トマス・フラナガンの「アデスタを吹く冷たい風」から,謎興味を満たしてくれる作品
先日紹介したトマス・フラナガンの短編集「アデスタを吹く冷たい風」。先日のこのブログの記事を読んだ知人から,内容をもっと紹介してくれと言われたので,謎マニアの私も満足した一編のみ紹介してみましょう。
この作品集で,謎的興味を楽しませてくれる唯一の作品といっていいのが冒頭の作品,本の標題にもなっている「アデスタを吹く冷たい風」です。
国境を越えてトラックで運ばれてくると思われる銃の密輸品。それはかつて内戦時代に使われた銃で,武装解除した兵士達が置いていったものをどこかに集めて保管してあって,そこから少しづつ取り出して国境の麓の町へ運び込んでいるらしい。
トラックは山の上の国境監視小屋のある道路を通るのだが,監視の兵士を疑ってテナント少佐が何回も不意をついて監視小屋に赴いても,トラックは隣国から銃を積んでこない。だから,銃の保管場所は国境の向こう,隣国ではないと結論付けざるを得ない。それじゃあ国内かという事で,監視小屋を中心に一寸刻みに周囲を探索してもても,銃が埋めてあるなど,その保管場所を見つけることができなかった。だから国境の国内側にも保管場所は無いと結論付けざるを得ない。さらにトラックは監視小屋から麓の町まで,そのテールライトを完全に目視で追う事ができ,毎回一度も停止していない。それなのに麓の町には,密輸の銃が出回る。
いったいどうやって密輸しているの? 銃の謎の保管場所はどこなのか? というのがこの作品の謎の部分です。
テナント少佐は,このシチュエーションで唯一考えられる銃の隠し場所を明らかにし,密輸犯を罠にはめてこの問題を見事に解決してみせます。
この作品集のその他の作品は,謎興味を満たしてくれるというより,むしろ読者を欺いて,「最後にそこへ行きますか・・・」と驚かされるという話です。謎と同じ位サプライズエンディングが好きな私は,この作品集を大いに楽しめました。テナント少佐シリーズの他の作品も,テナント少佐が他者,さらに読者を欺き,まあそれがフラナガンの特徴と言えるのかもしれません。
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