三津田信三「山魔の如き嗤うもの」
三津田信三の「山魔の如き嗤うもの」を読了しました。
奥多摩にある神戸地方,そのいちばん手前にある初戸出身の郷木靖美(のぶよし)が,初戸につななる三山に1人で登って帰ってくるという「成人参り」に出かける。それは初戸に昔から伝わる青年の成人の儀式でした。
しかしその成人参りで道に迷ってしまい,靖美は忌み山として畏れられている乎山に迷い込む。そこで思いがけなく,大きな家屋を発見する。そこでは,若いとき家を出て行方不明になっていた神戸地方の奥戸の有力者鍛炭家の長男一家,立一と後妻のセリ,前妻の息子の平人,後妻セリと立一の長女ユリ,セリの母のタツが暮らしていた。
ところが翌朝,靖美が起きてみると,朝食の途中と思われる状況で郷木立一一家全員が家から消えていた。ところが家の二つしかない出入り口には内側から閂が下りていたし,二つしかない山道のどちらからも出た者がいなかった。二重の密室状況の中で,立一一家が消えていたのです。
そんな事が記載された郷木靖美の手記を入手したおなじみ,怪奇小説作家にして名探偵,刀城言耶が奥戸の地を訪れ,奥戸のもう一つの有力者,楫取家に逗留して事件を解決しようと試みます。
そんな最中,鍛炭家の一家が順々に殺害され,さらに楫取家の当主力枚(りきひら)までもが殺害されるという連続殺人事件が起ります。しかも,村内各所に祭られている黒,青,金,黄,赤,白の各色の地蔵から盗まれた前掛け(よだれかけ)を首に着けられて。それも,各色の地蔵を謡い込んだ昔から奥戸に伝わるわらべ歌に擬えて。
残念ながら,前述の密室状態の解決は常識的なもので,それほどたいした事はありませんでした。しかし立一一家の秘密や最後の真犯人として指摘される人物の二転三転などは,推理小説としての見所です。
この作品,刀城言耶シリーズの第4作ですが,私としては,「厭魅の如き憑くもの」「首無の如き祟るもの」に続く位置を占める作品でした。
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