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2015/10/09

松本清張の「異変街道」

Ihen_kaido

 久しぶりに松本清張作品を読もうと思ったのは,「異変街道」という作品が,以前行った事のある西山温泉を舞台にしているからです。山梨県西山温泉は,山梨県南巨摩郡早川町にある温泉で,その発見は西暦705年,慶雲年間だと言われています。信玄の隠し湯ともいわれる位の山奥にありますが,現在では舗装道路も通じ,東海道線富士駅や新幹線新富士駅から車で行くのは,それ程大変ではありません。富士川の上流が早川,その上流が野呂川,その野呂川沿いにある温泉です。数軒の旅館があり,世界一古い旅館/ホテルとしてギネス記録を持っている慶雲館は,なかなかシャレた旅館です。
 この「異変街道」という作品は,西山温泉が文字通り秘湯であった時代,江戸時代を舞台にした歴史物です。松本清張作品は,現代を舞台にした作品はほとんど読んでしまって,時代物は敬遠していた為に,今回初の時代物,久しぶりの松本清張作品を読む事になったわけです。
 武田家滅亡後,幕府直轄領となっていた甲斐。甲府勤番として幕府から甲斐に派遣されたばかりの鈴木栄吾が赴任地で病死したという知らせが,江戸の縁者に入る。ところが,江戸で知り合いだった水茶屋の主人が,身延山への参拝の帰路に山中で迷子になり,なんと鈴木栄吾に出会って助けられるという事件が起こる。江戸へ戻った水茶屋の主人が,口止めされていたにもかかわらず,その事をふと漏らしたことから,栄吾の親友だった旗本,三浦銀之助,鈴木栄吾と江戸で情を交わしていた芸者のお蔦らは,鈴木栄吾の死に疑問を持つ。
 そうこうしているうちに水茶屋の主人が何者かに殺害されてしまう。真相は甲斐にありという事で,三浦銀之助,お蔦,それに水茶屋の主人殺しを追う岡っ引きの栄吉と子分の庄太が甲州街道を甲斐へと向かう。甲府さらに栄吾の行跡を追って身延,西山へとたどり着き・・・。
 独立して動く,銀之助,お蔦,栄吉と庄太,三者の道中が章毎に交互に語られます。いいところで次の章,次の人物の行動の描写に移り,歯がゆいと同時に巻を置くに能わずという感じで読み進む事になります。やがて彼らは西山温泉のさらに奥地までたどりついて・・・・・。
 松本清張の作品は,本格推理小説ではないのですが,謎があり,それなりのトリックもあって面白い作品が多いです。しかしこの作品は,ストレートな冒険時代小説ですね。栄吾が生きている謎,犯人側の素性の謎,彼らは何を隠そうとしているのかという興味,そして何より銀之助,お蔦らの運命,これらの事が読み進む動機となって,どんどん読み進んでいく・・・。そんなタイプの作品です。
 週刊誌の連載小説として誕生した作品で,単行本で出版する事を前提としたどっしりとした構成とトリック,論理を持った現代の推理小説ではありませんが,読んでいる間はおもしろい。松本清張作品の中では,まあラノベ的な作品と言ってもいいかと思います。
 上に挙げた謎は,かなり予想通りに落ち着き,最後は連載の関係か,かなりバタバタと急転直下で解決してしまいます。そんなところも,骨太の構成を持つ現代の推理小説と比べると,ラノベ的な感じがします。考えてみれば,ネット上で少しづつ,または一章づつ,書き継いでいく方法というラノベの手法は,まさに往年の週刊誌や新聞連載と同じ形式ですね。毎回何らかの山を設定し,また次回への興味を繋いでいくという手法です。
 巨匠松本清張のラノベサスペンス,是非お読みください。・・・とはいうものの,どうもこの本は既に絶版になっているようです。それでも電子書籍では現役です。電子書籍があってよかった。この作品,古谷一行主演でテレビドラマ化もされています。

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