北森 鴻「狐闇」を読みました
先日「はまっている」と紹介した北森鴻の推理小説。短編の名手と紹介したのですが,今回は長編を読みました。北森氏のシリーズキャラクター,店を持たない骨董商「冬狐堂」,宇佐美陶子を主人公にした「狐闇」です。
陶子が日本史の闇に巻き込まれ,贋作作りの汚名を着せられて古物商の監察を取り上げられてしまうというビンチに立たされます。敵は初めから分かっているので,「なぜ」と「ビンチをどう切り抜けるのか」を主眼にした作品と言えるでしょう。
強力な敵に対し陶子に味方するのは,冬狐堂シリーズで陶子の親友として活躍する写真家の横尾硝子,北森氏の別のシリーズキャラクター,「凶笑面」など短編集の主人公である美貌の民俗学者,蓮丈那智助教授,短編集「孔雀狂想曲」の名探偵,下北沢の古物商「雅欄堂」主人,越名集治。初めの方で三軒茶屋のビアバー「香菜里屋」がチラッと出てきた時には,もう一人陶子防衛軍に名探偵が加わるのかと思ったら,それは無しでした。
最後に敵と対峙して,さすがの陶子も敗北かと思ったとき,思いがけない品物を出して見事に勝利するカタルシス。
文庫本で594ページという結構厚めの本なのに,1日で読み切る事ができたのは,内容の面白さと共に文章の読みやすさのせいでしょう。北森氏の作品は,どれも読み終わるのが早いのです。
この作品,蓮丈助教授が出てくるのですが,この長編の最後の方のエピソードを蓮杖那智シリーズ側から描いたのが,蓮丈シリーズの短編集「凶笑面」の中の「双死神」という短編です。一つのエピソードを2つの作品にするというのは,なかなか面白い試みです。
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