アガサ・クリスティの「動く指」
クリスティの「動く指」は,おそらくクリスティ作品としては有名でない方の一作だと思います。クリスティ作品は全作読んだ事がありますが,内容を忘れてしまっている作品です。だから再読(本当は再再読くらいかもしれない)。
飛行機事故でけがをして,静かな田舎で静養する様医師から勧められたジェリー・バートンが,妹のジョアナと共にやってきたのは,リムストックという田舎町です。バートンが引っ越してきたとたんに,「ジェリーとジョアナは本当の兄妹ではない」という内容の,下品な言葉を連ねた誹謗中傷の手紙を受取ります。宛先はタイプライターで打ってあり,手紙自身は印刷物から活字を拾って貼付けたものでした。
ジェリー達は,はじめは自分たちがよそ者だからそのような馬鹿げた手紙を受取ったのだろうと考えましたが,診察にやってきた町の医師から,町の誰彼となく同様の誹謗中傷の手紙を受取っている事を告げられます。しかもその内容が嘘としか思えず,町の誰もが信じていないという手紙です。
そんな中で,町の事務弁護士ディック・シミントンの妻が自殺する事件が起りました。「次男が夫の子どもではない「という手紙を受取った直後の事件でした。誰も信じていない嘘くさい一連の手紙ですが,へたな嘘も数打ちゃ当たるという事で,ひょっとして真実を掘り当てたのか・・・・?
さらに,シミントン家のお手伝いのアグネスが,以前一緒に働いていたバートン家のメイドであるパトリッジに相談したいことがあると電話してきてバートン家に来る事になっていたにもかかわらず,ついにやって来なかったという事件が起ります。アグネスはそのまま行方不明になってしまったのです。結局アグネスは,シミントン家の階段の下の戸棚で他殺死体となって発見されました。アグネスはディック・シミントンの妻が自殺した日から様子がおかしく,誹謗中傷の手紙をシミントン家のポストに投函した者を見たのではないかと思われました。
誰も信じていなかった誹謗中傷レター事件が殺人事件に発展してしまい,町の牧師の妻が旧知のミス・マープルを呼びよせます。この作品全体の75%という終盤で,やっと名探偵ミス・マープルが登場します。この後,あまりミス・マープルの活動も描かれませんが,残り25%で見事に真犯人を指摘します。
この作品全体がジェリー・バートンの一人称で語られますが,ジェリーとミス・マープルが深く関係しているわけではない為に,たまたまジェリーが牧師宅を訪れたときくらいしかミス・マープルと接触がなく,マープルの探偵活動や発言はそれほど描かれません(ジェリーとしては描き様がないのです)。ミス・マープルの推理は,真犯人が捕まってすべてが終わった後,彼女の口から語られます。
この作品では,町の人々がそれぞれ個性的に印象的に描かれ,ミステリーである前に読み物として面白いものに仕上がっていました。しかしまあ謎ファンとしては,もうすこしミステリー要素が濃かったらなあとは思いました。
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