クリスティーの「NかMか」
クリスティーの「NかMか」は,トミーとタペンスのベレズフォード夫妻が活躍する長編小説です。ベレズフォードシリーズでは,屈指の傑作とされている作品で,私は何回か読んでいるはずで,さらに英国BBCが制作したテレビドラマも見ているはずですが,すっかり内容は忘れていて,たいへん面白く読みました。
第二次世界大戦中,ドイツのスパイを追っていたイギリス情報局員が,「NかM。ソング・スージー。」と言う言葉を残して死亡します。情報局はNとMはドイツ人の男女二人のスパイを表し,ソング・スージーはイングランド南部の保養地,リーハンプトンにあるゲストハウス「サン・スーシ(日本語では「無憂荘」)」の事であるのを突き止めます。そこで,ドイツ側に知られていない人物としてトミーを無憂荘に送り込むのですが,そこには情報局のグラント職員とトミーの会話を盗み聞きしたタペンスが先回りしていました。
というわけで,無憂荘という限られた館,そこに滞在している人々のうちだれがNとMなのかを突き止めるベレズフォード夫妻の活動が始まります。
ポアロやミス・マープルが活躍する本格推理小説と違って,コメディー仕立てのクリスティーのスパイものは実に楽しい。特に本作はNとMの正体をめぐって,クリスティーのスリラーとしては最も本格推理小説寄りの作品で,ミステリーファンも満足する作品になっていると思います。
トミーとタペンスシリーズでは,「親指のうずき」も印象的な謎に満ちている作品ですが,こちらは印象的な分,筋立てをかなり覚えているので再読までには至りません。「NかMか」は「親指のうずき」に次ぐ面白さの作品といえそうです。
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