2017/10/08

鯨統一郎の「崇徳院を追いかけて」

Sutokuin 鯨統一郎の「崇徳院を追いかけて」は,シリーズの最新作です。カウンター席だけの小さなバー「スリーバレー」で,常連客の歴史学者,早乙女静香とライターの宮田六郎が,邪馬台国の所在地をはじめ様々な歴史上の謎に新しい推理を加えるというミステリーシリーズ,そのシリーズ初めての長編です。
 舞台はスリーバレーを飛び出して主として京都。崇徳院と西行,それに西行を崇拝する新興宗教団体が絡む二つの殺人事件の謎を解いていきます。殺人事件の方はともかく,崇徳院が死後に起こした祟りの数々の謎を解き明かすところが,このシリーズのいつもの雰囲気を残しています。
 前作,「新・日本の七不思議」では,それまで仲が悪かった(というより早乙女静 携帯がやたらと宮田六郎につっかかる)早乙女と宮田が仲良くなり,何があったのかという話がありましたが,結局この京都の事件があったわけです。

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2017/10/06

二階堂黎人の「巨大幽霊マンモス事件」

Manmos 二階堂黎人の「巨大幽霊マンモス事件」は二階堂蘭子シリーズです。
 ミステリー好きが参加する「殺人芸術会」月例会で,おなじみのシュペア老人が出題した事件。1920年の出来事。時代は第一次世界大戦が数年前に終わり,ロシアでは白軍が赤軍と争っていたが,その敗北がほぼ明らかになっている時代です。
 当時ドイツ軍人であったシュペア少尉が白軍の砦「死の谷」へ派遣される。「死の谷」への物資補給のための「商隊」に身分を隠して合流しての旅。その旅の途中に立ち寄った館で起こる二件の密室事件。そして死の谷には絶滅したはずの巨大なマンモスが居た。
 密室とマンモスの真相は? それを二階堂蘭子が解決する安楽椅子探偵潭です。
 マンモスの真相はSF的。二階堂黎人的と言えるでしょう。本格ミステリーを読むというより,物語をたのしむつもりで読んだ方が,よりたのしめるでしょう。

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2017/09/30

有栖川有栖の長編推理小説「乱鴉の島」

Rananoshima 有栖川有栖の2006年度長編作品,2007年度本格ミステリベスト10の1位になっています。
 「乱鴉」とは「らんあ」と読みます。「鴉」はカラスの事で,カラスの乱れ飛ぶ島が「乱鴉の島」。
 おなじみの社会学者火村助教授と推理作家有栖川が最近お疲れで,下宿の婆ちゃんの計らいで骨休めに向ったのは伊勢賢島から漁船で渡った小島。ところが,「鳥島(とりしま)」へ行くべきところファックスの文字の読みをまちがえて「烏島(からすじま)」に行ってしまった二人。その島には住民は既になく,廃屋が立ち並び,著名な象徴詩人が別荘として居住している大きな屋敷が1軒だけ生きていた。その屋敷を訪れていたのは子ども二人を含む8人の客,それに別荘管理人夫婦。キャッチボールをきっかけに二人の子どもになつかれて,この家のご厄介になる事になった火村と有栖川。しかしどうもこの家の雰囲気がおかしい。聞けば象徴詩人のファンの集まりだというのだが,それだけではないような感じがする。
 そこへヘリコプターで押しかけてきた著名な青年実業家。彼の言葉から,客の一人が元医学部教授の産科医で,クローン技術研究の権威である事が分かる。青年実業家は,自分のクローンを作ってもらう事を願って,この島に押しかけてきた。それでは,他の客達も同じ目的で集まってきているのか?
 それが通奏低音のような謎になり,やがて起こる殺人事件。管理人の夫が鉄アレイで殴られて,さらに青年実業家が崖から落とされて死んでいるのが発見される。
 犯人はだれかという謎に加えて客達がこの島に滞在している目的の謎。
 読み終わって,有栖川有栖作品としては本当に年間ベスト10の1位なのか?という感じはするのですが,もちろんつまらない作品ではありません。最後の火村助教授の謎解きも見事でした。
 ただ,作品を通じての通奏低音であった客達がこの島に集まった謎と殺人事件の謎が密接に絡んでさらに深い謎になっているというわけではないところが,もう一つこの作品の印象を希薄にしている様に感じました。

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2017/09/28

エドワード D ホックの「大鴉殺人事件」

Oogarasu 短編作家という印象のあるホックの長編「大鴉殺人事件」を読みました。以前読んだ事があるはずですが,私は全く覚えていませんでした。
 はじめ著名なニュース解説者,ロス・クレグソーンからビクター・ジョーンズという人物に宛てた手紙が紹介されます。20数年前,彼ら二人ともう一人の女性がある犯罪を犯し,最近になって女性から名を成したクレグソーンに脅迫があった事を知らせる手紙です。クレグソーンは思いあまって近々開かれるアメリカ探偵作家クラブ(MWA)の受賞パーティーでその事を公表し,脅迫から逃れる決心をしたという内容でした。しかしやはり名を成しているらしいビクターはそれをよしとせず,クレグソーンを殺そうと思い立ちます。
 そして授賞式の日にクレグソーンが遠隔式の銃というべき凶器によって殺害され,さらに脅迫していた女性もやがて首を絞められて殺されているのが発見されました。
 MWAは,現在は推理作家,以前は探偵だった副会長のバーニー・ハメットに事件の解決を正式に依頼,バーニーはたまたま取材に訪れていたマンハッタン誌の女性記者スーザン・ベルトと共に事件解決に飛び回ります。
 この作品の謎の構造はシンプルです。犯人であるビクター・ジョーンズは,数多い登場人物の中のだれなのか? 本名はビクター・ジョーンズ,成功した今は別の名を名乗っているわけですが,それが一体だれなのかというのがこの作品の唯一の謎です。まあ途中,過去の三人の犯罪がどのようなものだったのかという興味もあるにはありますが,最大の興味は,だれがビクター・ジョーンズなのかという事なのです。
 その謎は最後にバーニーの推理により明らかにされますが,長編を支える謎としてはちょっと弱い感は否めません。また,たくさんの登場人物が印象深く描写されているわけでもなく,途中何回もこの名前の人はだれだっけと前を参照する(電子書籍では,名前により全文検索をかけて前のその名前の登場場面を読むという作業をおこなう)事が多かったのです。だれがビクター・ジョーンズだったかという事については,登場人物の中でも登場場面は少ないが最も印象に残っていた人物が彼であったと分かり,「まあそうですよね」と感じました。もうひとひねりする作家なら,男性と思ったら実は女性だったとかいう事になるのでしょうが,そんなひねりもありませんでした。
 色々文句を言いましたが,それほどつまらない作品というわけではありませんよ。

(この作品,上の写真で分かる様に,懐かしい早川ポケットミステリーのKindle版です。ちょっと珍しい。)

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2017/08/08

久しぶりにサイモン・アークシリーズを

Simonarc 久しぶりにエドワード・D・ホックのサイモン・アークシリーズを読みました。
 サイモンアークシリーズについては,2010年の時点でこのブログで紹介しました
 オカルト的な事件が起こり,結局現実的に解決するというシリーズ。もちろんそこには不思議があり,それを行うトリックがあり,すっきりした現実的な解決があります。
 今回読んだのは第二短編集です。この短編集には,真鍮の街」という中編を含み,それを含めて8作品が収められています。再読のはずですが,全く覚えていません。文章からイメージできる周りの景色のみ多少既読感,既視感があります。
 サイモン・アークシリーズは全5巻出ています。これを読み終わったら,ホック作品はニック・ベルベットシリーズの再読に向おうか・・・。

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2017/08/02

小島正樹の「呪い殺しの村」

Noroikoroshi

 このところ小島正樹づいている私ですが,このたび読んだのは海老原浩一を探偵役に据えた「呪い殺しの村」です。2015年に出版された作品で,海老原浩一シリーズとしては,いまのところ最新作に当たります。
 東北新幹線を白石蔵王駅で降りてその奥地にある不亡村。そこに住む古くからの憑き筋の家柄,糸瀬家。調査に訪れた海老原と助手を買って出た恩師の令嬢である沙川雫美の前で若い糸瀬家当主,糸瀬俊一郎により「千里眼」「予知」「呪殺」が行われる。
 一方,東京で起こった二つの殺人事件。それを捜査していた警視庁捜査一課の鴻上心と鑑識課の大倉丈吉も,被害者が不亡村出身であった事から不亡村を訪れる・・・。
 超能力の謎と殺人事件の謎,不亡村でかつて起こった神隠しの謎。それらの謎が深まり,ラストの怒濤の推理と解決,そしてどんでん返し。やはり小島正樹作品ですね。
 しかし初期の頃の複雑な物理トリックを使って謎を作り出す手法が影を潜め,というよりそれで作品を支えるということはなくなり,最近の作品ではプロットで謎を作り出す様にまなっていて,本格推理小説としてより面白くなっています。村と旧家と洞窟と・・・。やや古くさい定番的な舞台設定であるこの作品も,初期の頃の物理トリックを駆使した作品より面白く読みました。

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2017/07/27

小島正樹の「武家屋敷の殺人」

Bukeyashiki

 小島正樹の「武家屋敷の殺人」は,序章としてまず武家屋敷の当主の手記から始まります。かわいがっていた異母妹が,その恋人である才藤を屋敷で殺したという事実を述べ,屋敷の氷室に葬ってミイラ化したその死んだはずの彼氏の姿を,街で,劇場で,さらに武家屋敷の敷地内でさえ,さまざまなところで目撃する様になり,だんだん当主の精神が蝕まれていく様子が手記で語られます。
 そして本文に入り,孤児院で育った若い女性,瑞希が弁護士の川路に自分の生家探しを依頼し,川路弁護士はカヤック仲間の那珂邦彦と共に生家探しを始めます。那珂邦彦はあっという間に瑞希の生家を推理で探し出し,前述の武家屋敷にたどり着きます。そこで出会う瑞希の母親,当主の異母妹です。当主の手記とは異なり,女性の母親は,殺したのは才藤ではなく,ストーカーである別の男だったと語る・・・。
 その後に起こるミイラと白骨が眠る氷室の消失等,これでもかこれでもかという謎の数々(まあ小島正樹ですからねwww)。最後はどんでん返しの連続。結局,敵だと思っていた人が味方であったり,味方だと思っていた人が敵であったり,その状況もめまぐるしく変化します。
 解決編は,最初に川路弁護士の推理と解決が語られ,さらに解決編第二弾ではそれが間違いだとして那珂邦彦が彼の考える真相を語り,最後にヒロイン,瑞希の那珂邦彦に当てた手紙が真相を語ります。川路の解決は事件首謀者による筋書き通りにいわば誘導させられたもの,次の那珂邦彦の解決は,全てが分かっていながら,瑞希の境遇をおもんばかってわざと真相をはずしたもの,そして最後の手紙は,ふとした疑問から川路が推理を進め,その結果を川路が瑞希に話した内容です。それこそ事件の本当の,そして驚愕の真相を語るものでした。事件はまあまあのめでたしめでたしで終わり,斜に構えていた那珂邦彦も率直になってめでたしめでたし。
 そういえばこの作品,初めからストレートに終わりに至るという構造ではなく,はじめの当主の手記,その武家屋敷に住む瑞希の母の述懐,そして上で書いた3種類の解決と,同じ事件を合計5つの記述で紹介し,それぞれ語る人の事情や勘違いで一つの事件が様々な解釈をみせ,最後に瑞希から那珂邦彦への手紙(それはとりもなおさず川路の最終的な推理結果なのだが)で完全な解決に至るという,そんな構造の作品でした。
 ちなみにこの作品,那珂邦彦シリーズと呼ばれています。いまの所このシリーズは,もう一作あるようですね。
 謎好きにはこたえられない推理小説でした。

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2017/07/25

小島正樹の「浜中刑事の迷走と幸運」

Meisoutokoun

 先日紹介した小島正樹の「浜中刑事の妄想と檄運」が中編2本から成る中編集だったのに対して,浜中刑事シリーズ第2弾である「浜中刑事の迷走と幸運」は長編作品です。
 最初にフリースクールの生徒,里優馬による暴力教師の刺殺が描かれるという到叙作品であることは前2作の中編と同じです。しかし,塀で囲まれ,一種の大きな密室であるフリースクール,その中で発見される暴力教師の死体,最初に犯行が描かれ犯人は塀の外には出られないフリースクールの生徒であるにもかかわらず,フリースクールから遠く離れた塀の外で凶器が発見される不思議。しかも里優馬が刺殺したはずの暴力教師の刺創には生体反応がなかった。つまり里優馬が刺した時には既に暴力教師は死んでいたのです。そしてフリースクールの別の教師の失踪事件とフリースクール自身の闇。悪い者が罰せられ,里優馬がラストで漏らす言葉,「刑事さん達が事件を担当してくれた。僕にはそれが幸運でした。」という言葉が示す様に,一種のハッピーエンドで事件は解決します。
 このシリーズ,題名に浜中刑事の名前が入っていますが,探偵としての手腕は相棒の先輩,夏木大介刑事の方が上らしい。少なくともこの作品では夏木の名探偵ぶりが目立ちます。それでも浜中のおかげだと言ってくれる夏木先輩。いいコンビですね。

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2017/07/18

小島正樹の「浜中刑事の妄想と檄運」

Hamanaka_mousou

 小島正樹の「浜中刑事の妄想と檄運」は,2本の中編を収めた本です。ミステリーのジャンルとしては,2作とも初めに犯人の犯行が描かれる到叙推理小説。
 主人公は,村の駐在さんを夢見る刑事,浜中康平と先輩刑事の夏木大介です。浜中康平はいつもひょんな偶然から手柄を立てまくり,県警本部長賞の常連,いまや若手ホープ刑事として高い評価を得ている人物です。以前同じ作者の「祟り火の一族」をこのブログで紹介しましたが,その「祟り火の一族」では脇役だったのが浜中康平です。なにしろ手柄をたてまくる浜中と夏木のコンビは,自由に動かした方が成果が上がるという事で,泊1課長や美園田第2係長ら県警本部の上司も彼ら二人を遊撃班に任命し,事件の中を自由に動く二人。
 到叙推理小説ですから,犯人の犯行行動は全て明らかにされています。しかし一部説明が省略され,それを読者が勘違いし・・・,結果として最後にあっと驚く推理小説になっています。
 小島正樹氏の本格系の推理小説は,トリックが細かく,説明されてもよくわからない場合もあるのですが,今回は読みやすい作品となっています。

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2017/07/10

井上靖の「私の西域紀行」

Seiiki 先日報告した様に,沢木耕太郎の紀行「深夜特急」を読んで,次に何を読もうと考えて選んだのが井上靖著「私の西域紀行」です。
 シルクロード沿線,中国西域は,中学生の頃ヘディンの「さまよえる湖」を読んで以来いつかは行ってみたいと思っていた場所です。小中学生の頃読んだ本によって,いつか行ってみたいと思う場所等のがいくつかあって,その中の一つ,「バスカビル家の犬」により触発されたイギリスダートムーアへは,2012年,2013年に行ってきて,おそらくまた行くと思います。そして「西域」。さまよえる湖ロブノール,その湖畔に栄えたという桜蘭王国とその後継王国鄯善,精絶国,亀茲国,疏勒国,天山山脈,崑崙山脈・・・。その名を見るにつけ行ってみたい思いが募ります。
 そんな西域の旅行記。沢木耕太郎氏の「深夜特急」に描かれたヒッピー旅行は,現実的には今私にはできないとして,この井上靖氏の西域紀行の旅は,ことによったら私でもできるかもしれないというものです。西域の風景,人々,事情・・・,「深夜特急」ほどディープでないだけ私には現実感があります。
 この本で,井上靖氏のこの紀行以前の西域に関する小説が,全くの想像と文献を元に書かれていたと知って驚きました。

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