山沢晴夫「死の黙劇」を読みました
山沢晴夫はあまり知られていない推理作家です。プロというより大阪市水道局に勤務しながら本格推理小を書いていた作家です。作品は創元推理文庫から,短編集「死の黙劇」と長編「ダミー・プロット」が出版されています。このうち,短編集の方を読みました。
山沢氏の作品は,「銀知恵の輪」をはじめとしていくつかの作品は様々なアンソロジーに採用されており,そこで読んだことがあります。この作品集に収録されているいくつかの作品は,そんなアンソロジーで読んだ覚えがあります。
山沢晴夫の作品の多くに,探偵,砧順之介が登場します。そしてその短編集。9作品が収録されています。そのどれもがアリバイトリックを使った作品です。例えば,自動車事故が起こり運転者が死亡しますが,その運転者はミイラのように頭部全体に包帯を巻いていて,検死のためにその包帯をとってみると,何ら損傷されていない顔が現れた・・・包帯を巻いていたのは何故?・・・という魅力的な謎から始まる短編も,結局アリバイトリックになっていく。アリバイトリックというのが,山沢氏の特徴といえます。密室を絡めた作品もあるのですが,それもやはりアリバイトリックになっていきます。
そういう意味では,これだけの作品が並んでいて,いささかアリバイトリックに食傷するという面も無きにしも非ずです。プロになり切れなかった山沢氏ですが,それも理解できる気がします。しかしとにかく,本格推理小説らしい本格推理小説といえるでしょう。
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