クリスティーの「白昼の悪魔」
最近クリスティーづいている私ですが,「白昼の悪魔」を読みました。
小学生のころから今までに,既にクリスティーの全作品を読んだことがあるはずの私ですが,この作品と別の作品を取り違えて記憶していました。別の作品というのは,「死との約束」です。「死との約束」は,親族や周囲に絶対権力をふるう嫌な女性が登場し,登場人物達も読者も早くクタバレと思うのですが,そんな女性をクリスティーは必ず殺してくれます。鉄板の死亡フラグの立った女性が,中東の焼け焦がすような陽光の下で死んでいたというミステリーです。この「陽光の下で」というのと「白昼の」というのが被ってしまい,私の頭の中で取り違えが起こったようです。
さて白昼の悪魔ですが,舞台は英国デボンシャーのスマグラーズ島という小島です。本土とは満潮時には海面下に隠れてしまう細い渡り道でつながっている小島です。この島の邸宅を改造したホテルに,名探偵エルキュール・ポアロをはじめ10名程の滞在客が泊まっていました。その中に,アリーナ・マーシャルという女性がいいました。夫ケネスと彼の連れ子ともにこの島に避暑に訪れたこの女性は,アリーナ・スチュワートという名で有名な女優でした。女性として魅力的なこの女性を見て,滞在客の一人,パトリック・レッドファンという若い男が夢中になってしまいます。妻であるクリスチン・レッドファンと一緒に滞在しているにもかかわらず・・・。アリーナを巡る夫ケネスとパトリック・レッドファンの三角関係,もう一つ,アリーナとパトリックとその妻のクリスチンの三角関係。二つの三角関係が手際よく説明され,何か起こりそうな雰囲気がかもしだされます。
ある滞在客は,アリーナのことを「男をたぶらかすわがままな悪魔」と呼びますが,上述のようにクリスティー作品では,そんな登場人物は被害者と決まっています。やがて島のとある浜で,彼女の絞殺死体が発見されました。
この作品は1941年に発表されたものですが,クリスティーの傑作の一つとして広く知られています。
物語のラスト,ケネス・マーシャルの娘リンダ(被害者アリーナにとっては夫の連れ子)が,「自分が継母を殺した」という遺書を残して自殺未遂を起こし,まさかそれが真相ということはないよねと思っていると,滞在者たちが集まっている場で,ポアロは別の人物を犯人として言及します。しかし,その男で犯人は決まりと思ったとたん,急に矛先を変えて別の人物を真犯人として指摘するのです。論理的に推理が成り立っているとしても,物的証拠がなく,犯人に動揺を与えて自供を促す作戦でした。
一件落着の後,皆にせがまれてポアロが真相を見抜いた推理過程を披露します。読者は冒頭のシーンを読み返し,そこにトリックの手掛かりが指摘されていたことに「してやられた」感を覚えるのです。
やはりクリスティーは面白い。次は何を読もうかな?
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