柄刀一「十字架クロスワードの殺人」
このブログで柄刀一作品の事を書いたのは,過去に3回ありますが,以前紹介した「殺意は砂糖の右側に」の主人公,天地龍之介を主人公にした作品がこの「十字架クロスワードの殺人」です。天地シリーズとしては初めての長編作品です。最近(といっても6月末)に,この天地龍之介シリーズの内の6作品がKindle化され,まだ読んでなかった作品3作を購入した中の一冊です。
まぎれも無い本格推理小説。章の名前がクロスワードパズルになっています。また作品の中の宝探しもクロスワードパズルがヒントになっています。
登場人物は病気で人事不省になっている地方財界の大物,その三人の息子と連れ合い。それに息子の秘書と彼女にそっくりな異母妹,龍之介の後見人とその息子。ただし大物は病院に入っていて,影の登場人物となっています。同家の家政婦とその小学生の元気な娘,それに龍之介と従兄弟の光章,そのフィアンセ一美が探偵側です。龍之介が受け継ぐべき遺産が詐欺で失われ,その行く方を追って龍之介達は地方財界の大物の家へ。そこでは,宝探しがはじまっていた・・・・・。
場所が二カ所にわかれ,探偵側も龍之介+光章と一美+小学生のチームに分かれてしまい,その双方で殺人が起ります。双方連絡が取れない状態のまま犯人探しが始まる・・・。右手が損傷されているはずなのに,実際の被害者は左手を損傷しているとか,遺産の鍵を握る行方不明の秘書とか,風呂場の窓の外に見えた右手の謎など,興味深いなぞの数々がちりばめられ,なかなか面白く読みました。
しかし,二カ所に分散した現場と探偵,その二カ所が交互に登場する構成で,その結果名探偵龍之介の活躍が半分になってしまう点,ちょっと不満が残りました。しかしこの二カ所になる事がトリック上必要だったわけですから,まあ仕方ないですね。
いくつかのトリック,謎を仕込んだ好感の持てる作品ですが,主人公達のかなりシリアスな状況が描かれている割には,ちょっと軽目の印象です。力作本格派ミステリーを読んだという感じにならないのが残念です。
さてこの柄刀一の天地龍之介シリーズ,この作者の作品中では一番たくさんの作品があるシリーズですが,このあと続々とKindle化される事を願っています。
| 固定リンク
コメント