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2015/02/26

河野裕「つれづれ、北野坂探偵舎シリーズ」

Tsurezure

 つれづれ、北野坂探偵舎シリーズは,現在までに3作出版されています。「心理描写が足りてない」「著者には書けない物語」「ゴーストフィクション」の3作です。
 神戸三宮の北野坂。そこにある「徒然珈琲」という喫茶店。そこのオーナーである佐々波はなんと2階で探偵舎という探偵事務所を開いている青年。その2階に間借りしている若い小説家の雨坂。探偵仕事で大学の演劇サークルに赴く佐々波に付いていった時,紹介された演劇サークルの部長が「あの朽木先生(雨坂のペンネーム)ですか?」と座っていたパイプ椅子から落っこちそうになりながら驚いたところを見ると,ベストセラー作家ではないものの,熱狂的なファンのいるある程度有名な作家らしい。雑誌等でも特集を組まれる位に有名であるらしい。佐々波は元出版社勤務で,雨坂の担当編集者だったという過去があります。
 そんな二人に,第1作「心理描写が足りてない」で出会った高校三年生(第2作以降では大学生になっている),小暮井ユキが常連の登場人物です。
 第1作「心理描写が足りてない」は,小暮井ユキが探偵舎に「死んだ親友の幽霊が探している本をみつけて欲しい」という仕事を依頼します。実は佐々波は,幽霊が見え,幽霊と話ができるのです。どうしてそうなのかは本人も分からないが,子供の頃からそうだったらしい。このシリーズの幽霊は,この世の物や人には手を出す事ができず,普通の人は幽霊を見る事も幽霊の話を聞く事も幽霊を触る事もできません。だから決して怖くはない。
 しかし幽霊は何かこの世に未練があってこの世に出てきているので,その未練に関係する特殊能力(このシリーズでは「心霊現象」と呼んでいますが)を持っていて,実際の物を燃やすなど何か一つこの世の物に手を出す事ができるのです。そんな未練が満たされると,幽霊は消えて無くなってしまいます。佐々波らが幽霊の未練を探る時,幽霊がどんな「心霊現象」を持っているかが重要な手がかりになります。
 第2作「著者には書けない物語」は大学に入学したばかりの小暮井ユキが入会の勧誘を受けた演劇サークル「ラバーグラス」から探偵舎に持ち込まれた問題。過去に亡くなった演劇サークルの脚本家の未発表作品,それは4つのシーンと1つの白紙のシーンからなるもので,その各シーンはどんな順番で演じるのか,白紙にはどんなセリフが書かれどのシーンの間に入るのか,それを特定してほしいという依頼。その脚本にとり憑いているという噂の幽霊話。佐々波と雨坂が出会った高校時代と,そのときの不幸な事故も描かれる。
 結局最後に正しい脚本の順番が明らかになるが,演劇サークルから乞われて佐々波と雨坂がその脚本を演じるハメになってしまう。舞台に上るという初めての経験に案外乗り気な二人。そして白紙の部分は二人だけのアドリブで乗り切るという奇跡を演じ,見事に舞台を成功させます。
 第3作「ゴーストフィクション」は,知り合いの若い女性小説家から「屋敷のどこかに眠っているはずの一枚の絵を捜して欲しい」という依頼を引き受けた探偵舎の二人。小暮井ユキも屋敷へ同行するが,その屋敷では小鳥が言葉をしゃべり,スピーカーがしゃべり,人形がしゃべる世界。屋敷に取り付いた幽霊が仕掛けた謎を解く事ができるのか・・・,という話です。
 どの作品もそれぞれ解決があり,それはおおむねハッピーエンドなのですが,全作を通して「紫色の指先の幽霊」の秘密というのがあります。そもそも佐々波が出版社を辞めて探偵になったのも,その謎を解くためだったらしい。しかしそれはこれまでの3作では解決されておらず,だんだんどんな秘密なのか,作を追う毎に少しづつ明らかになってきているという段階です。このシリーズ,いったい何作続く様構想されているのか,興味深いです。
 このシリーズの作者,河野裕の作品を読むのは初めてです。ラノベという話もあるのですが,内容的にも文章的にも,ラノベとはとても思えません。かなり読み易い文体ではありますが,内容は単純な心理描写と行動の描写で物語をつないでいくというラノベ的な物ではありません。たぶんラノベ読みには苦手な作品ではないかと思います。
 また,これは推理小説なのか?という疑問もあります。探偵が活躍し,謎があり,それを解決するのですが,普通のミステリーに比べて心理的というか,幽霊の心理を解くという作品で,推理小説として読むと肩すかしを食らうかもしれません。でも面白かったですよ。次回作がたのしみです。「紫色の指先」の謎もさらに解決に近づいているでしょうしね。
 私は今のところ,第2作「著者には書けない物語」が一番面白かったです。謎が限定的でこじんまりした作品ですが,そこがいいところです。

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