加賀美雅之「双月城の惨劇」
加賀美雅之の「双月城の惨劇」は,「満月の塔」と「新月の塔」という二つの塔がそびえ立つドイツ中世の城と密室と城主の双子の姉妹という,ミステリーのお膳立てとしてはこれ以上は無いという設定の作品です。
姉妹のうちの1人の死体が「満月の塔」の密室で殺害されて発見されます。しかも頭部と両手を切断され,その頭部と両手を焼かれた状態で。姉妹のもう一人の方は失踪して姿が見えません。様々な状況から,その死体は妹のものだと考えられます。しかし一卵性双生児の姉妹を見分けるには,首の痣と過去に手首を切った跡だけ。そんな状況をみれば,ミステリーファンなら双子姉妹の入れ替えをすぐ思いつくし,この作者ならそんな手口を使いそうな気がしました。ところがかなり早い段階で死体の正体への疑問を登場人物が言及し,そんな見え透いたトリックを使っていない事を作者は示すのです。ただ,それならば・・・・・という事で,この死体の謎は想像がついてしまいます。
それ以降,その想像があたっているのか,さらに犯人は密室殺人でどんな手段を使ったのかという興味でこの大長編を読むことになります。さらに,「満月の塔」の殺人事件の犯人は想像できても,それならば他の3つの事件の犯人は誰?という事もあります。
もっと若い頃この作品を読んだとしたらで,まず寝食を忘れて読みふけった事でしょう。ところがすれっからしのミステリーファンになった現在,作者の仕掛けた基本的な話の骨格はみえてきてしまいます。そこで,ある程度落ち着いて読んでいけます。
まあおそらく,この作品だけでなく,いわゆる黄金期の巨匠,ディクソン・カーやクイーンなどの作品を,もし今初読したとしても,同じ事になるような気がします。これらの作品を若い時期にわくわくしながら読んだ事を,つくづくよかったとおもいます。
まあしかし,いってみればそれら黄金期の作品を若い頃に読んだ結果,今すれっからしのミステリーファンになっているんでしょうけれども・・・。
この作品,初めの「満月の塔」の事件だけで終わらせておけば,よりまとまりが良くなったような気がします。それだけでは出版社の要求する枚数には足りず,第二,第三の事件を起こした訳ですが,これによってちょっと散漫な感じになったのが残念です。
今回は大長編を読み終わったから,次は軽めのものにしようかな。推理作家「有栖川有栖」と建築家「安井俊夫」の両氏による対談形式の「密室入門」という本を電子ブックの形で買ってあるので,これでも読もうか・・・。
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