綾辻行人の「AnotherエピソードS」
以前紹介した綾辻行人のAnotherの続編,「AnotherエピソードS」を読みました。
続編というより,むしろ姉妹編という感じのものです。前回の登場人物で,今回も出てくるのは,前作のメインキャラクター2人,見崎鳴と榊原恒一だけ。しかも恒一は鳴の話を聞くだけの役です。
今回は,前作の後,夜見山を一週間程離れていた鳴が,恒一にその一週間の出来事を語って聞かせるという話です。しかし本作の語りは,その時鳴が出会ったもうひとりの「サカキ」,賢木晃也という人物によって行なわれます。
この語りの人物,自身の言によれば実は幽霊で,どうも自宅の2階から1階へ落ちて死んだらしい。それが自殺だったのか事故だったのか,または殺人だったのか,自身でもはっきりしません。この幽霊さん,記憶が曖昧なのです。しかも周囲の人の話から,死んだのは確実だけれども,葬式も埋葬もしていないらしい。自分の死体はどこにあるのか? 自分の死は事故だったのか殺人なのか,それが謎となって話が進みます。鳴の左目はそんな幽霊を見る事ができ,また鳴だけは話をする事もできるようです。
この作品,前回の様に大量の死が起きるわけでもなく,サスペンスがもりあがるわけでもなく,比較的淡々と話が進み,前述の謎の方もワクワクする程でもないのですが,綾辻行人だからという信用で読んでいくと,最後に謎は別の所にあったのだという事がわかります。最後に謎が明らかになるまでのこの本の大部分は,最後の謎に至る伏線の部分だったわけです。最後の謎が明らかになると,「そう言えばそこに至る部分で思い当たるフシがあったな」という事になるのです。
本格推理小説ではありませんし,最後に至るまでは多少退屈な所もありますが,最後の謎で全部許してしまうという,そんな作品です。
基本的に本作は,鳴が夜見山を離れていた1週間の出来事であり,夜見山での出来事ではないので,あの夜見山のシステムとはそれ程関係がありません(とはいえ,賢木の自殺願望は,かつて中学時代の夜見山でのあのシステムで友人達が死んでいった事によっているのですが)。そう言う意味で,前作を知らなくても読めないわけではないと思いますし,前作とは独立した一編だと言えます。すくなくとも最後の謎は,夜見山にもあのシステムにも関係ありません。この作品は,読み終わってみれば前作と違って,多少の異常心理はあるものの,全て合理的に解決されるという話でした。
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