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2023/10/17

芦辺拓の「大鞠家殺人事件」読了

Ohmarike-satujinjiken 芦辺拓の推理小説「大鞠家殺人事件」を読了しました。
 舞台は商都大阪の商人文化の中心である船場。化粧品や薬品を製造・販売する大鞠百薬館を経営する大鞠家。時は戦前。この小説は,まず船場の商家の丁寧な説明から入り,そこの人々,経営者一家,番頭や丁稚など奉公人が紹介され,さらにその長男,千太郎が難波駅前にあった混雑する大パノラマ館で神隠しに遭う事実が描かれます。長男がいなくなり,妹が奉公人の中から婿を取って大鞠家は続いていく。
 そんな大鞠家の次の世代の長男は大鞠家を嫌い,医者,陸軍軍医になる。その新しい長男に嫁いだ軍人の娘中久世美禰子。軍医の夫はすぐ上海に単身赴任。美禰子は慣れない船場の商家で暮らすことになります。剣道をたしなむ美禰子は,いざという時には凛とした風情で,家内にもあこがれの眼でみる信奉者もできる。
 そんな大鞠家で起こる殺人事件(実は殺人に至らない傷害事件だったが),さらに時を経ずして発見される大鞠家当主(奉公人だった婿)の首つり死体。その検視にやってきた監察医と助手の女医。その女医西ナツ子は,なんと美禰子の女学生時代の友人でした。
 本当はここで気づかなければいけなかったのですが,私は気づきませんでした。美禰子と西ナツ子は,実は他の作品でおなじみだったのです。
 さらに起こる殺人事件,樽に押し込められ,薬品製造用のアルコールで溺死していた家付き娘である当主の妻,風呂の中で殺害された男,天井裏に隠されてたレコードと蓄音機は殺人事件に関係あるのか?
 やがてアメリカとの開戦,大阪大空襲,戦後の焼け野原の中で,生き残った美禰子や西ナツ子,そうして私がやっと気づいた名探偵の登場,中久世美禰子と西ナツ子と言ったら「少女探偵は帝都を駆ける」事件の時の登場人物であり,そこに登場する名探偵が平田鶴子です。鶴子に美禰子とナツ子が語るこれまでの事件の経緯,そして鶴子による怒涛の謎とき。
 これまで芦辺作品を読んでおらず,「大鞠家」が初めての芦辺作品だったとしたら,鶴子登場とその怒涛の謎解きを唐突だと感じる事でしょう。他の作品があっての「大鞠家」での謎解きです(別に謎の解明には,他の作品を読む必要はありませんが,どうしても平田鶴子の登場と謎ときには唐突感は生じますね。「少女探偵・・・」を読んでいれば,むしろ鶴子が出てこない方がおかしいと感じます)。
 船場の商家を舞台にした教養小説的な雰囲気もあり,戦争の悲惨さも描かれ,それでいて戦争があったからこそ因果応報的に悪だくみをしていた者たちが亡くなり,今回の連続殺人の犯人も病院で亡くなる。それを看取った三人の老女,もちろん美禰子とナツ子と鶴子ですね。彼らの最後の言葉,「さあ・・・お茶でもします? 女学生時代もその後もしばらくは,そんな事さえ不自由やったはらいせも込めて?」。
 いやはや面白い推理小説でした。これだから芦辺拓はやめられない。久しぶりに,翌日は寝不足でしたよ。

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