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2013/07/04

小嶋英俊「文豪たちの大陸横断鉄道」

Essays

 「文豪達の大陸横断鉄道」という本を読みました。新潮社から出ている新潮新書の中の一冊です。
 この本のタイトルを見たとき,かつての文豪達が大陸横断鉄道で満州やヨーロッパなどを旅した時の旅行記を集めた随筆集だと思いました。ところが,違っていたんです。
 たしかに,夏目漱石,林芙美子,永井荷風,横光利一,野上弥生子など,往年の有名作家が,鉄道を利用して満州,ロシア,欧州を旅した時のエッセイを引用して紹介しているのですが,鉄道関係の著書のある小嶋英俊氏の文章の方が圧倒的に多いのです。各作家が鉄道で旅をしたときの世相,旅立った状況,その頃の鉄道の様子など,満州,ロシア,イタリア,フランス,イギリス,アメリカなど,各国別に紹介している本なのです。
 まあ考えてみれば,往年の文豪達は特に鉄道に興味があったわけではなく,鉄道旅についてはむしろついでに書いた程度のもので,各エッセイは目的地での滞在の様子にこそ主眼があるわけで,鉄道に絞った本にするには,文豪達のエッセイの鉄道旅部分を抜き出して短く紹介する程度にしかならないわけです。
 期待した内容とは違ったのですが,鉄道旅に関する文豪達の名文も楽しめて,地の文章ともいうべき小嶋氏の解説部分も興味深く読めて,楽しい本でした。
 ここに紹介されている文豪達の著書は,Kindle storeを検索してみると,各人それぞれの作品が何十冊も見出されます。さすがは日本国民の財産とも言うべき作品群で,ほとんどが青空文庫版として無料(0円)で読めるのですが,残念ながらこの本で紹介された旅行記はほとんどありません。でも夏目漱石の「満韓ところどころ」はあったので,それを読んでみたいと思いました。引用された南満州鉄道による旅行場面だけでも,漱石のユーモアあふれる文章がとても面白いものでした。遠藤周作の狐狸庵先生シリーズや北杜夫のドクトルマンボウシリーズなど,近代のユーモアあふれるエッセイの先駆をなすもので,読書心をそそります。

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