ライブドアのニッポン放送株取得
ライブドアがラジオ局ニッポン放送の発行済み株式の35%を取得し,同放送が筆頭株主となっているフジテレビジョンを中核とするフジサンケイグループと資本・業務両面で提携して,ネットとテレビ・ラジオを融合したビジネスをめざす方針を表明したのは,2月8日のことでした。
これに対して,同放送を子会社化するために同放送株を公開買い付け(TOB)していたフジテレビは反発し,ライブドアの堀江社長がレギュラー出演している「平成教育2005予備校」の13日放送を急遽延期にするという,実にわかりやすい対応をとりました。さらに,ニッポン放送株の公開買い付けでめざす株数の下限を,従来の50%超から25%超に引き下げ,期限も2月21日から3月2日に延期すると発表しました。フジが25%以上のニッポン放送株を持つことで,ニッポン放送のフジに対する議決権を失い,ライブドアのフジに対する影響力を排除できるということです。
インターネット企業が,メディアのコンテンツを欲しがる気持ちは理解できるし,誰も気づかない間に,電光石火,35%の株式を握った堀江社長の手腕は,さすがだと思います。ただ,メディア企業の買収というのは,世界的に見ても成功は少ないといわれています。メディア企業の業績は,結局,その企業に所属するクリエーター(ラジオ,テレビ局ならプロデューサーやディレクター)の手腕に依存し,有能なクリエーターが会社に嫌気が差して退社したりやる気をなくせば,すぐ業績が悪化するというところがあるからです。
ケースは違いますが,かつて,レコード会社のエイベックスが,創業者であるプロデューサーを解雇しようとしたら,有力アーティストがそっちの方へ付いていってしまいそうになって,株価が暴落し,解雇しようとした社長の方が退任して騒動が収まったことを思い出します。メディア企業の業績は,結局その企業に属するクリエーターたちの人材に大きく左右され,その人たちのやる気が無くなれば,今業績のいい会社でも,すぐに悪くなるものだと思います。
その意味で,ライブドアの今回の株式取得で,クリエータたちがやる気をなくすかどうか,「これまでより面白いことができそうだ」または「これまでより面白いものが作れそうだ」と思うかどうかが,結局今後のニッポン放送(フジテレビを支配できるかどうかは不透明ですが)の業績に係わり,この株式取得が成功だったか失敗だったかの鍵になると思います。
ライブドアのニッポン放送株取得は,いわゆるハゲタカファンドによる株の買占めと異なり,金だけが目当てと言うわけではなく,ライブドアとの提携を実現する手段です。堀江社長も,ニッポン放送なりフジテレビなりとの提携により,こういうことをやりたいとか,こう変えるとか,もっと具体的なことを言えば,案外フジの中から賛同者が現われるかもしれないんですがね。もっとも,あまり手の内を明かすと,同業者に真似されるかもしれませんが。
ところで,メディア企業でなくても,企業買収による環境の変化で,買収された方の企業の社員たちのやる気が低下するか上昇するかが,ある程度企業買収の成否を分けるように思われます。中国企業によるIBMの買収は,元IBM社員たちのモチベーションにどう影響したのでしょうか?
| 固定リンク
コメント
ライブドアがニッポン放送株を時間外取得したことは、ルール上からは問題がないとは思いますが、デリカシーが若干低いのではと感じられます。その一方フジテレビの対応はメディアの私物化を大きく主張してますが、「平成教育2005予備校」の13日放送を急遽延期はそれこそメディアの私物化を地で行ってる!これに対する批判がどのメディアもブログでも取り上げてないのはなんとしたものか。また新株予約権100%取得についてもメディア私物化ではないのか。まず株主に対する軽視も甚だしい(本来はニッポン放送は株主が持主で、取締役は株主から会社運営を委託されているもの)私物化そのものと考えますがいかが?
投稿: ○ボーズ | 2005/02/25 12:33
コメントありがとうございます。
フジテレビは,公共の電波とか,メディアの私物化とか言っていますが,地上派,BS,CS,ケーブルテレビなど,数十のチャンネルから視聴者が選択する時代に,公共の電波という考えは,古いのではないかと思います。まして,インターネットで動画を配信する時代に,電波が公共のものだという考えは違和感があります。電波でしか動画を発信できなかった時代に,免許を得た一部のメディアが動画の配信を行っていた,古き良き時代の考えです。
メディアの私物化が悪いというのも,古い時代の話です。今は何しろ,テレビ,インターネットなどによって,腐るほど動画の発信が行われており,その中から視聴者が自由に選んで楽しむ時代です。それらの発信が,私物化して悪いわけはありません。数少ない動画発信ではないのです。腐るほど発信されているのです。私物化した発信を,視聴者が選択して視聴する時代です。
投稿: Alice堂 | 2005/02/26 00:50