麻耶雄嵩の「友達以上探偵未満」
このところこのブログも読書づいていますが,麻耶雄嵩の「友達以上探偵未満」を読みました。2018年3月に出版された本で,過去作品を読む事が多い私としては珍しい新刊書の紹介です。
「伊賀の里殺人事件」「夢うつつ殺人事件」「夏の合宿殺人事件」の3作品を収録した中編集と言っていいでしょう。このうち。前2作には「読者への挑戦状」が挿入されています。
探偵になる事をを夢見る女子高生,「伊賀もも」と「上野あお」の桃青コンビが探偵役,ももの兄の「空」が刑事で,何かと二人の捜査に便宜を図ってくれますし,事件解決の実績のある二人に,警察全体が便宜を図ってくれている様です。
「伊賀の里殺人事件」は,NHKで2014年に放送された「謎解きLIVE」の問題として書かれた「忍びの里殺人事件」を元にしています。この番組は,視聴者参加型のミステリードラマで,視聴者とスタジオのゲストが,犯人当てを行う形式の番組でした。したがって,当然その問題として書かれた作品は,読者への挑戦状が挿入されていてもおかしくない作品なのです。
ももとあおの地元は伊賀忍者と松尾芭蕉のふるさと,伊賀市。その伊賀市で行われた市主宰のイベント,「伊賀の里ミステリーツアー」。色違いの忍者装束姿で参加者がポイントを回って芭蕉に関する問題を解いていくイベントで,殺人事件が起りこれを解決する話。殺人は俳聖殿というツアー会場内建物の中とホテル内の二度行われますが,筋立てが細かく,一口で紹介する事は出来ません。そこら辺,いかにも推理ドラマの問題編です。
「夢うつつ殺人事件」は,桃青コンビが通う高校で起った殺人事件。事前にある男子生徒を殺害する相談を,うとうとしながら影で聞いていた女子生徒がいました。その女子生徒が桃青コンビに相談しましたが,しばらくしてその男子生徒が実際に殺害されてしまいます。
「ゆめうつつ」というタイトルが効いている作品でした。
前2作を読んで,麻耶雄嵩にしてはまともな本格推理小説だと思っていたら,最終作「夏の合宿殺人事件」では「もも」と「あお」の内面が描かれます。
事件そのものは,前2作より前に起ったものです。まず老婆からの現金ひったくり事件の犯人を「あお」が見事に解決し,「もも」の兄,刑事の「空」も一目置く様になるという事件が描かれます。
そして本題という事で,「もも」と「あお」が当時所属していた文芸部とバレー部が夏休みの合宿で訪れた高原の合宿書で女子生徒の殺人事件が起り,「空」が捜査上の便宜を図りつつ,二人がそれを解決していきます。
どちらかというと,前2作で「もも」の心情が分かる様に描かれ,論理的な「あお」の心情は分かり難い感じでしたが,「I 伊賀もも」「II 上野あお」と章立てされ,「もも」の視点と「あお」の視点で二人の心情が描かれます。
初め「あお」は「もも」を探偵助手ワトソンとして扱おうとしますが,やがて「もも」はワトソンではなく探偵の片割れ,つまり「もも」と「あお」の二人でひとりの探偵だと気づきます。それで「友達以上探偵未満」という本のタイトルの意味も理解できました。二人でひとりの探偵。探偵の能力は「あお」の方が上という気がしましたが,読者への挑戦状の前に「分かった」というのは「もも」であり,その「もも」の推理を否定する事で「あお」の推理が始まるわけで,「もも」がいてこその「あお」の推理が完成するという構造が明らかになり,「あお」はそれを認識する様になります。
このシリーズ,まだまだ続けられるとおもいます。続く事を願っています。
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