三津田信三の「密室の如く籠るもの」
三津田信三のミステリーについては,これまで7作ほど紹介しました。刀城言耶シリーズと死相学探偵シリーズの2シリーズを読んできたわけですが,今回紹介する「密室の如く籠るもの」は刀城言耶シリーズの一作です。これまで紹介してきた長編に対して,これは「首切りの如き裂くもの 」「 迷家の如き動くもの」「 隙魔の如き覗くもの 」「 密室の如き籠るもの」の四つの短編が収録されています。
どの作品も,刀城言耶が最初から登場するのではなく,まず登場人物が怪異に出会い,何らかの状況で途中から刀城言耶が登場し,その怪異の謎を解くという構成になっています。
各作品は,短編とはいえ或る程度の長さの作品で,中編といっていい読み応えがありました。最後の「密室の如き籠るもの」は,密室状態の蔵座敷でそこに籠もっていた女性が刺殺される事件で,刀城言耶は江戸川乱歩やディクソン・カーの密室講義を持ち出して,他の登場人物たちを辟易とさせますが,今回の密室事件がその分類のどれに当て嵌まるかを検討していく話で,推理小説ファンがニンマリするような展開となっています。
蔵座敷にあった赤い箱の中身の意味は何か?,被害者が蔵座敷に入る時,皆が並んでいる方を振り向いて凍りついたような表情をした(まるでクリスティーの作品のように)のはなぜか?,もちろん密室の謎,等々,細かい謎から大きな謎まで,絢爛たる謎が揃っています。密室の真相は,乱歩のカテゴリー分けに収まらない,新たなカテゴリーのものでした。
しかし,やはり中編集。どの作品もいささか真相やラストがあっけない感じで,長編のようにはいきませんでした。とはいえ,怪異を扱った推理小説として,とても面白い作品集だと思います。
刀城言耶シリーズの短編集には,他に,2011年7月に刊行された「生霊の如き重るもの」,2019年7月に刊行された「魔偶の如き齎すもの」があります。順次これらを読んでいこうと思っています。
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