乾くるみの「北乃杜高校探偵部」
先日同じ著者の「嫉妬事件」を紹介しましたが,今回は京都の歴史ある公立高校を舞台にした「北乃杜高校探偵部」を紹介します。4編の短編を収録した短編集です。寮生活をおくるサッカー部員の清水克文,その級友の横井圭,赤倉史朗,山科桃子、稲川みどりという5人が,学校で起る事件を解いていく学園推理小説です。
最初の短編は学校に伝わる「逍遥歌」が,ある時以来歌詞が改変された理由を探る作品で,それは戦前と戦後と聞いて思い浮かべるありがちな理由なのですが,そのありがちな理由をこのようないい感じのミステリーに仕立てているところに共感が持てます。
その他の3編は,学園ものでありがちな修学旅行,文化祭関連の七夕の練り歩き,そして卒業式にちなむ作品になっています。
殺人予告は出てきますが殺人などの犯罪はおこらず,どれも犯罪めいた事件は未遂に終わっていて,一見軽い短編集に見えます。
ところが,それぞれの短編に作者の若い読者への思いが込められているようで,なかなかあなどれません。卒業式が最後の作品であるが故に,余韻も生まれ,後味のいい好短編集となっています。
私が乾くるみ作品を初めて読んだのは,「蒼林堂古書店へようこそ」という短編集で,同じ林四兄弟シリーズという「林真紅郎と五つの謎」,「六つの手掛かり」と読み進んできたのですが,今回の「嫉妬事件」「北乃杜高校探偵部」をよんで,乾くるみ,なかなかに侮れずという気になっています。
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