殊能将之の「キマイラの新しい城」
これまでこのブログで,「美濃牛」「黒い仏」「鏡の中の日曜日」を紹介した殊能将之の「キマイラの新しい城」を読みました。
時は中世フランス,十字軍に従軍した領主の息子,「稲妻卿」と称される領主の跡取りが帰国。戦いによる心の傷を癒すために隠棲した城で殺害されます。誰もいない城塔の部屋で,しかも密室状態で,背中から十字軍従軍当時に使用した剣で突き刺されたのです。剣の先が腹から突き出るほど強い力での刺殺。
そして現代,廃墟になっていたその城を,ある地方不動産業者が日本に移築し,それを中心としたテーマパークを開きます。
ところが,その城には背後から剣を突きたてられた「稲妻卿」がとり憑いていて,「稲妻卿」ごと日本に移築されてしまい,そのテーマパークの社長が稲妻卿にとり憑かれてしまいます。折から社内では社長派と専務派の派閥争いが起こっており,急に社長の態度や言葉つきが変わっても,周囲にはわざと精神病を装っているのだろうと解釈されます。
しかしこの社長,実は中世領主の息子「稲妻卿」は,自分の死の真相を明らかにする事を望み,それを託されたのがわれらが名探偵 石動戯作です。
そしてさらに現在の城で起こる密室殺人。テーマパークの重役が殺害されます。
この二つの密室事件に対して,石動が様々な推理を繰り広げます。中世の密室事件の謎解きでは,現在の城が中世当時とは全く異なる復元のされ方をしているのだと主張し,それはなかなか面白かったのですが,残念ながら石動の勘違いでした。
そんなこんなで結局,石動に懇願されて謎を解くのは,前作「鏡の中の日曜日」に登場したもう一人の名探偵 水城優臣です。
現代の城での殺人の,テーマパーク内に復元された城であったために可能となったあっと驚くあっけない真相。そして中世「稲妻卿」殺害の驚きの真相。それは最後の最後,稲妻卿自身の独白で語られます。
結局のところ,真相が分かっていたのは,水城と石動の助手であるかっこいい青年,アントニオだけでした。石動には,水城が明かした現代の事件はともかく,中世の事件の真相は金輪際わからないでしょう。
作者が亡くなっているので,残念ながら本書が石動シリーズの最終作という事になります。
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