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2018/01/20

北森鴻「うさぎ幻化行」

Usagi

 北森鴻の「うさぎ幻化行」を読みました。
 はじめ,御巣鷹山墜落事故をモデルにした様な金沢行き旅客機の長野山中での墜落の記事が示され,フリーの音響技術者だった義兄最上圭一から「うさぎ」とよばれて子どもの頃からかわいがられていた美月リツ子宛の遺書が示されます。義兄は金沢へ行く途中,飛行機に乗って事故にあったようです。
 やがて圭一の遺品であるプロ用音響機器を引き取った圭一の仕事仲間から,圭一のハードディスク中に「うさぎ」という名のフォルダーがあり,それが環境省が指定した「残したい日本の音風景百選」を圭一なりに独自に録音した音のファイルであることを知らされます。
 ところが,音風景の横浜港の大晦日の汽笛の音に,録音当時は既に地下線に移行していて音が聞こえるはずのない東横線9000系の音が含まれている事がわかりました。さらに岐阜の水琴窟の音に,水琴でない鈴の様な音が含まれている事が分かります。そしてフォルダに残っていた圭一本人の語りかけの言葉から,「うさぎ」というのがリツ子ではなく,別に「うさぎ」と呼ばれていた人がいるのではないかという疑いが生まれてきます。
 ここら辺,さすが北森鴻という感じで,謎が醸成されて謎興味が尽きません。
 ところが物語が進むと,水琴窟の外で死んだ少女の話など,本筋から離れた話が始まります。この作品,9話からなっているのですが,いわゆる連作長編であって,一話一話が半ば独立し,全体の謎として圭一の音風景の意図の謎,さらに圭一の死の謎があるという構成なのです。そのため,全体の謎の前に,一話毎に謎と解決が現れ,全体の謎の解決に対してどうも話が逸れているという感じになってしまいます。
 やがてリツ子ではなく別の「うさぎ」さんが登場する話が現れ,最後に第九話に至って驚愕の結末にたどり着きます。全体としては,一話一話が半ば独立しているがために,一本の長編推理小説としては散漫になってしまった印象があります。途中までは音風景ファイルの謎で調子良く謎興味が醸成されていくのですが,一話一話の独立のためにその後迷走を始めた様な印象をうけ,最後には圭一の死に関する驚愕の真相が明らかにされるのですが,どうもそれが唐突な感じがして,長編としてそれまでの伏線が見事に回収されたという感覚がありません。
 この作品,そこら辺が残念でした。

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