法月綸太郎の「生首に聞いてみろ」
法月綸太郎の「生首に聞いてみろ」は,掛け値無しの本格推理小説です。
高名な彫刻家の遺作である,娘をモデルにした石膏像。その像の首が何者かに切り取られ,持ち去られるという事件が起こります。これはモデルとなった娘への殺害予告なのか? それを心配した彫刻家の弟から,綸太郎が調査依頼を受ける。それというのも,この娘はかつてストーカー被害にあっていたからです。
一方,彫刻家側にも複雑な事情がありました。16年前,彫刻家とその妻が離婚,その原因になったらしいのが彫刻家と妻の妹との不倫。妻の妹の自殺。そして離婚した妻と妹の夫であった男との再婚。この16年前に4人に何があったのか,何やら人間関係も複雑で,単純なストーカー被害である筈がないという展開です。
前半は首が盗まれたというだけの謎と複雑な人間関係の紹介だけで,後半の展開に期待ということになったのですが,物語り半ばにしてモデルとなった娘の生首が発見されるに至り,俄然重大事件に発展してくるのです。物語りは綸太郎の苦悩をよそにゆったりと進み,久しぶりに本格推理小説の世界を堪能しました。
結局私は脇役だと思った人が真犯人で,この人は本筋の人だったのかと驚き,しかし何となくはぐらかされた気分になりました。しかし,この人物,思い返してみれば決して傍系の人物ではなく,私がなぜ脇役だと思ったのか不思議です。多分,前半での出番が多くなかったせいかもしれません。
いずれにしても,2005年度「このミステリーがすごい!」の第一位に輝いたのは伊達ではなく,それなりの貫禄のある作品でした。
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