芦辺拓「千一夜の館の殺人」
芦辺拓のミステリー「グランギニョール城」に続いて読んだのは「千一夜の館の殺人」。
森江春策と助手の新島ともかがあるレストランで食事をしている時,向いのビルの電光ディスプレーに殺人の様子が写り,このビルからひとりの女性を助けるところから話が始まります。偶然にもこの女性は新島ともかのまた従姉妹で,彼女の幼なじみでした。
そのまた従姉妹の女性が数理情報工学の天才,久珠場博士の遺産を相続したことが,この事件の発端らしいのです。彼女の代わりに新島ともかが彼女に扮して久珠場博士の親戚の家に乗り込み,潜入捜査を行う冒険が本書の大部分を占めています。
今風のフルカラーディスプレーではなく,昔ながらの電光掲示板にシルエットとして殺人の場面が映る冒頭のシーンから乗せられてしまいます。まるで乱歩の世界のようではありませんか。
本書の主な謎としては3つあります。
・ もちろん,殺人事件の犯人は誰かという謎。鍵も無く,何ら戸締まりする方法も無い筈の,最初の殺人事件現場である茶室が,なぜ新島ともかに開けられなかったのかという謎など,事件に関する謎も含みます。
・ 千一夜の館はどこにあるのかという館の謎。
・ 新島ともかのまた従姉妹にに遺されたメモリを開く博士の暗号というかパスワードの謎。
もちろん最後には,これらの謎は森江春策によってきれいに解決されます。
私にとって犯人はとびきり意外でした。それなのに犯人が明かされた時,新島ともかがあまり驚かなかったのか不思議でしたが,読み直してみると犯人が明らかになる前に,彼女には犯人が分かった瞬間があったんですね。
館の謎は,堂々と冒頭に示してあるのでわかりました。「館」の名前がついている本書ですが,いわゆる館ものでは無いんですね。その意味で,「館もの」ファンの方には残念かもしれません。
暗号の謎は,各家の随所に飾ってあるアラビアンナイトの絵に関係しているのだろうというところ迄は分かります。完全に読者が解くのは無理でしょう。
しかしミステリーとしてかなり面白い作品です。まあ,人がどんどん死んでいくのですが,からっとしているのは小説としていいのか悪いのか分かりません。小説としての深みに欠けると思う方もいるでしょうね。
さて,次はなにを読もうか? 以前買って「積んどく」になっていた「地底獣国の殺人」lかな?
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