« 在宅勤務でも背広とネクタイを | トップページ | アメリカでは,学生が大学を訴える »

2020/08/04

もうひとつの傑作,横溝正史「夜歩く」

Yoruaruku 横溝正史の代表作といえば,本陣殺人事件,獄門島,悪魔の手毬唄,八つ墓村,蝶々殺人事件ということになります。今回,ふとしたきっかけで「夜歩く」という作品を読んでみると,これもまた横溝の傑作の1つでありました。
 横溝作品はほとんど読んでいますから,この作品も過去に読んでいます。しかしそれは角川文庫で初版が出版された時ですから,もう47年前の事です。当然細かい筋立ては忘れていましたが,特徴的な犯人は覚えています。それでもなお,東京で起こった殺人事件が,後編で舞台を岡山県に移し,金田一耕助が登場する筋立ては非常に面白く,久しぶりに「巻を置くに能わず」という気分を味わいました。
 岡山県の地主古神家一家とその番頭格の千石家一家が住む東京小金井のみどり御殿で起こった首なし殺人事件。古神家の一族の男子は,傴僂の家系で,死亡していたのも傴僂の男性の首なし死体でした。首がないのでそれが誰だか特定できないが,遺体の年格好で考えられる者が当時の屋敷には2名いました。そしてその2名は,失踪して行方不明であり,遺体がそのどちらのものなのかわからない状況でした。
 前半の小金井編でいろいろあって,そして後半,舞台は古神家の地元岡山県に移り,ここでも首なしの女性の死体が見つかります。そしていよいよ名探偵,金田一耕助と盟友の磯川警部が登場し,ラストに向けて謎解きが展開されます。
 この作品の死体の首を切る理由は,前例がないと思います。さらに,最後に関係者全員集めた金田一耕助の謎解きの最中でも,真犯人とは異なる人物を読者は犯人と想定してしまい,それが故に最後に明かされる真犯人には驚く読者が多い事でしょう。
 フーダニットとしてサプライズエンディングも味わえる作品です。横溝正史の「夜歩く」は,高木彬光の「刺青殺人事件」と坂口安吾の「不連続殺人事件」への挑戦だと言われていますが,47年ぶりに読んでも感心しました。
 ところで,「夜歩く」という題名は,夢遊病による夜中の俳諧を表しています。夢遊病の家系である千石家を象徴した題名です。

|

« 在宅勤務でも背広とネクタイを | トップページ | アメリカでは,学生が大学を訴える »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 在宅勤務でも背広とネクタイを | トップページ | アメリカでは,学生が大学を訴える »