2019/10/18

台風だから,本でも読もうか・・・という事で「魔女の隠れ里」再読

Majyo 11月12日土曜日の関東地方は,朝から雨。午後からは時折風も吹いてきて,雨脚も強くなってきました。稀に見る強烈な台風19号の襲来です。
 午後からは鉄道も計画運休してストップし,コンビニも休業・・・という事で,家に釘付け状態です。そこで,推理小説でも読みましょうかという事で,最近Kindleストアで購入したはやみねかおる の2018年の新作,「奇譚ルーム」を読もうかと思ったのです。しかしKindleのマイライブラリーを探している途中に見つけた,すでに読んでいた「魔女の隠れ里」を読むことにしました。内容はよく覚えておらず,好印象のみ記憶にある作品だったからです。
 この作品,読了してみてやっぱり面白かった。漢字には全てルビがふってある,少年少女向けの作品ですが(「はやみねかおる」は,そもそも児童冒険・推理小説作家),推理小説好きの大人が読んでもおもしろい。
 この「魔女の隠れ里」は,12作ある名探偵・夢水清志郎事件ノートシリーズの4作目ですから,シリーズ初期の作品ということでしょう。旅と料理の情報雑誌「セ・シーマ」のタフな編集者にして出不精の夢水清志郎を事件現場に引っ張り出す役目を負っている,シリーズではおなじみの伊藤真理嬢の初登場作品です。
 この本には二つの中編作品が入っています。「セ・シーマ」に謎解きを含めた紀行文を書いて欲しいと夢水の元にやってきた伊藤真理嬢。渋る夢水の背中を押したのが,夢水探偵の保護者の岩崎真衣,しつけ係の美衣,飼育係の亜衣という中学生の三つ子三姉妹。シリーズの語り手を務める夢水探偵の隣家のお嬢さんたちです。
 N県A高原のスキー場へ連れ出された夢水探偵が解くのは,雪霊の藪という竹藪に向かったままその竹藪直近で足跡が消えて行方不明になっていた3歳の男の子の事件。3日後に男の子は竹藪から離れた川の中で見つかりました。足跡は竹藪の直近で消えていて,そこから離れた川で遺体が見つかったという事件です。さらに一本の木に向かってスキーのシュプールが伸びていてその木を挟んで一本づつシュプールが別れ,木の前方でまた合流していた不思議。どちらも前例のあるトリックですが,特に木をまたぐシュプールの謎などは,方法はこれしかないという想像がつくもので,しかし前例の推理小説よりも効果的に使われており,むしろ前例があったのが勿体無いと思われる出来でした。
 そして「魔女の隠れ里事件」。「笙野の里」の村おこしで企画された推理ゲームの取材に,桜餅を餌に食いしん坊の夢水探偵を引っ張り出した伊藤真理嬢。もちろん隣家の岩崎三姉妹も一緒に笙野の里に出かけます。
 笙野の里にある「時空曲屋(ときまや)」という不思議な古屋敷の謎。外見に比べて中の部屋が異常に多く,また大きいという不思議な屋敷。「魔女」から送られてきた11体のマネキン人形,第一の犠牲者である伊藤嬢のコーヒーカップにだけ塩が入っていた事件,目撃された空を行く魔女,村長,村の医師,寺の住職が第二,第三,第四の犠牲者として「魔女」から指名され,寺の住職が密室で襲撃された事件,そして明かされる20年前の一家三人の消失事件。その20年前の事件と今回の「魔女」による事件の関係は?
 殺人事件は起こりませんが,不思議な事件が笙野の里で起こっていきます。
 最後に明かされる真犯人にはびっくり。この作品以降のシリーズを読んできた者は犯人に驚くでしょう。
 推理小説としても,ユーモア小説としても,面白いジュブナイルでした。

 ところで,12日はネットがいつになく重い日でした。みなさん台風情報をネットで見ていたのでしょうか?

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2019/07/05

電子書籍販売サイトが閉鎖

Ebook Microsoftは今年4月2日,電子書籍の販売を中止し事業を閉鎖すると発表し,7月からMicrosoft電子書籍を読めなくなっているそうです。すでに新規購入はできず,予約した本もキャンセルされるそうです。元の購入金額の全額がMicrosoftアカウントへ払い戻しになるようで,そこらへんはさすがMicrosoftだといえます。
 このような電子書籍のサービス終了に関して,拡大している電子書籍販売のリスクをまとめた記事がありました
 記事曰く,「購入すれば必ず物理的に手元に残る紙の本」ということですが,手元に残ってもどこにあるかわからず,読みたいときにはまた買うしかないのが紙の本ですwww。
 記事では,「電子書籍サービスを選ぶ段階で、ある程度体力がある事業者を選んでおく必要があります。」と言っていますが,「マイクロソフトより体力がある事業者って・・・?」ですよね。まあMicrosoftだからこそ,「元の購入金額の全額がMicrosoftアカウントへ払い戻しになる」と言えますけれどね。

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2019/06/24

三津田信三の「五骨の刃」

Gokotsu 先日,三津田信三の「六蠱の躯」を紹介しましたが,今回は同じ死相学探偵シリーズの第4作,「五骨の刃」を紹介します。
 他人の死相が見える探偵,弦矢俊一郎の探偵事務所に20歳そこそこに見える峰岸柚璃亜と菅徳代の女性が訪ねてきました。俊一郎がとっさに死視したところ,そのうちの一人,大学三年生の菅徳代にだけ死相が現れていました。二人は「無辺館」という今では廃屋になっている屋敷に入ったと話し始めます。そこは,その年の4月に凄惨な連続殺人事件が起こった館でした。当時この館では「恐怖の表現」という芸術展のオープニング・仮想パーティーが開かれており,その会場で「13日の金曜日」のジェイソンのような格好をした犯人によって4人の客が殺害され,1人が襲われたがかろうじて生還したという事件が起こりました。第一の兇器は剣,第二は鎌,第三は斧,第四は槍,第五は鋸。5つの凶器により殺傷されていました。
 そして11月,ホラー趣味の俊一郎を訪れた二人の女性と男性二人が廃屋になっている「無辺館」を訪れました。男性のうち一人が不動産会社に勤務しており,この館の鍵をあずかっていたのです。その館の中で四人を襲う怪異。命からがら四人は館から逃げ出します。
 そして,「無辺館」殺傷事件の慰霊祭が行われ,その慰霊祭の出席者の一人が心臓麻痺で死亡する事件が起こります。心臓麻痺なのに不思議なミミズ腫れが皮膚にできていました。おなじみの新垣警部と曲矢刑事の依頼で俊一郎が慰霊祭の参加者を死視したところ,4人の人物に死相が現れているのがわかります・・・・・。
 前作「五骨の刃」は,一部の設定を除いて本格ミステリーでしたが,今作はかなりオカルトに寄っている作品でした。ミステリー的には,フーダニットミステリー,犯人はいつもながら思いがけない人物でした。
 ミステリーファンの私としてはオカルト寄りは残念なのですが,なにしろ「角川ホラー文庫」の一冊ですから,まあ致し方ないと言えましょう。

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2019/06/20

三津田信三の「六蠱の躯」

Mukonokarada

 三津田信三の「六蠱の躯(むこのからだ)」は,死相学探偵シリーズの三作目です。死相学探偵シリーズは,死視という,人の死相が見えるという特殊能力を持った20歳の青年,弦矢俊一郎を主人公にした作品です。
 今回の依頼者は,お馴染みの曲矢刑事。はじめに3人の女性が襲われた事件が起こり,それは襲われると言っても下着姿にされた程度で,なんらいたずらされていないという事件です。その後,3件の凄惨な殺人事件が起こりました。胸,足,腕など,被害者女性の一部を除き酸で焼き殺すという事件です。特殊なキノコから取った催眠剤を染み込ませたタオルで被害者を眠らせて犯行を行い,そのタオルを現場に残していくという犯行で,連続殺人事件であることが明らかです。
 弦矢俊一郎はこの事件について相談されたのです。実際弦矢の探偵事務所を訪れたのは曲矢刑事ですが,そもそもの依頼者は警視庁の新垣警部らしい。俊一郎は新垣警部による警視庁の取り調べにも立ち会い,事件の謎を解きます。
 この作品,オカルトチックなのは,六人の体から美しい部分のみを残し,完璧な女性を作るというアソート殺人事件であること,その裏には黒術師の意向が働いていることくらいで,あとは極めて真っ当な本格ミステリーです。
 完全なフーダニットミステリーで,謎の一つは,犯行時,視線を感じた被害者が辺りを見回しても犯人と思える男がいない事,つまり見えない犯人の謎,それにとにかく犯人は誰かという一点。その意味で,非常に良くできている作品だと思います。関係者を集めて「さて・・・」という推理の披露場面では,俊一郎は指摘する犯人を次々に変えて真犯人を追い詰め,最後に「六蠱はあなたですね」と指摘する。私は,完全に予想外の真犯人でした。しかし女性読者なら,犯人の気持ちがわかって,ひょっとして予想外の犯人ではないかもしれませんね。私の周囲には,論理的にわかったわけではないけれど,犯人の気持ちがわかって,早くから「犯人を予想できた」という女性がいました。
 ネタバレをせずに紹介できるのはそんな事くらいで,後は読んでいただくしかありません。かなりすんなり読める作品でしょう。
 猫好きなのに猫が怖いという因果な曲矢刑事と俊一郎の飼い猫「僕にゃん」とのやりとり,相変わらず頼もしい相談相手の俊一郎の祖母,弦矢愛とのやりとりなどが楽しいアクセントになっています。

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2019/05/20

クリスティーの「白昼の悪魔」

Evil

 最近クリスティーづいている私ですが,「白昼の悪魔」を読みました。
 小学生のころから今までに,既にクリスティーの全作品を読んだことがあるはずの私ですが,この作品と別の作品を取り違えて記憶していました。別の作品というのは,「死との約束」です。「死との約束」は,親族や周囲に絶対権力をふるう嫌な女性が登場し,登場人物達も読者も早くクタバレと思うのですが,そんな女性をクリスティーは必ず殺してくれます。鉄板の死亡フラグの立った女性が,中東の焼け焦がすような陽光の下で死んでいたというミステリーです。この「陽光の下で」というのと「白昼の」というのが被ってしまい,私の頭の中で取り違えが起こったようです。
 さて白昼の悪魔ですが,舞台は英国デボンシャーのスマグラーズ島という小島です。本土とは満潮時には海面下に隠れてしまう細い渡り道でつながっている小島です。この島の邸宅を改造したホテルに,名探偵エルキュール・ポアロをはじめ10名程の滞在客が泊まっていました。その中に,アリーナ・マーシャルという女性がいいました。夫ケネスと彼の連れ子ともにこの島に避暑に訪れたこの女性は,アリーナ・スチュワートという名で有名な女優でした。女性として魅力的なこの女性を見て,滞在客の一人,パトリック・レッドファンという若い男が夢中になってしまいます。妻であるクリスチン・レッドファンと一緒に滞在しているにもかかわらず・・・。アリーナを巡る夫ケネスとパトリック・レッドファンの三角関係,もう一つ,アリーナとパトリックとその妻のクリスチンの三角関係。二つの三角関係が手際よく説明され,何か起こりそうな雰囲気がかもしだされます。
 ある滞在客は,アリーナのことを「男をたぶらかすわがままな悪魔」と呼びますが,上述のようにクリスティー作品では,そんな登場人物は被害者と決まっています。やがて島のとある浜で,彼女の絞殺死体が発見されました。
 この作品は1941年に発表されたものですが,クリスティーの傑作の一つとして広く知られています。
 物語のラスト,ケネス・マーシャルの娘リンダ(被害者アリーナにとっては夫の連れ子)が,「自分が継母を殺した」という遺書を残して自殺未遂を起こし,まさかそれが真相ということはないよねと思っていると,滞在者たちが集まっている場で,ポアロは別の人物を犯人として言及します。しかし,その男で犯人は決まりと思ったとたん,急に矛先を変えて別の人物を真犯人として指摘するのです。論理的に推理が成り立っているとしても,物的証拠がなく,犯人に動揺を与えて自供を促す作戦でした。
一件落着の後,皆にせがまれてポアロが真相を見抜いた推理過程を披露します。読者は冒頭のシーンを読み返し,そこにトリックの手掛かりが指摘されていたことに「してやられた」感を覚えるのです。
 やはりクリスティーは面白い。次は何を読もうかな?

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2019/05/03

霜月 蒼の「アガサ・クリスティー完全攻略」

Agasa

 「アガサク・クリスティー完全攻略」は,著名なミステリー評論家,霜月 蒼によるクリスティー全作の解説書です。早川書房のクリスティー文庫の1作で,クリスティー文庫の各作品と同じ装丁になっていますから,公認版のような本といっていいでしょう(何に公認されたのかわからないが・・・)。最近このブログでも,クリスティー作品を再読した感想などをアップしていますが,それはこの本を読んで,再読したくなったからという事です。
 エルキュール・ポアロ長編作品,ミス・マープル長編作品,トミー&タペンス長編作品,短編集,戯曲,ノンシリーズ長編作品,そして特別収録 ポアロとグリーンショアの阿房宮に分類されています。それぞれ簡単なあらすじが付いていますが,もちろんトリックや犯人には言及されておらず,未読の人も安心して読むことができます。評論の上でネタバレが必要なものは,ネタバレ部分を巻末に抜き出してあり,クリスティーの原作を読んでから巻末を読めばいいようになっています。
 作品には,星マークで霜月氏が考えるランキングがつけられています。同意すべき点もあり,そうでない点もあります。
 たとえば傑作として名高い「オリエント急行の殺人」は星四つです。最高は星五つで,「白昼の悪魔」「カーテン」「鏡は横にひび割れて」「ポケットにライ麦を」「五匹の子豚」などがそれに相当します。「ナイルに死す」は星四つ半,「ABC殺人事件」が同じく星四つ半。「オリエント急行の殺人」は,それよりわずかに評価は低いのです。ここら辺の感覚は,私と同じですね。「オリエント急行」は,私の中では横溝正史の「本陣殺人事件」同様に,史上初という特異なトリックで世評は高いのですが,作品としての面白さは「同じ著者の他の作品のほうがおもしろい」と感じます。
 霜月氏に同意しない部分もあります。「マギンティ夫人は死んだ」を霜月氏は高く評価しています。クリスティーっぽくなく,ポアロが街を始終移動し続け,視点もポアロに固定し,読者はポアロの慨嘆や印象や思考を共有し,すべてはポアロの目を通じて見て,ポアロと共に空間を移動する。それはハードボイルドミステリーのやりかたで,ハードボイルド好きの霜月氏は,これに共感しています。また,登場人物の多くがクリスティーにしては珍しく「裕福でない人」であり,そこらへんもハードボイルド的だと霜月氏は考えます。だから玉に瑕なのは中盤からのオリバー夫人の登場で,ハードボイルド的な雰囲気を壊しているというのです。しかし,被害者は雑役婦であり裕福でない人かもしれませんが,殺害の秘密は裕福な家庭にあり,事件の根はお屋敷にあるので,私はそれほどハードボイルドを意識しなくていいような気がしました。それにクリスティーが被害者を裕福でない人に設定したのは,殺人の動機となった行為を裕福な人が行うのは,単に不自然だからではないかと思います。
 ハードボイルド好きの霜月氏と,謎で背中がぞくぞくするのが好きな私は,微妙に意識がずれていて,私としては,同意できる部分とできない部分がありました。
 ちなみに,私もハードボイルドが嫌いではありません。霜月氏は本書の中で「ハードボイルドの流儀は,謎解きミステリの快楽と矛盾するものではない。ハードボイルドは語り口の名称であり,謎解きミステリは構造の名称であるからだ。」と述べています。まさにその通りですね。

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2019/05/02

クリスティーの「像は忘れない」

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 クリスティーの「像は忘れない」は,クリスティーのポワロシリーズの最終作。本作は1972年作品で,ポワロ物の最終作「カーテン」は1975年の出版だから,その順番でいけば最後から2作目の作品という事になりますが,「カーテン」は実は1943年に執筆された作品で,自身の死後出版する様に契約がなされていた作品です(実際には死後ではなく,存命中に出版許可を出したもの)。
 文学者昼食会に出席した推理作家のオリバー夫人(クリスティー自身をモデルにしたおなじみのおばさま)が,知らない女性から,オリバー夫人の名付け子,シリヤ・レイヴンズクロフトの両親の十年以上前の心中事件は,父親と母親のどちらが相手を殺して,後に自殺したのかを調べて欲しいと言われるところから始まります。聞けば,息子がシリアと恋仲になり,結婚を考えているからとの事。
 奇妙に思ったものの,オリバー夫人は旧知の名探偵ポアロに調査を依頼します。ポアロは夫人自身が当時の関係者を回って話を聞き,「忘れていない象」を探す様アドバイスします。ポアロ自身は,当時の警察の調査状況を調べます。
 今回改めて年代などを調べたわけですが,出版された1972年と言えば私が子どもの頃で,クリスティーを昔の作家という感覚で認識していた私としては,同時代に生き,私が知っている時代に新作が出ていたという事に驚きます。
 しかし,クリスティー最晩年の作である事は確かです。謎は「ヒロインの両親のどちらがどちらを殺したか」という一点,最後に至って関係者の驚愕の事実が分かりますが,クリスティー中期作品の読者に挑戦する緻密な筋立て,張り巡らされた多くの伏線,それらを見事にラストに向って回収していく緊張感は失われ,論理的なポアロの推理による解決ではなく,関係者の告白による解決など,本格推理小説というより面白いクライムストーリーとなっています。まあ,2時間ドラマの様な感じと言えばいいでしょうか。そんな筋立てのせいか,イギリス製作のテレビドラマ版では,原作にない水治療院のシークエンスを加えていました。
 過去の事件を解き明かすというという作品です。そもそもクリスティーは過去に根をもつ事件を描く事が多いです。しかしそれは,現在時点で事件が起り,その事件の解明のために過去を探ったら,その真相は過去にあったという事が多いわけです。ところが「象は忘れない」は,事件は全く過去のものなのです。過去の心中事件の真相解明です。そのため,読者はミステリーの緊迫感よりまったりしたクライムストーリーの楽しさを味わえるわけで,ベッドで横になってから眠る前に読んでいくのに最適です。しかしイギリス製作のテレビドラマ版では,過去の事件だけでは緊張感不足という事で,水治療院での現代の殺人事件をプラスしたのでしょう。現在では何も事件がおこらず,しかも殺人ではなく過去の心中事件の解明,それも関係者の尋問が主体・・・,「それだけではちょっと」と思って,現在の殺人事件を追加したテレビドラマの脚本家の気持ちはよくわかります。

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2019/04/25

クリスティーの「NかMか」

Norm

 クリスティーの「NかMか」は,トミーとタペンスのベレズフォード夫妻が活躍する長編小説です。ベレズフォードシリーズでは,屈指の傑作とされている作品で,私は何回か読んでいるはずで,さらに英国BBCが制作したテレビドラマも見ているはずですが,すっかり内容は忘れていて,たいへん面白く読みました。
 第二次世界大戦中,ドイツのスパイを追っていたイギリス情報局員が,「NかM。ソング・スージー。」と言う言葉を残して死亡します。情報局はNとMはドイツ人の男女二人のスパイを表し,ソング・スージーはイングランド南部の保養地,リーハンプトンにあるゲストハウス「サン・スーシ(日本語では「無憂荘」)」の事であるのを突き止めます。そこで,ドイツ側に知られていない人物としてトミーを無憂荘に送り込むのですが,そこには情報局のグラント職員とトミーの会話を盗み聞きしたタペンスが先回りしていました。
 というわけで,無憂荘という限られた館,そこに滞在している人々のうちだれがNとMなのかを突き止めるベレズフォード夫妻の活動が始まります。
 ポアロやミス・マープルが活躍する本格推理小説と違って,コメディー仕立てのクリスティーのスパイものは実に楽しい。特に本作はNとMの正体をめぐって,クリスティーのスリラーとしては最も本格推理小説寄りの作品で,ミステリーファンも満足する作品になっていると思います。
 トミーとタペンスシリーズでは,「親指のうずき」も印象的な謎に満ちている作品ですが,こちらは印象的な分,筋立てをかなり覚えているので再読までには至りません。「NかMか」は「親指のうずき」に次ぐ面白さの作品といえそうです。

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2019/04/09

アガサ・クリスティの「動く指」

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 クリスティの「動く指」は,おそらくクリスティ作品としては有名でない方の一作だと思います。クリスティ作品は全作読んだ事がありますが,内容を忘れてしまっている作品です。だから再読(本当は再再読くらいかもしれない)。
 飛行機事故でけがをして,静かな田舎で静養する様医師から勧められたジェリー・バートンが,妹のジョアナと共にやってきたのは,リムストックという田舎町です。バートンが引っ越してきたとたんに,「ジェリーとジョアナは本当の兄妹ではない」という内容の,下品な言葉を連ねた誹謗中傷の手紙を受取ります。宛先はタイプライターで打ってあり,手紙自身は印刷物から活字を拾って貼付けたものでした。
 ジェリー達は,はじめは自分たちがよそ者だからそのような馬鹿げた手紙を受取ったのだろうと考えましたが,診察にやってきた町の医師から,町の誰彼となく同様の誹謗中傷の手紙を受取っている事を告げられます。しかもその内容が嘘としか思えず,町の誰もが信じていないという手紙です。
 そんな中で,町の事務弁護士ディック・シミントンの妻が自殺する事件が起りました。「次男が夫の子どもではない「という手紙を受取った直後の事件でした。誰も信じていない嘘くさい一連の手紙ですが,へたな嘘も数打ちゃ当たるという事で,ひょっとして真実を掘り当てたのか・・・・?
 さらに,シミントン家のお手伝いのアグネスが,以前一緒に働いていたバートン家のメイドであるパトリッジに相談したいことがあると電話してきてバートン家に来る事になっていたにもかかわらず,ついにやって来なかったという事件が起ります。アグネスはそのまま行方不明になってしまったのです。結局アグネスは,シミントン家の階段の下の戸棚で他殺死体となって発見されました。アグネスはディック・シミントンの妻が自殺した日から様子がおかしく,誹謗中傷の手紙をシミントン家のポストに投函した者を見たのではないかと思われました。
 誰も信じていなかった誹謗中傷レター事件が殺人事件に発展してしまい,町の牧師の妻が旧知のミス・マープルを呼びよせます。この作品全体の75%という終盤で,やっと名探偵ミス・マープルが登場します。この後,あまりミス・マープルの活動も描かれませんが,残り25%で見事に真犯人を指摘します。
 この作品全体がジェリー・バートンの一人称で語られますが,ジェリーとミス・マープルが深く関係しているわけではない為に,たまたまジェリーが牧師宅を訪れたときくらいしかミス・マープルと接触がなく,マープルの探偵活動や発言はそれほど描かれません(ジェリーとしては描き様がないのです)。ミス・マープルの推理は,真犯人が捕まってすべてが終わった後,彼女の口から語られます。
 この作品では,町の人々がそれぞれ個性的に印象的に描かれ,ミステリーである前に読み物として面白いものに仕上がっていました。しかしまあ謎ファンとしては,もうすこしミステリー要素が濃かったらなあとは思いました。

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2019/04/03

三津田信三の「四隅の魔」

Yosumi  以前刀城言耶シリーズを紹介した三津田信三の別のシリーズ,死相学探偵 弦矢俊一郎のシリーズです。他人の死相が見える主人公探偵。今作でもそれが手がかりとして生かされています。
 「四隅の間」とは,真っ暗な部屋で5人が四隅に配置され,まず二人配置された一カ所の隅から1人が次の隅に向い,その隅の人にタッチします。タッチされた人は次の隅まで移動して,その隅の人にタッチ,タッチされた人は次の隅に向い・・・という循環を行います。それが最高潮に達した頃,そのなかの1人が部屋の中央に移動し,循環から抜けます。すると「隅の人タッチ」の循環が途絶えるはずですが,途絶える事なく循環が続く。それは霊か魔物がその部屋に召還され,それが循環に加わるからというオカルト儀式なのです。
 大学の非公認サークル「百怪倶楽部」のメンバー男性2人,女性3人が,寮の地下室で「四隅の間」を行うところからこの話が始まります。その儀式の最中,真っ暗な部屋の真ん中に抜けた女子学生が突然死を遂げます。死因は心臓マヒで,警察の捜査でも事件性はありませんでした。
 やがてもう1人,「四隅の間」に参加していた男子学生1人が歩道橋から転落して死亡。その段階で,女子学生二人が弦矢俊一郎をたずね,解決を依頼,俊一郎はその二人に様相の異なった死相を視ます。実はその前に,百怪倶楽部の周辺に黒衣の怪しい女性が目撃されていました。
 そしてそれから,もう1人の男子学生が男子寮の部屋で首を吊っているのが発見されます。彼の首に警察は絞められた跡がかすかについているのを発見,3件目にしてはじめて犯罪として認められます。
 最後は関係者全員を集めての弦矢俊一郎謎解き。意外な犯人が指摘されます。手がかりになったのは,女子学生の死相が異なっていた事,それに途中から1人の死相が消えた事。なぜ死相が消えたのかが,犯人の手がかりになりました。
 とても面白い推理小説です。最後に本筋とあまり関係ないちょっとした怪異が認められるのは三津田信三のお約束ですが,オカルト風の物語りはおおむね本格推理小説としておわります。

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