三津田信三の「厭魅の如き憑くもの」(ちょっとネタバレ)
三津田信三の「厭魅の如き憑くもの」を読みました。
因習に満ちた山深い神々櫛(かがぐし)村。村のあちこちに蓑と傘を着けたカカシ様と呼ばれる案山子が祭られ,信仰を集めさらに怖れられていました。その村ではかつて,子どもの神隠し事件がいくつも起こっていました。
その村は昔から,谺呀治(かがち)家と神櫛(かみぐし)家という2家が対立しています。この二家のうち,谺呀治家は祈祷と憑きもの落としを生業とし,憑きもの筋として村に君臨していました。しかし,二家の現在の当主である老婆同士の因縁の対立にもかかわらず,若い者はロミオとジュリエットのごとく家を超えて好意を持つ・・・。
神々櫛家の三男,漣三郎と谺呀治家の双子の妹,嵯霧がそんな関係。漣三郎は6歳の時,9歳だった長兄の聯太郎と谺呀治家の裏山,九供山へ冒険に行き,兄が行方不明になったという事件を経験しています。九供山は村の災いの源と見なされている山で,ナガボウズという化け物が棲むとされています。一方の嵯霧は,谺呀治家の女児が巫女や憑座になる儀式,9歳になると行われる九供儀礼で,宇迦之魂(うかのみたま)という薬酒を飲んだ姉の体調が急変,その葬儀が性急に行われたという経験を持っています。
そんな村へ取材にやってきた怪奇幻想作家である刀城言耶(とうじょうげんや),ちょっと頼りなさげに見える名探偵の登場です。
その神々櫛村で,というか谺呀治家で起こる連続殺人事件。4つの殺人事件では,被害者はそれぞれ,櫛,竹の皮,傘などを口にくわえさせられ,カカシ様の蓑と傘をかぶって死んでいました。そしてそれらは不可能犯罪。様々な状況により,誰にしろ犯行が不可能と思われる殺人事件でした。
この作品は,長編の中でも長い方だと思いますが,中盤まで村や登場人物の説明,登場人物たちが経験した怪異の説明に費やし,そのあと矢継ぎ早の連続殺人事件,そしてラスト,少なくとも4つの解決が刀城言耶によって語られ,最後についに刀城言耶が真犯人を指摘する。そこまでは見事な本格推理小説なのですが・・・,最後の最後,刀城言耶は指摘した真犯人が連続殺人事件の一つにアリバイを持っていることに思い至り,読者の背筋を寒からしめて終わるということになります。
この手のエンディングを持った長編推理小説として,ディクソン・カーの傑作「火刑法廷」や高木彬光の「大東京四谷怪談」などがありますが,「厭魅の如き憑くもの」はその伝統に則った傑作といえるでしょう。(ここら辺,ちょっとネタバレなのですが,作者自身が「最後まで読まなければホラーなのかミステリなのかわからない小説は書けないだろうか。」という言葉で公表していますから,まあいいでしょう。
私は電子書籍端末でこの作品を読みましたが,いくつもの図版や家系図のページに全てインデックスをつけ,それらを参照しながら読みました。そんな読み方をするには,電子書籍は最適です。そして,そんな読み方をしなければならないことを覚悟の上,じっくりこの作品をお楽しみください。
三津田信三の刀城言耶シリーズは,この作品が第一作ですが,既に全て読んでいる娘によると, 3作目の「首無しの如き祟るもの」がシリーズ最高傑作だということです。次はそれを読むかな・・・。娘も自分の電子書籍で読んでいるのですが,紙の本のように家族の間で自在に貸し借りできないところが,読者にとっては難ですねwww。
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