「啄木鳥探偵處」を読みました
「啄木鳥探偵處」は,創元推理文庫から2008年11月に発行された伊井 圭の推理短編集です。啄木鳥は「きつつき」と読みます。主人公はなんと天才歌人,石川啄木。その石川啄木が,生活苦から探偵事務所を開いてしまうのです。それが「啄木鳥探偵處」です。そのワトソン役を務めるのが啄木の親友,金田一氏。私ははじめ,解説の文章で金田一と読んで,すっかり金田一耕介だとばかり思ってしまい,実在の人物と架空の人物を主人公にした小説かと思いました。しかも名探偵のはずの金田一耕介がワトソン役とは! ところが,金田一は金田一でも,耕介ではなく,アイヌ語研究で有名な実在の国文学者,金田一京介氏だったのです。(横溝正史は,金田一京助氏の名前から金田一耕介の名を作ったそうですが)
時代は明治。最初の作品では,浅草十二階,凌雲閣に幽霊が出るという事件を解決します。この第一作は石川啄木も元気で,なかなか快調です。しかし後の作品になると。啄木の生活困窮が増し,体調が悪くなる中での探偵譚になっていきます。そして最後,第五編目は啄木が27歳の若さで亡くなった後,金田一氏が在りし日の啄木との思い出の事件を回想するものです。
事件の謎と推理と解決はどれも興味深くおもしろいものの,次第に経済的に困窮し,病身の啄木の体調が悪くなっていく事,さらに啄木の性格の悪さが鼻に付くので,短編推理小説としてワクワクしながら十分楽しく読めないのが残念です。この啄木の世界を受け入れられるかどうかが,この本の好き嫌いの分かれ道になるでしょう。
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