乾くるみの「クラリネット症候群」
乾くるみの「クラリネット症候群」を読みました。「マリオネット症候群」と「クラリネット症候群」の2作品(中編)が入っている作品集です。
いまでは徳間文庫から出版されていますが,そもそも徳間デュアル文庫というライトノベル系レーベルで刊行された本で,主人公はいずれも高校生です。
マリオネット症候群は,人を殺したら被害者の精神が加害者の肉体に入ってしまい,加害者の風体のまま行動は被害者が操るものとなり,一方加害者の意識も消えないで残っているが,体は操れなくなるという状況。いくつかの殺人事件が連続して起こり,次々に加害者の肉体が被害者に乗っ取られて,そこから起るミステリー的ドタバタが描かれていきます。不思議な事を考えましたね,乾さん。
主人公少女の母親の正体(精神として中に入っていた人)や主人公自身の正体などのサプライズもあって面白く読む事ができますが,推理小説の謎的興味はあまり感じられません。もちろん本格推理小説的なところはほとんど無い作品ですwww。
クラリネット症候群は,あるきっかけからクラリネットをいじめっ子に壊されてしまった高校生の主人公少年が,他人の発する言葉のうち「ドレミファソラシド」の音のみが聞こえなくなるという現象が起ります。主人公少年は父の名も知らず,母は失踪,親切なクラリネットの持ち主の家に同居して暮らしていました。しかもクラリネットの持ち主は少年を正式に養子にしてくれていた事も分かります。
そんな主人公が,クラリネットの持ち主の誘拐事件に遭遇し,思いを寄せる先輩少女やヤクザが関連する事件に巻き込まれる・・・。
この作品は,結局暗号解読小説で,マリオネット症候群よりもこの作品の方が私としては面白かったです。謎的興味はマリオネットと同じ様にありませんが,この先どうなるのかという予想がつかない展開感が強いのです。主人公が思いを寄せる先輩少女の言葉が,クラリネット症候群によって高校生少年にとってドキリとする様な言葉になってしまい勘違いしてしまうところも,本筋とは関係ありませんがよくできていました。またクラリネット症候群は,暗号解読の際にも役に立ちます。
最後は多少御都合主義的なあっと驚く父親も見つかり,子どもがいない実父の妻からは落ち着いたらウチの子になってほしいと言われ,派手は爆発シーンがある割には誰も死亡する事もなく,一応めでたしめでたしで終わります。主人公のクラリネット症候群はあるきっかけから結局1日で直ってしまい,逆にクラリネットを壊したいじめっ子の方がドレミファソラシドが発音できなくなってしまっていた事が分かります。因果応報という事ですね。
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