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2013/02/16

東川篤哉の「交換殺人には向かない夜」

Kokansatujin

 東川篤哉作のミステリー,烏賊川市シリーズの一作です。シリーズとしては第四作目に当たります。
 夫の浮気調査を依頼された鵜飼探偵と探偵事務所のあるビルのオーナー 二宮朱美(たまった家賃を払ってもらうため,鵜飼探偵の捜査に協力して時々ひどい目に遭う女性大家さん)のコンビ,十乗寺さくらの友人である水樹彩子の家へ出かけて隣家で殺人死体を発見するさくら(富豪 十乗寺家令嬢の久々の登場)と鵜飼探偵事務所の探偵助手戸村流平(以前の事件では男性に好意を寄せられ,それが事件の発端になった事もあったが,今回はさくらさんに惚れられている)のコンビ,烏賊川市で発生した女性殺害事件を捜査する砂川警部(民間の探偵が登場するミステリーでは,警察官はとかくコメディーリリーフである事が多いが,本シリーズでは砂川警部が解決する事件もあり,なかなかの名探偵)と志木刑事という,それぞれおなじみのコンビの動静が交互に描かれていきます。初め各グループの活動には全く関連が無い様に見えますが,終盤ではそれぞれのコンビが扱う事件が密接に関係している事が明らかになります。
 今回の事件では,彼らいつものメンバー以上に存在感を見せるのが,さくらの友人であり女優であり映画監督である水樹彩子(「私はただの女優じゃない」と言ったら,流平に「そうか,男優だったんだ」と思われる様な威勢のいい女性)です。彼女は今回の事件の鍵を握る人物です。このシリーズのいつもの名探偵,砂川警部と鵜飼探偵の推理が,今回は真相とわずかにずれているのですが,登場人物達が雪の中で偶然に一堂に会した時,真相を説明するのが水樹彩子です。彼女は三つの事件の裏面を知っている人物である為,それが可能となったのです。つまりこの推理小説の完全な解決は,いつもの様な名探偵達の推理で行われるのではなく,真相を知っている人物の説明で行われます。その事が「本格推理小説」の味を減じることになり,不満ではあるのですが,作中で展開されたいくつもの謎が終盤で一気に解決され,ちりばめられた沢山の伏線が全て回収される事がなかなか心地よい作品となっています。
 とにかく,読者は三つの事件が収束するのであろうと思いつつ読んでいく事になりますが,なかなか見事な収束でした。私の好きな叙述トリックも取り入れられた作品で,かなり満足しました。

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