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2018/05/30

乾くるみ「塔の断章」

Touno

 乾くるみの長編,「塔の断章」を読みました。
 この作品は,塔の序章,塔の断章,塔の終章の三章から構成されています。
 「塔の序章」では,どこかのバルコニーにおける男女の会話が描かれます。どうも妊娠について話しているらしい。女性が男性をなじっているようです。いわく,避妊していたつもりが妊娠してしまったという事らしい。
 この章の最後には,男性が女性を抱え上げ,手すりを超えて女性を投げ落としてしまいます。
 そして次の「塔の断章」。この小説の展開部。辰巳まるみのファンタジー小説,「機械の森」に基づいて,ゲームを作るプロジェクトが進行し,そのプロジェクトのメンバーがとある別荘に集まる。8人が集まり一夜経った朝,地上に叩き付けられて死亡している若い女性が発見されます。この別荘の持ち主,ゲームを製作している出版社のオーナーの令嬢で,ゲームの美術デザインを担当していた女性です。女性は妊娠していました。別荘の特徴である塔のベランダから落下したと思われます。
 この事件はやがて社会的には自殺として処理されますが,女性の兄はプロジェクトメンバーであった天童と辰巳に,誰が妹を妊娠させたか,調査する事を依頼します。
 それから,*で区切られた短いシークエンスが続いていきます。しかもそれは時系列的にバラバラに示されます。読み難いという方もいる様ですが,私は結構各シークエンスの後先が判断できて,読み難いという事はありませんでした。
 そうこうしているうちに,私は,あの「塔の序章」の投げ落とされた女性が,「塔の断章」の社長令嬢なのかどうか疑いだしました。なにしろ乾くるみ作品ですからね。
 さらに,「塔の断章」の時系列を無視した記述,それは全て一人称で語られるのですが,私はとりあえず辰巳まるみの一人称だと考えて読み進んでいました。「塔の断章」の最初のシークエンスでは,疑いなく辰巳まるみの語りでしたから。しかしそのうち,果たしてその一人称が1人の人物なのかどうか,うたがいだしました。なにしろ乾くるみなのですからね。
 そして最後の「塔の終章」,ここで真相が明らかにされます。前述の「乾くるみだから」という事こそこの作品のトリックだったといっていいでしょう。読んでいる途中の「乾くるみだから」という疑心暗鬼は,あっていた部分もあり,違っていた部分もあり,「塔の断章」が時系列的にバラバラな短いシークエンスで出来ていた事の意味が分かり,全体的にいえば「乾くるみ作品としては結構率直な作品だったんだ」という感想を持ちました。
 「謎」興味は薄いけれど,サプライズエンディングがまっている乾くるみは,だからやめられない。

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