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2023/03/11

森博嗣の「χ(カイ)の悲劇」(たいぶネタバレ)

Kai-nohigeki 森博嗣のGシリーズ前作,「λ」で,島田文子が登場し,「香港に行く」と西之園萌絵に話している状況から,香港が舞台,島田文子が香港で体験した状況を描く本作「χ」の時代は前期Gシリーズと地続きなのかと思っていたら,最後に明かされた島田文子の年齢を聞いてびっくり。たしかに,今作では,香港に来てどのくらいたったのかは言及されていません。香港の会社に新規入社して,「χ」事件の時は相当の地位にいるらしいから,島田文子が長い間香港に来て長く経っていてもおかしくはないです。前作「λ」での萌絵と島田文子との会話から,今回の「χ」が「λ」の直後だと思ったのは,こちらの一方的な勝手な思い込みという事です。
 そのつもりで読むと,「χ」のはじめに新入社員との会話の中で,島田文子は「長らく日本語を話していない」といっており,たしかに香港が長いのだろうと気づくべきだったのでしょう。
 本作は,ある時期真賀田四季側にいた島田文子のモノローグにより,これまでのGシリーズ作品の謎の部分が,ある程度(ほんのりとではあるが)語られます。以前の記事で言及した,各作品の犯行動機の部分についてははっきり語られませんが,真賀田四季が直接かかわっていなかったという事は語られます。Gシリーズ各作品,ギリシアアルファベットが係る事件は,真賀田四季の周囲にいた人達による一種の宗教的活動,金もうけのための活動だったという事のようです。
 さらにまた,真賀田四季がやろうとしていることは,世俗の宗教活動や金もうけ,殺人に非ず。真賀田四季側にいた島田文子のモノローグから,彼女なりの人類補完計画(エヴァンゲリオンでいう・・・)であることがわかります。飛行機事故の真相も,島田の理解に限定されますが,一応語られます。問題の飛行機事故で姉をなくしたという金(つまり萌絵の友人,反町愛の夫,金子勇二か?)が納得するというか「もうどうでもいい」と言うくらいには語られます。
 この作品中盤の,島田文子によるネット上のデータ取得の様子の描写は素晴らしい。リアル(と思わせる)ハッキングの様子を文章に起こすとこうなるんだと思いました。ここまでハッキングの様子をリアル(と思わせるように)描いた文章を読んだのは初めてでした。
 これまでの前期Gシリーズでは,加部谷,山吹,海月,萌絵など,おなじみのメンバー達の推理談議が行わていましたが,今回は金,島田,海月による山荘での推理談議が行われます。Gシリーズは全体として推理小説といっていいのかどうか疑問なのですが(はっきりと謎が解決されるとは限らないから),各作品に存在する推理談議の部分は,たしかに推理小説を感じさせてくれます。
 「φ」から「γ」までの前期Gシリーズ作品では,事件の真相,殺人犯人などは,確定的には示されませんでした。登場人物たちの推測が示されるだけ。読者はそれを信じるしかありませんでした。しかし本作では,香港のトラム内の殺人事件の真相が,島田文子のハッキングによる調査によって,ある程度確定的に示されます。それが真相だったのだろうと読者が思えるくらいには確定的に示されるのです。後期Gシリーズが前期とは異なり,皆そんな風ならうれしい。

   次の作品はGシリーズ第11作目,「ψ(プサイ)の悲劇」ですが,なんとなく,Gシリーズの最終作12作目「ω(オメガ)の悲劇」が出てから読もうかなと思ったりしています。「ψ」では,また今作とは容姿の異なった島田文子が出てくるのだろうなと思わせる「χ」のエンディングでした。

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