はやみねかおる著「奇譚ルーム」
はやみねかおるの作品は,名探偵夢水清志郎シリーズや少年探偵 虹北恭助シリーズなど,これまでもこのブログで紹介してきました。主にジュブナイルミステリーの作家です。
ここで紹介する「奇譚ルーム」は,ストレートにミステリーというには変化球すぎるかもしれません。登場人物が自分の知っている奇譚を披露していく構成から,各お話は奇譚といえるホラーやファンタジー的な話といえるでしょう。しかし後述する謎もあるし,エンディングまで読めば,ミステリーだったと思えるのです。
舞台はゴーグルをかけて参加する,「ルーム」というVR的なSNSです。そこに物語の語り手が招待されるところから話が始まります。そこには,シロクマやゾウなど,動物のぬいぐるみをアバターとした10人の参加者が集まっていました。「ルーム」は主宰者が独自のテーマを持ったルームを開設し,そこに参加者を招待できるシステムです。主人公が招待されたのは,「奇譚ルーム」という名のルームでした。
主宰者は10人の参加者の中にいるはずですが,それが誰(どのアバター)かはわかりません。主宰者は「マーダラー(殺人者)」と名乗って神の位置から奇譚ルームに参加してきます。しかも参加者を実際に殺す事ができると宣言し,参加者の中の一人を消し(リアルな殺人?),別の参加者をリアル世界で骨折させしまいます(ルームで殺された少年は,後で調べると,それらしい交通事故の死亡者がいた事がわかる)。マーダラーは,参加者が毎週このSNSに集まり,奇譚といえる話を披露することを要求します。その奇譚がつまらない,またはマーダラーの興味をひかなければ,語り手を殺すと言います。そうして毎週1~2回の奇譚ルームで,一人,また一人と,奇譚の話し手が消されていきます。
ルーム内から消された人は,マーダラーが言うように実際に殺害されているのか,マーダラーは参加者のだれなのか,マーダラーが奇譚ルームを作った目的は何か,謎が深まります。
そしてエンディング,サプライズエンディングといえるでしょう。ルームで消された参加者は,現実世界でも消されていることがわかるのですが,一種のハッピーエンドといっていいでしょう。主宰者がルームを作った目的,参加者を消す意味,それぞれ納得できるものです。まあジュブナイルで,一人一人が消されていくというのは穏やかではありませんが,最後まで読めば納得できますよ。
リアル世界でもルームの参加者が消されていくのにハッピーエンディングとはどういう事かと思うかもしれませんが,それが成立するこの特殊なシチュエーションを考え出した作者に拍手を送りたいと思います。
この「奇譚ルーム」には,2020年に出版された続編があります。「夏休みルーム」という作品で,「奇譚ルーム」の最後に誕生した「探偵ルーム」で,探偵助手になった主人公が遭遇する事件の数々を描くものの様です。「奇譚ルーム」よりはミステリーしているようで読みたいのですが,電子書籍版は今のところないのです。
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