユの指先」から2年後の物語です。佐々波は珈琲店の運営を完全にウェイトレスだったパスティーシュに任せており,探偵舎も閉めて編集者に返り咲いています。前作の続きとして,雨坂続は紫色の指先の世界に行って「トロンプルイユの指先」の続編小説を執筆中で,現世では病院で眠り続けています。
 そんな状態から,小暮井ユキが,そして佐々波が紫色の指先の世界に渡り,雨坂続の姉や天才的な小説家であるその夫,ノゾミやもちろん雨坂続,そして紫色の指先と交流する様を描いたのが今作です。
 結局今作で,紫色の指先の世界を操り,雨坂や佐々波やユキ,紫色の指先自身にいたるまで,だれが動かしていたのかがわかります。何故動かしていたのかもわかります。
 紫色の指先の正体が分かりかけますが,それはその世界を動かしていた人物が仕組んだフェイクである事が明らかになります。
 結局最後に至っても紫色の指先の正体は分からないのですが,それで終わるのがこの物語では正解でしょう。「紫色の指先が誰なのか分からない」と不満を持っている方がいる様ですが,この作品は分からなくて正解です。パスティーシュの背景も分からないと不満を言っている感想をネット上で見ましたが,パスティーシュは,初登場時にキャラが立っていたけれどもほんの脇役だったという事で,物語全体に不満を持つ必要はありません。
 完結作として上手く美しく終わったという感じです。でも,推理小説ではありませんでしたよ。

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2019/03/13

三津田信三「山魔の如き嗤うもの」

Yamanma

 三津田信三の「山魔の如き嗤うもの」を読了しました。
 奥多摩にある神戸地方,そのいちばん手前にある初戸出身の郷木靖美(のぶよし)が,初戸につななる三山に1人で登って帰ってくるという「成人参り」に出かける。それは初戸に昔から伝わる青年の成人の儀式でした。
 しかしその成人参りで道に迷ってしまい,靖美は忌み山として畏れられている乎山に迷い込む。そこで思いがけなく,大きな家屋を発見する。そこでは,若いとき家を出て行方不明になっていた神戸地方の奥戸の有力者鍛炭家の長男一家,立一と後妻のセリ,前妻の息子の平人,後妻セリと立一の長女ユリ,セリの母のタツが暮らしていた。
 ところが翌朝,靖美が起きてみると,朝食の途中と思われる状況で郷木立一一家全員が家から消えていた。ところが家の二つしかない出入り口には内側から閂が下りていたし,二つしかない山道のどちらからも出た者がいなかった。二重の密室状況の中で,立一一家が消えていたのです。
 そんな事が記載された郷木靖美の手記を入手したおなじみ,怪奇小説作家にして名探偵,刀城言耶が奥戸の地を訪れ,奥戸のもう一つの有力者,楫取家に逗留して事件を解決しようと試みます。
 そんな最中,鍛炭家の一家が順々に殺害され,さらに楫取家の当主力枚(りきひら)までもが殺害されるという連続殺人事件が起ります。しかも,村内各所に祭られている黒,青,金,黄,赤,白の各色の地蔵から盗まれた前掛け(よだれかけ)を首に着けられて。それも,各色の地蔵を謡い込んだ昔から奥戸に伝わるわらべ歌に擬えて。
 残念ながら,前述の密室状態の解決は常識的なもので,それほどたいした事はありませんでした。しかし立一一家の秘密や最後の真犯人として指摘される人物の二転三転などは,推理小説としての見所です。
 この作品,刀城言耶シリーズの第4作ですが,私としては,「厭魅の如き憑くもの」「首無の如き祟るもの」に続く位置を占める作品でした。

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2019/01/21

買った本の95%は読み切れていない!

Book 「買った本の95%は読み切れていない!」という記事がありました。曰く,「購入された書籍全体の95%は、読了されていない」「購入された書籍全体の70%は、一度も開かれることがない」。
 これは最近の傾向なのか,それとも以前からこれらの数字は変わらないのか,むしろそっちに興味があります。私が思うに,多分以前からそれほどかわっていないのではないかとおもいます。
 「マンガなら読むけど、文字がたくさんある本はちょっと……」とも書いてありますが,わたしはむしろ漫画を読む方が文字の本を読むより面倒くさい。ぱっと見の情報量は漫画の方が多くて,読むのに苦労すると思うんですけれどね。
 ところで,うちのカミさんは,始めの部分を読んであまりにも面白い推理小説は,中を飛ばして最後を読みます。他にも,終わりを読んで安心してから読んでいくという女性の方を知っています。一世を風靡した朝ドラ「おしん」は,まずドラマのはじめにスーパー経営者として成功した晩年の姿を音羽信子の姿で見せておいて,小林綾子の苦しかった少女時代につなげるという演出を行い,視聴者を安心させておいてその後に厳しい物語が続くというドラマになっていました。これなども,先ず安心したいという女性の多い視聴者意識の表われで,結構そういう方は多いのではないでしょうか。

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2019/01/16

三津田信三「凶鳥の如き忌むもの」,刀城言耶シリーズ第2作

Magatori

 刀城言耶シリーズの第2長編である「凶鳥の如き忌むもの」。時は昭和30年頃,楫取(かじとり)郡潮鳥(しおとり)町にある兜離の浦(とりのうら)という集落。取材のためにそこを訪れた刀城言耶は,郷土史家の町長から話を聞いているうちに,18年ぶりに近々行われる鵺敷神社に伝わる秘儀「鳥人の儀」に立会って欲しいという依頼を受ける。
 これは,兜離の浦の沖合いに浮かぶ絶海の孤島,鳥坏島の鵺敷神社に伝わる儀式です。18年前,当時の巫女である朱名によって儀式が執り行われたとき,逃げ場がないはずの断崖絶壁の拝殿から,朱名と6人の立会人が忽然と消えてしまい,朱名の6歳の娘,朱音のみが道具倉庫に監禁された状態で見つかるという事件が起きました。
 そんなことが過去にあったため,何かと周囲の人々が心穏やかでない状況下で行なわれた今回の鳥人の儀,巫女として成長した朱音と刀城言耶を含めて7人の立会人が鳥坏島に渡ります。
 そこで起こった消失事件。朱音,さらに3名の立会人が姿を消してしまいました。
 鳥人の儀とは何なのか,18年前の,さらに今回の消失事件の謎は?
 最初から鳥に彩られたミステリー,文中早くから出てくるチベットという言葉,そうなってくると,多分「アレ」ではないかと思うわけですが,やはり「アレ」でした。
 この作品,先日紹介した第三作「首無の如き祟るもの」の複雑さはなく,第一作「厭魅の如き憑くもの」の驚きもないという作品になってしまいました。ちょっと残念。
 Kindleも持っているものの,以前このブログで紹介したいくつかの利点がある為に,電子書籍をKOBO端末で読みました。これまで,刀城言耶シリーズ第一作,第三作,第二作と読んできましたが,楽天KOBOから,「次は山魔の如き嗤うものをお読みください。」というメールが届きました。実際のところ、メールが来るまでもなく,すでに第四作「山魔の如き嗤うもの」はKOBOで購入済みです。

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