森博嗣の短編「ぶるぶる人形にうってつけの夜」
先日の「刀之津診療所の怪」の時に,「ぶるぶる人形にうってつけの夜」を再読したくなったと書いたのですが,やっぱり再度読みました。「今夜はパラシュート博物館へ」という短編集に収録されている短篇作品です。
三人称視点で書かれた作品ですが,Vシリーズでおなじみの国立N大学に通う医学生,小鳥遊練無の見聞に沿っで書かれています。
練無が大学の図書館に入った時,掲示板にレポート用紙がセロテープで貼りつけてあって,そこに「ぶるぶる人形を追跡する会(一般参加を歓迎)」と書いてあるのを目にします。それを眺めているとき,後ろから「あなたもこれに?」と声を掛けられます。振り向くと会ったことのない女性が立っていました。「私の事はフランソワって呼んでちょうだい」というこの女性,練無をぶるぶる人形を追跡する会に誘います。このぶるぶる人形については,昨夜,練無が阿漕荘の自室にいる時,向かいの部屋の香具山紫子がやって来て,今度の土曜日の夜,ぶるぶる人形を見る会に一緒に参加して欲しいと頼まれていました。
ぶるぶる人形とは,紫子によれば「大学院生の女の人が,ノイローゼで自殺して,その直前に残した遺書がびりびりになり人形の形になって,それがその人の死んでいる場所を知らせたとかいう話」だそうです。練無が通うN大学に現れるという20~40㎝紙の人形で,夜,校内のあちこちで踊りを踊り,最後には燃えて燃えがらになってしまうのだといいます。
やがて「追跡する会」当日,フランソワと名乗る女性や紫子も参加する中で,会の主催者が案内する校内の3カ所の建物のうち,最後の三番目の建物,工学部4号館でぶるぶる人形を目撃する事になります。予想に違い,上から吊って紙を躍らせているのではない様です。
この短編は,人形のからくりとフランソワが誰なのかが謎となって読者を引っ張ります。女性は「フランソワ」とも「西之園」とも名乗りますが,萌絵ではありえません。わざわざ三つも建物の配置図を掲載して,萌絵を暗示していたのですが,西之園萌絵なら練無より年下のはずですからね。そしてそれから何十年か後,「刀之津診療所の怪」での,練無の「懐かしいなあ。お茶でも淹れましょう。フランソワ」という発言になるわけですwww。
S&MシリーズとVシリーズの交錯する物語でした。
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