河野裕の「つれづれ、北野坂探偵舎」シリーズの第6作,「物語に祝福された怪物」
河野裕の「つれづれ、北野坂探偵舎」シリーズの第6作,シリーズ最終作,「物語に祝福された怪物」を読みました。
このシリーズについては,これまでもこのブログで紹介してきました。ついに今回が最終作,完結編となります。
このシリーズ,1作目から3作目までは,「つれづれ珈琲店」店主にして「北野坂探偵舎」の探偵,元書籍編集者の佐々波が依頼を受けた事件を解く推理小説でした。もちろんそのバックでは,過去の交通事故からはじまる紫色の指先という幽霊と佐々波の友人,作家の雨坂続,雨坂の姪のノゾミと第一作での探偵依頼人,高校生〜大学生,小暮井ユキの物語が,ゆったりと流れていました。
しかし4作目以降は,紫色の指先とそれに取り込まれた人物,というか幽霊達,彼らに佐々波,雨坂,小暮井ユキが関わっていく物語で,むしろ4〜6巻というより一つの作品の上,中,下巻というものになっています。これまでのバックの物語が表に出てきて,その物語が大団円にむかう話が4作目以降です。
今回は第5作「トロンプルイユの指先」から2年後の物語です。佐々波は珈琲店の運営を完全にウェイトレスだったパスティーシュに任せており,探偵舎も閉めて編集者に返り咲いています。前作の続きとして,雨坂続は紫色の指先の世界に行って「トロンプルイユの指先」の続編小説を執筆中で,現世では病院で眠り続けています。
そんな状態から,小暮井ユキが,そして佐々波が紫色の指先の世界に渡り,雨坂続の姉や天才的な小説家であるその夫,ノゾミやもちろん雨坂続,そして紫色の指先と交流する様を描いたのが今作です。
結局今作で,紫色の指先の世界を操り,雨坂や佐々波やユキ,紫色の指先自身にいたるまで,だれが動かしていたのかがわかります。何故動かしていたのかもわかります。
紫色の指先の正体が分かりかけますが,それはその世界を動かしていた人物が仕組んだフェイクである事が明らかになります。
結局最後に至っても紫色の指先の正体は分からないのですが,それで終わるのがこの物語では正解でしょう。「紫色の指先が誰なのか分からない」と不満を持っている方がいる様ですが,この作品は分からなくて正解です。パスティーシュの背景も分からないと不満を言っている感想をネット上で見ましたが,パスティーシュは,初登場時にキャラが立っていたけれどもほんの脇役だったという事で,物語全体に不満を持つ必要はありません。
完結作として上手く美しく終わったという感じです。でも,推理小説ではありませんでしたよ。
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