児童文学「天の園」の舞台へ
路傍の石,次郎物語と並ぶ日本の3大児童小説の一つと云われる打木村治の「天の園」を読んでいます。偕成社から現在でも出版され続けている作品で,6冊に別れています。これは主人公の少年,作者自身がモデルである河北保(たもつ)の生活が,尋常小学校1年から6年まで,学年順に1年1冊として語られているからです。明治から大正時代にかけてのお話です。今読んでいるのは第4巻。つまり保が4年生の時の話というわけです。
さてこの天の園は,埼玉県東松山市唐子地区が舞台です。この唐子で,友人の母親の死と友人の慟哭,絵の師匠だった画家が旅に出るための別れ,同級生ふゆ子との岩殿山での幼い恋心など,様々な日常の事件が起こります。適度な貧乏と唐子の自然,それに温かい人間関係に育まれた生活,この本の読書はなかなか後を引きます。
通信省の官吏だった保の父は脳溢血によって既に鬼籍に入り,唐子へ移ってきてから村で流行したジフテリアによって兄と弟を失い,この作品に描かれた時期には保は母と二人の姉との四人家族になっていました。母の実家馬橋家はそもそも「代官」を務めていた旧家で,村の中で何かと頼りにされる存在の様です。保も度々「本家」とよばれる馬橋家に入り込み,二階に居候をしている放浪の画家や従兄弟と交流を持っています。保の母,河北かつらも馬橋家のお嬢さんであり,この時代にフェリス女学院を卒業しています。
この唐子には何回か行った事がありますが,今回また行ってきました。以前訪れた時は,東武鉄道東上線高坂駅から分岐する日本セメント専用線跡や岩殿観音正法寺関連で訪れているわけですが,何回か訪れているとはいえ天の国を読んでいると,自ずと以前とは違う興味・視点で訪ねる事になります。
写真は唐子中央公園にある「天の園」の文学碑です。写真では何が書いてあるのか分かり難いと思いますが,「景色でお腹のくちくなるような子どもに育てます」と書いてあります。作品中の保の母の言葉です。この文学碑のある場所,唐子中央公園は,保の学校である唐子尋常小学校があった場所だそうです。今ではその尋常小学校の後身,東松山市立唐子小学校は近くの別の場所に移転しています。そして次の写真はその隣にある文学碑の説明書き。さらに天の園のなかで,オトウカ橋として登場する沈潜橋(洪水の時は水中に没して流木によって橋脚が損傷するのを防ぐ構造の橋),稲荷橋。その周辺での文鎮になる石探しのエピソードが作品中で語られています。(各写真はクリックすると拡大します。)
次郎物語等と同様,主人公の保少年は作者打木村治を反映しているわけですが,小学生6年間を終えた後は旧制川越中学,現在の川越高校へ進学します。その旧制中学での話は「大地の園」という作品4編にまとめられています。保の母の兄弟達は,銀行家や実業家になった人もいて,なにかと保の面倒を見てくれる様です。
ところでこの「天の園」第4巻,今回はKOBO版の電子書籍で購入しました。天の園の電子書籍は,pdfのようなファイルで提供されていて,普通の電子書籍のように自在に文字の大きさを変更でき,その文字の大きさによって自動的に1ページの行数・文字数が変わるというものではありません。それならばKindleより画面が大きく,1ページに本の1ページを表示して読み易い大きさの文字となるKOBOの方がいいだろうと思いました。さらにまた,このようなスタイルの本(自炊コピーのようなスタイル)では,画面ギリギリまで拡大した状態で読んで次ページに行くわけですが,KOBOでは普通に画面の左端をタップすれば拡大したまま次ページへ行く事ができるのに対して,Kindleでは一旦拡大を元に戻さないと,次ページへ行けません。Kindleの方が一手間かかってしまうのです。KOBOはなにげにKindleに対して優位性があり,その点については以前KOBOを買った時の記事で書いた事があります。
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