麻耶雄嵩の短編集「貴族探偵」
麻耶雄嵩の「貴族探偵」は5編の短編を収める本格推理小説短編集です。
麻耶雄嵩の作品ですから,一筋縄ではいきません。今回の貴族探偵シリーズの特徴は,探偵自身は全然推理せず,犯人も指摘しない点です。
では誰が推理するのかというと,使用人である執事,メイド,運転手。彼らが情報を集め,貴族探偵が推理するわけではありません。全く使用人が推理して事件を解決するのです。
ヨハン・シュトラウスの曲名を題名にした各短編の内容は,密室トリック,替え玉トリック,生存時間の錯誤トリックなど,様々なトリックを駆使したまぎれもない本格推理小説です。
これが自分で推理しない探偵という趣向がなければ,普通のよくできた本格推理短編です・・・といっても,各短編の推理小説的な趣向,トリックの料理の仕方は,さすが麻耶雄嵩といえます。久しぶりに素晴らしい本格推理小説を読みました。
この作品,続編があるんですよね。2014年の本格ミステリ・ベスト10,第一位に輝く「貴族探偵対女探偵」という短編集です。私は今この短編集の第一短編を読み終わった所ですが,さらに特別な趣向が施されています。若い女性探偵が登場し,彼女が完璧な推理(とはじめは思う)で犯人を指摘するのですが,貴族探偵がその推理は間違っていると指摘し(第一短編では,女性探偵が貴族探偵を犯人だと推理し,それは間違っていると貴族探偵が指摘し<何しろ実際自分は犯人ではないのだから>),使用人を呼び寄せて真犯人を推理するというものです。はじめは納得してしまう女性探偵の完璧な推理を覆して,真犯人を指摘するという趣向です。
まだ一作しか読んでいない第二短編集ですが,第一短編集以上の本格推理小説が楽しめます(しつこい様ですが,まだ短編集の初めの一作しか読んでいないのですが・・・)。
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