倉阪鬼一郎の「不可能楽園<蒼色館>」
倉阪鬼一郎による上小野田警部シリーズの一遍,「不可能楽園<蒼色館>」を読みました。
東北地方に住む往年の名女優がなくなり,斎場である蒼色館で葬儀が行われます。正にその時刻,東北の屋敷で留守を守っていた家政婦ら2名が殺害され,亡くなった女優の妹が「孫の美咲」としてかわいがっていた美咲が誘拐されてしまいます。身代金は名女優が持っていた,経典を収めた名宝「光堂」。犯人から指示されるがままに車で運ばれる「光堂」。最後は新潟県奥三面の山中で,車がもう入って行けないというところで若い執事見習いの鈴木に託される「光堂」。尊い犠牲を出しながらも犯人が逮捕され,美咲も光堂も無事に戻ります。
そんな話ですが,誘拐事件なのに何故かゆるい感じの登場人物達。最後にはいろいろな「びっくり」が明かされるとは思うものの,途中,上小野田警部のつまらない独白が多く,そのキャラクターに思い入れのない私としては余り面白くない展開が続きます。途中では,謎的な興味が湧いてこないのです。
最後に怒濤のように「びっくり」が明かされますが,例えば「四神金赤館銀青館不可能殺人」のような,作品の背骨となる大トリックがあって,それに付随して小トリックがあるというような骨格がなく,小トリックのみがちりばめられているというもので,あまり面白さが感じられません。ひょっとしたら,あの鉄道を使ったアリバイトリックが背骨になるトリックなのかもしれませんが,それ程びっくりするものではありません。かのコナン・ドイル卿が創案したトリックをアレンジしたものですが,ホームズの時代の蒸気機関車が牽引する地下鉄ならいざ知らず,架線のある新幹線に応用できるのかは疑問です。まあ,作者自身がバカミスと言っている作品のトリックについて,細かい事をとやかく言うのもヤボというものでしょうね・・・・・。
この作品,上小野田警部最後の事件ですが,はっきり言って残念ながらそれほど面白くはありませんでした。
ところでこの作品,例によってKindleで読んだんですが,自在に文字の大きさを選択できる通常のKindleフォーマットではなく,漫画コミックのようにページが作り付けになっている形式(PDFなのかしら?)になっていました。これはくさい。何かあると思ったら,たしかに「あの趣向」があるので,ページが文字の大きさで自由に設定されてしまうKindleフォーマットにするわけにはいかなかったのですね。そんなフォーマットでも,Kindleは作り付けの1ページを4つに分けて,1/4づつ読む機能があるので,案外楽に読めました。
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