米澤穂信「ふたりの距離の概算」
米澤穂信の作品は,4年程前,「夏季限定トロピカルパフェ事件」というのをこのブログで紹介した事があります。
今回の「ふたりの距離の概算」は,それとはまた別のシリーズの作品です。舞台は地方都市の高校。50以上のクラブ活動があるという,異常に文化系クラブが乱立しているこの高校の,古典部というクラブに所属する男子2名,女子2名を主人公とするシリーズです。
このシリーズのたいていの作品は,このクラブに属する折木奉太郎という少年の語りで話が進みます。そして今回の「ふたりの距離の概算」,この作品は全校行事である20kmに及ぶマラソン大会を舞台に進行します。
古典部シリーズのこれまでの作品,「氷菓」,「愚者のエンドロール」,「クドリャフカの順番」,「遠まわりする雛」の4作品では1年生だった主人公たち4人も,この作品では2年生に進級しています。そして新入生が入学し,古典部にも大日向さんという女子が仮入部してきます。ところが仮入部から2ヶ月後,本登録という段になって入部を取り消したいと言い出す。「それは何故?」という事を部員達の証言や自身の体験から,奉太郎君が20kmのマラソン大会を走りながら(一部歩きながら)推理していくというのがこの作品のあらすじです。
マラソンは3年A組から各クラス3分の時間差でスタートして行くのですが,奉太郎は2年A組。自身の速度を調節しながら,マラソン大会を主催する総務部副委員長の古典部員,福部里志をはじめ,後から走って来る古典部員3名の話をマラソンをしながら聞いていきます。それらの話と,大日向さんに関連する自分の見聞きした事実を元に,入部撤回の理由を推理します。そしてゴール間近になって,最後に走って来る1年H組の大日向さんに自分の推理をうちあけて,推理の正しさを確認するという作品です。
人の話を聞いて,純粋な推理によって真相を看破するというのは,完璧な安楽椅子探偵です。それが安楽椅子ではなく,マラソンで走りながら行われるというのが新機軸ですね。
このシリーズ,高校生を主人公としており,高校生向け作品と言えると思いますが,ライトノベルのミステリー版だと思ったら大間違い。本作を含めてどの作品も,とても理屈っぽい推理ものです。背景は高校生活ですが,奉太郎君の推理はケメルマン張りで,高校生がこんな理屈っぽい小説を喜ぶんだろうかと思う程です。
このシリーズ,現在本屋さんで大量に平積みされています。「氷菓」の題名で漫画化され,さらにアニメ化されているからです。しかし少なくとも小説は,高校生が主人公のライトノベルと思ったら大間違い。おじさんにとっては面白かったですけれどもね,推理小説ファンの高校生ならいざ知らず,一般の高校生は受け入れるんでしょうか? ちょっと心配。
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