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2021/03/10

クリスティーの「死との約束」

Appointment-with-death 最近フジテレビで放送された野村萬斎主演の「死との約束」は,アガサ・クリスティー原作の同名推理小説を,舞台を日本に変えて三谷幸喜が翻案したものです。原作はヨルダンの死海とアカバ湾の間の渓谷にあるペトラ遺跡が舞台,野村萬斎版では和歌山県の熊野古道が舞台です。この原作本を私は高校生の時に読んでおり,今では被害者と犯人だけ覚えているという状態でした。
 原作に関してはそんな状態でしたが,「死との約束」については,数年前にデヴィッド・スーシェが名探偵ポアロを演じたテレビドラマを見ています。野村萬斎が名探偵ポアロならぬ勝呂を演じた今回のドラマとスーシェがポアロを演じた英国のドラマとは,内容がずいぶん違います。気になったので家にあった原作を探し出し,パラパラとめくってみました。そうしたら,今回の野村萬斎版こそ,原作をかなり忠実にドラマ化したものだった事がわかりました。もちろん長い原作を2時間ドラマにしているわけですから,全く同じというわけではありませんが,クリスティーの原作をかなり尊重した作りになっています。
 野村萬斎版=原作では,被害者であるボイントン夫人の夫は死亡しています。それに対して英国ドラマ版では,被害者の夫であるボイントン卿が遺跡発掘の責任者として登場しています。そして英国ドラマ版のボイントン夫人は株で儲ける会社持ちの大金持ち。野村萬斎版=原作では,女性刑務所の元看守。亡き夫は刑務所長でした。野村萬斎版=原作では,ウェストホルム卿夫人は代議士,英国ドラマ版では旅行作家。登場人物の設定,動機,殺害方法さえ異なり,したがってポワロの推理も違います。
 英国ドラマ版は,"家族を金と恐怖で支配するボイントン夫人が被害者である事" と "犯人の設定" が原作と同じだけで,クリスティーの「死との約束」とは別物のドラマとなっていました。なぜこれほど徹底的に改変したのか,不可解に思うほどです。
 「死との約束」には,もう一つ,映画版というのがあります。ピーター・ユスティノフがポアロを演じた「死海殺人事件」です。私はこの作品も見ているのですが,すっかり忘れてしまっています。こちらはどういう内容だったのか,もう一度見てみたいと思います。

 さて,ここでネタバレ的な記述をします。「オリエント急行の殺人」と「死との約束」のネタバレです。両作品を読んだ事,映画やドラマを見た事のない方は,ここからはこのブログを読むべきではありません。

---<ネタバレあり>----------------------
 今までそう思ったことがなかったのですが,今回の野村萬斎=原作のドラマを見て,「死との約束」はクリスティーの代表作の一つ,「オリエント急行の殺人」の真逆の設定なんだと思いました。 
 「オリエント急行」では,列車のツアー客は,被害者と関係ない偶然乗り合わせた人たちで,被害者にはなんら他意のない人たちだと最初は思われていました。しかしやがてツアー客全員が被害者と関係があった事がわかります。一方「死との約束」では,ツアー客は被害者の家族であって,当然被害者と関係のある人達です。しかも被害者は家族を金とわがままで恐怖支配する,家族にとって「死ねばいい」とか「殺したい」と思っている存在です。そして「オリエント急行」では,ツアー客全員が犯人でした。「死との約束」では,ツアー客全員に殺害動機があるにもかかわらず,ツアー客全員が犯人ではありませんでした。
 確かに真逆ですよね。この「オリエント急行」と「死との約束」の関係(真逆の設定である事)は,世間ではあまり言われていないと思います。少なくとも私は,そんな指摘に出会った事がありません。

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