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2020/11/21

横溝正史の「三つ首塔」(ややネタバレ注意)

Mitsukubi-tou 横溝正史作品で文庫本になっているものは全て過去に読んでいるはずなので,「三つ首塔」も読んでいます。しかし記憶にあるのは,三つ首塔にたどり着いて感慨に耽る主人公たちの光景から始まる冒頭の印象のみです。この作品をもう一度読みました。
 初読当時は毎月のように次々と横溝作品の文庫本が発売され,流れ作業のようにそれらを読んでいった時代で,一作々々をじっくり読んでいくような状態ではありませんでした。今回じっくり読んでみると,やはり面白い作品でした。
 中学生の時に両親を病気で亡くした宮本音禰は,母の姉の嫁ぎ先,大学文学部長の職にある上杉誠也教授の家で令嬢としてなに不自由なくらしています。その音禰の運命が転がり出したのは,アメリカにいる遠縁の親戚が,弁護士を通じて100億円の遺産を音禰に譲りたいという連絡をしてきたことによります。遺産を譲る条件は,高頭俊作という青年と結婚する事。ある意味理不尽な条件です。
 音禰自身がこの話に乗るのかどうか迷っている時,たまたま上杉文学部長の還暦のお祝い会が開かれます。そこで遭遇する3件の殺人事件。余興のアクロバットダンサーの女性,高頭俊作を探すために上杉家に雇われた探偵,さらに,その探偵が見つけた高頭俊作自身が毒殺されたのです。その場で気を失って倒れて,別室を与えられて寝ている音禰の元に現れた高頭俊作の従兄弟,高頭五郎と名乗った青年。音禰はその青年に手籠にされてしまいます。
 やがてその高頭五郎は,弁護士側の探偵,堀井敬三と名乗って再び音禰の前に現れます。高頭俊作が殺されたため,100億円の財産は富豪の日本人の遠縁の者で分けることになり,堀井は遠縁の者を探すために雇われた探偵でした。その富豪の親戚が一堂に集まる会に,弁護士とともに堀井敬三が出席していたのです。親戚とその周りの者たちは,終戦直後の不安定な時代にあって曰くありげな人物揃い。
 やがて,その親戚とその周り者が続けて殺される事件が起こっていく・・・。
 物語は音禰の一人称で語られます(中盤で,この小説は音禰が綴った事件記録であることがわかります)が,警察サイドの等々力警部と金田一耕助のチームに疑われているのではないかという音禰の焦躁,恐れながらも関係を断てない高頭五郎に悩む音禰。結局その後,音禰は高頭五郎と共に警察サイドや殺人者からの逃避行を繰り広げることになります。
 やがて発見される三つ首塔。なぜか高頭五郎はその塔に執着している様子。音禰も実は子供の頃その塔を見た記憶がある。その地での冒険。
 この作品,横溝先生自身はあまり評価しておらず,その理由の一つは「本格推理小説ではない」というものだったようです。謎としては,連続殺人事件の犯人が最後まで隠されており,しかもフーダニットとしてサプライズエンディングといっていい結末ですが,そんな謎よりも一人称で語られる音禰をめぐるサスペンスが半端ではなく,高頭五郎は音禰の敵なのか味方なのか,いいやつなのか悪いやつなのかを含めて,そんなサスペンスの方が気になって,本格推理小説として読めません。
 最後,探偵が関係者を集めて「さて・・・」というのが本格推理小説だとすれば,この作品では三つ首塔の古井戸に落とされて絶体絶命の音禰と五郎,それを助けるのは音禰が敵として恐れていた金田一耕助。その時の金田一耕助のカッコ良さは,横溝先生の本格推理小説作品では味わえません。
 横溝先生としては,雑誌連載の終了の都合で最後が十分に書き込めず,それも不満の元になっているらしいのですが,最後に付け加えられた「大団円」の章でもわかる通り,ハッピーエンドで終わります。最初に音禰が五郎に手籠にされた件を含めて,ハッピーエンドとなります。
 ややエロチックな部分があり,初読の頃の高校生としては "ちょっと・・・” というところがあったのですが,今となっては大したことはありません。実に面白いミステリーでした。

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