京極夏彦「邪魅の雫」
このところ京極夏彦づいているのですが,長編「邪魅の雫」を読了しました。長い京極夏彦の長編の中でも,新書判で800頁を越える大長編です。
終戦から8年後,昭和28年の東京下町で,続いて神奈川県の湘南でおきた毒殺事件。さらにひき続いて毒殺事件が相次いで,刺殺事件1件を加えて,全部で6件の事件が起きます。毒殺事件は,当初から警察上層部により連続殺人事件と断定されて,東京と神奈川の警察の合同捜査が行われます。連続殺人と判断した理由は,何故か捜査員に伏せられています。そこに何か秘密があるらしいのです。
一方,おなじみの薔薇十字探偵社の見習い探偵,益田は,見合い相手の調査を依頼されます。しかもその対象は,探偵社の榎木津の見合い相手。3件の榎木津探偵の縁談がことごとく相手から断られたのをいぶかって,榎木津の従兄弟が益田に調査を依頼したのです。益田は榎木津に内緒で調査を行いますが,やがて,毒殺事件の被害者の中に,榎木津の見合い相手が含まれている事がわかります・・・。
益田や関口をはじめ,中禅寺や彼らと親しい刑事達を含めた薔薇十字探偵社サイドの動き,被害者側の動き,誰とは分からないように記載された犯人側の動きやモノローグが交互に語られ,それがだんだん各々交錯していって,最後に「京極堂」中禅寺がズバリ謎を解く。
この大長編,登場人物も多く,しかも単純にシーケンシャルに事件の流れを追うのではなく,前述のように多元的に交互に様々なグループの出来事を述べている為,誰が誰だか分からなくなってしまう。そこで,何回も前に戻りながら,登場人物を頭に入れながら読み進んでいった為(まあ,読み込んだといってもいいでしょう),読了までにえらく時間がかかってしまいました。しかしそのおかげで,最後の中禅寺の謎解きでは,あれが伏線になっていたのかという部分を的確に思い出す事ができました。しかし今回の中禅寺の謎解きは,単なる「謎解き」であって,「憑き物落とし」ではないんですね。そこら辺がもう少し工夫できていればと思いました。
今回の榎木津探偵は,自分自身に関係ある事件という事で,いつものように天衣無縫,自然体とはいかず,彼にしては屈託ありげなのがちょっと残念に感じました。
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