イギリスへ行ってきました(13)〜外伝:平井杏子著「アガサ・クリスティーを訪ねる旅」
カミさんが最近読んでいる本を覗いたら,「アガサ・クリスティーを訪ねる旅」という本でした。8月末から9月初めにかけて家族旅行としてイギリスにいってきたのですが,そのお土産を差し上げた友人が「こんな本がある」と言って貸してくれた本だとの事です。
この本の著者はクリスティー好きの大学教授らしく,「鉄道とバスで回る英国ミステリーの舞台」という副題がついています。ロンドンパディントン駅から始まって,トーキーなどデボン州のクリスティーゆかりの地を巡り,そして再びロンドンに戻ってクリスティーが眠る墓地の訪問で終わるという,著者自信が体験したクリスティー紀行を本にしたものです。
イギリス在住の方々によるブログでもなければあまりお目にかからない(あまり日本から行く人が居ないため),ダートムーアの旅行記もあります(日本の旅行社によるツアーなども,めったに無い場所です)。私たちが行ったダートムーアのウィディコム・イン・ザ・ムーア村についての記述もあります。ズバリその場所に行かなくても,ロンドンを含めて今回私たちが廻った場所の近隣の旅行記であり,何となく親しみがわいてきます。もちろん,小学生の頃,あかね書房の「少年少女世界推理文学全集」で「ABC殺人事件」を読んで以来,クリスティー作品をほとんど全て読んでいる私としては,大いに興味がある旅行記です。
A5版,教科書サイズの本ですが,本文の下方,各頁の1/5程度のスペースに写真とその解説が載っています。その写真が本文と完全にリンクしており,本文で言及された記事についての写真を見たいと思うと,その写真が本文に下方に載っているという構成になっています。その意味で,読んでいて消化不良を起こす事も無く,満足度の高い本です。
クリスティーの各作品の具体的な名前を挙げて,そのモデルとなった場所についてクリスティーの生涯と合わせて言及されており,ただの紀行文というよりクリスティーの研究書という香りもしてくる本です。
本書のあとがきで著者は次のように書いています。クリスティゆかりの地を訪れても,時代の流れの中で様変わりしているのではないかと思い,「今ではもはや存在しないアガサの世界を目ざして,いささかの失望を覚悟しての旅立ちだった」のですが,「しかしどうでしょう,そこには思いがけなく,古きよき時代のイングランドが息づいていました。ロンドンのパディントン駅を発車したグレイト・ウェスタン鉄道の窓外には,水と光の風景が,その美しさに胸が高鳴るほどの輝きで広がり,訪ね歩いた古い建物には,アガサや彼女の作中人物がそこで活躍したころの残り香が漂っていました。」 私もほんの一部分ですがイギリスを旅行して,まさにそう感じました。むしろ旅行前には,「クリスティーが描いた時代からどう変っているのだろうか」という興味さえあったのですが,ロンドンでさえもクリスティーの頃と変っていないように感じました。ダートムーアのウィディコム・イン・ザ・ムーア村などは,クリスティーが「鏡は横にひび割れて」で描写したような「通りのはずれの以前トムズの籐製品店があった所には,今はきらびやかなスーパーマーケットができていた・・・」という見かけの近代化の様子さえも無く,ミス・マープルでさえ懐かしく感じるであろう,そんな風景でした。
この本はやはり手元に置いておきたいと思い,さっそくアマゾンで注文しました。新刊で2520円でした。中古でも1500円以上する本ですが,それだけの価値のある本です。
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