大崎 梢「配達あかずきん」
久しぶりに創元推理文庫を読みました。大崎梢著「配達あかずきん」は,「成風堂書店事件メモ」という副題の付いた短編集です。
この作品は,東京郊外の駅ビルの中にある書店「成風堂」が舞台です。ここの店員である杏子とアルバイト店員の多絵の二人が主人公。杏子の遭遇する事件を,大学生の多絵が解き明かします。事件といっても,殺人事件は起こりません。書店のディスプレーがスプレーで汚された事件,入院患者への贈り物の5冊の本を,的確に選んだ書店員,しかし,そんな書店員はこの店にはいない。ではいったい誰が?というフーダニット,書店で買ったコミックを読んで失踪した常連客の事件,本を使った暗号事件などなど。小さな事件かもしれませんが,一つ一つに謎があり,その謎的なサスペンスはなかなかのもので,どの話も興味深く読む事ができます。入院患者への贈り物の事件などは,書店ならではの「見えざる人」テーマの作品であり,そのテーマの歴史に新たな一頁を加えるものです。どの作品もハッピーエンディングであり,読後感がとてもいい作品集です。
本書はこの作者の処女作らしいのですが,この調子ならば,この作者の作品をもっと読んでみたい。しかし,文庫本になっているのは,まだこの一作だけらしいんですね。
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