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2007/06/16

長谷川三千子著「バベルの謎」読了

 ユダヤ教とキリスト教とイスラム教の共通の聖典である旧約聖書。その中の天地創造からはじまるモーゼ5書は,モーゼが神の言葉を書き取ったといわれている部分です。実際には,少なくとも4人の著者がいる事が分かっているそうです。その最初の部分,「原初史」と呼ばれる「創世記」第1章から第11章まで,アダムとイブのエデンの園の話,カインによるアベルの殺害,洪水とノアの箱舟,そしてバベルの塔の話,これらはその内の2人の人物によって書かれていることが分かっています。オリジナルの物語が一人によって書かれ,後にもう一人がそれに追加して,オリジナルの物語の性格を変えてしまったと著者は言っています。
 この「バベルの謎」という本は,キリスト教徒でもユダヤ教徒でもなく,また聖書の研究者でも無い著者が,ある別の研究での必要から旧約聖書を読んだ事から生まれた本で,「原初史」のオリジナル部分の作者(これをヤハウィストと名付けていますが)が書いた部分だけを読み解いて,「原初史」のオリジナルの作者は何を言いたかったのかを考察したものです。もう一人の後の著者の書いた部分を削り取り,ヤハウィストの書いたオリジナル部分のみを読み解くと,アダムとイブのエデンの園からの追放からバベルの塔までの話は,これまでいわれてきた性格からがらりと変わり,さらに通常キリスト教で考える神とは別の性格を持った神が見えてきます。
 これはミステリーの謎解きにも通じていて,実際,推理小説好きの私は,とても面白く読みました。こんな事を言うとまじめな研究者である著者に怒られそうですが,ミーハーな私としてはトンデモ本的興味さえわいてきます。
 この本は,そもそも1996年に単行本として発行され,その時は旧仮名遣いを使っていたものを,私が読んだ中公文庫版では新かな使いに直しています。あとがきを読むと,内容の書き直しもあるようです。
 前にも言ったように,この本はユダヤ教徒でもキリスト教徒でもない日本人の哲学者である大学教授が書いたもので,聖書の内容を扱っていても宗教色は全くといってもいいくらい感じないものですが,敬虔なキリスト教徒の方が読むと,おそらく違和感があると思います。著者が旧約聖書から読み取った神の性格が,通常のキリスト教で考える神とは違っていて,アダムとイブの楽園追放からはじまる各挿話の意味も,キリスト教で教える意味とは異なった解釈をしているからです。
 もう数年前に亡くなりましたが,父の知人の方が晩年キリスト教に傾倒していました。しかし,特にどこかの教会に所属することなく,書籍によって独学していたようです。亡くなったとき,家族の方は当然のようにキリスト教の神父さん(牧師さんというのかな?)を呼んで,キリスト教式の葬儀を行ったのですが,その時の神父さん(牧師さん?)の説教が忘れられません。「故人は独学でキリスト教を学んでいたそうだが,それは危険なことで,必ず信頼できる教会に所属してほしい。聖書はいろいろな解釈ができるし,おかしな解釈を信じると危険なことがあるから」という話でした。仏教を基本としているといいながら犯罪を犯していたオーム真理教の例を考えても,確かに宗教の危険性は理解できます。宗教にはそれくらい力があるわけです。
 この本は,前に言ったように宗教色を感じないので,おそらくそんな危険はないと思いますが,やはり宗教と切り離して読むべき本なんでしょうね。この本を読んで,ここで言及された神を信仰しないように・・・(?)

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