北森鴻「天鬼越」
若くしてなくなった北森鴻の蓮丈那智フィールドファイルシリーズの最終作短編集です。正確に言うと,6編の作品のうち,2編は北森鴻が生前雑誌に発表した作品,そしてテレビドラマ用に北森鴻がプロットを作り,それを浅野里沙子が小説化した表題作「天鬼越」,さらに浅野里沙子が独自に書き継いだ3編からなる短編集です。
この短編集の最後を飾る「偽蜃絵」は,浅野里沙子が書き継いだ3作の中の1編です。民俗学調査のために三重県名張を訪れた蓮丈那智一行,泊まった旅館にあった蛤の蜃気楼の絵,そこに描いてあった屋敷と美女が気になって,民俗学調査そっちのけで絵の由来を調べ始める。そこに描かれた屋敷はかつてこの地にあった実在の屋敷で,しかしその屋敷には美女はいなかった・・・。
絵の秘密を解き明かす蓮丈那智,それは意外な大作家に結びつく。
私は今回の短編集の中で,この短編を一番気に入りました。推理小説としては小品といってもいい作品ですが,程よい謎に満ちていて,ラストの大作家の名前もアクセントになっていて,とてもまとまりのよい作品だと思います。
浅野里沙子さん,この調子で蓮丈那智シリーズを書き継いでくれませんか?
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