伊坂幸太郎著「アヒルと鴨のコインロッカー」
大学に合格し,一人暮らしをはじめるために引っ越してきたアパートの隣人から持ちかけられた本屋襲撃。目的は同じアパートに住む留学生にプレゼントするための「広辞苑」1冊。この現在の話と2年前の話が交互に語られる。初めはたいして関連があるようには見えなかった「現在」と「2年前」の話が,それぞれの登場人物を介してつながってきて・・・。
2004年 第25回 吉川英治文学新人賞受賞作品。そしてこのほど映画化された作品です。わたしも,映画の紹介番組を見て読んでみたくなりました。「現在」と「2年前」の話を交互に描く構造自体がトリックを内包しているミステリーです。
読者を冒頭の謎で引っ張っていく本格派タイプのミステリーでなく,初めは現代の若者達の社会と生活を描く青春小説としか読めません。ミステリー好きとしては,「創元推理文庫」というブランドを信用して我慢して読んでいると,やがてミステリーならぬ青春小説に引き込まれていって,もうミステリーなどどうでもよくなっていきますが,しかし最後には「だまされた~」となる,ちょっと哀しい物語です。
「現在」の物語の語り手「椎名」,そして「河崎」,留学生「ドルジ」,河崎の元カノで「2年前」の物語の主人公である「琴美」,琴美の勤務先のペットショップの店長「麗子さん」。これらの登場人物の生活と交わるのが,動物虐待を繰り返す3人の男女,バスの痴漢,ペットショップの傲慢な女性客など。これらの人々とのエピソードは,現代では本当にありそうないやな話で,心楽しく読めませんが,それぞれそれなりにやっつけられるのでご安心を。
私のようなガチガチの推理小説好きが「ミステリー」として読む本ではありませんが,普通の小説として読めば,最後に「え~」という結末が待っています。そして,この作品が映画化。撮影された仙台では5月から公開され,東京でも6月23日から公開されています。この作品の映画化には一工夫必要なはずで,映画のほうもぜひ見たいです。
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