2023/06/05

仁木悦子の「冷えきった街」を再読

Hiekittamachi 仁木悦子の推理小説は,何十年も前にほとんどすべて読んでいるはずです。しかし今では作品名のみ覚えているばかり。そんな仁木悦子作品が,この度創元推理文庫で出版されました。「冷えきった街/緋の記憶」という作品集で,「日本ハードボイルド全集」というシリーズの第4巻目が,仁木悦子に割り当てられているのです。
 仁木悦子がハードボイルド? 私の感覚では,仁木悦子の推理小説は本格推理小説だと思っていたので,ちょっと意外でした。処女作「猫は知っていた」以来の仁木兄妹が活躍し,「日本のクリスティー」と称される仁木悦子作品は,本格推理小説以外の何物でもありませんでした。しかし,この「日本ハードボイルド全集4」に集められているのは,私立探偵三影潤を主人公とする作品です。もちろん三影潤が活躍する作品も過去に読んでおり,しかしその作品がハードボイルドだと思ったことはありませんでした。三影潤の代表作(唯一の長編作品)「冷えきった街」でさえ,密室が出てくるのですから。事件が起こった屋敷の図も,2枚挿入されていて,それで普通ハードボイルドとは思いませんよね。
 そんな「冷えきった街」を再読しました。しかし気分はまったく「初めて読む作品」です。今回読んだのは創元推理文庫版ではなく,講談社文庫版の電子書籍でした。創元の「日本ハードボイルド全集」は,電子書籍版が出ていなかったからです。
 読み終わって,たしかに一種のおとぎ話である本格推理小説とは違う雰囲気は感じました。非常にソフトなハードボイルドですね。まあ,ハードボイルドというより,きわめて本格派寄りの社会派,松本清張に近いような雰囲気を感じました。
 高校から短大,大学,さらに花嫁学校的なレディースクールを運営している堅岡清太郎の家族に,様々な事件が起こっていました。高校生の次男が体格のいい男に襲われてけがをした。次に学校の運営に携わっている長男がガス中毒に倒れた。そしてまだ小さい長女を誘拐するという手紙が届いた。それで,桐影秘密探偵社に依頼があったのです。学校経営に影響するからというので,堅岡清太郎は警察に通報するつもりはないという事でした。
 三影が調査するうちに,家族には評判が悪い次男の高校生,冬樹と心を通わせることができました。堅岡清太郎の子供たち3人は,すべて母親が違います。次男冬樹の母親は心臓発作で10年以上前に亡くなっています。「もし生きていたら・・・」という冬樹に対して三影は,「もしという事はありえない。『もし・・・』の世界の自分は,自分ではない。今の自分こそ唯一の自分なのだから,『もし・・・』を考えても意味がない。」と語ります(この通りの言葉が作品に出てくるのではありません。作品中の文章の意味を汲むと,こういう会話になるのです)。人は「もしあの時,こうだったら」と考えがちですが,三影の言葉は本当ですね。「もし」を考えても意味がないのです。
 事件はさらに,長男の毒殺事件,冬樹の自動車事故へと続きます。冬樹は崖の上から突き落とされて走ってきたトラックの前に投げ出された模様です。話の途中で,三影の調査は冬樹の母親が死亡した真相に迫ります。そしてラスト。やはり本格推理小説ではないのかと思わせるように,驚愕の幕を閉じます。
 傑作といっていいでしょうね。結局今回の事件は,冬樹の母親が亡くなった事件を核とする事件でした。
 三影潤の探偵譚は,この作品以外は短編ですが,短編集「緋の記憶」を早速電子書籍で購入しました。仁木悦子作品は,結構電子書籍化していて,しかも安価なので,これからも楽しめそうです。

| | コメント (0)

2023/05/08

ゴールデンウィークの最終日は雨

Geneijyo-ranpo ゴールデンウィーク最終日の5月7日(日),東京地方は一日中雨でした。
 結局散歩にも行かず,一日中読書三昧。
 何回目かに読んでいるのは,江戸川乱歩の「幻影城」と「続・幻影城」。うちのどこかに文庫版もあるはずですが,今回はKindle unlimitedで,端末にダウンロードして読みました。
 乱歩が雑誌などに発表した随筆や評論を集めたものです。以前このブログで紹介した,坂口安吾の「不連続殺人事件」を絶賛する随筆など,面白いですね。カーの「帽子収集狂事件」など,2度読んでも乱歩が言うほどの傑作とは思えず,もう一回読みたくなりました。

| | コメント (0)

2023/04/05

殊能将之の「鏡の中は日曜日」,ふたたび

Kagaminonaka 先日紹介した殊能将之の「ハサミ男」以来,殊能将之ブームが私の中に起こってしまい,引き続き「鏡の中は日曜日」を再読しました。
 この作品は,以前このブログで紹介しています。2016年7月の記事ですから,なんと7年ぶりに読んだことになります。
 その結果,2016年の紹介記事は,我ながら妥当な記事だったと思います。前の記事でも言及していますが,この作品は紹介するのが極めて困難な作品で,まったくネタバレなしに紹介することは不可能だろうという思われます。なにしろ,読者に対して様々な勘違いを起こさせることを身上とする作品で,叙述トリックを駆使した作品だからです。
 とにかく,第3章で,第1章,第2章での勘違いが次々と覆されていく(正されていく)快感に酔いしれる作品です。まあ,この殊能作品は,「黒い仏」に次ぐ,"本格推理小説とは言えない作品" ですね。

| | コメント (0)

2023/03/31

殊能将之の「ハサミ男」

Hasamiotoko 本来なら,森博嗣のXシリーズ第5作目を読むところを,ちょっと浮気して殊能将之を読みました。これまで「美濃牛」など,いくつかの作品をこのブログで紹介してきた殊能将之ですが,今回は「ハサミ男」を読みました。過去に読んだように感じていたのですが,電子書籍の履歴にこの作品がなく,まだ読んだことがなかったのですね。
 既に二人の女子高生の殺害事件が起こり,マスコミが「ハサミ男」という名前を付けていて,警察が犯人を追っていました。その状況で,「ハサミ男」は三人目の女子高生に目をつけて,尾行で行動を探ったり,学校や自宅を確認したり,犯行の準備をしていました。物語は「ハサミ男」が三人目の女子高生に目をつけるところから始まります。冒頭は,「ハサミ男」の一人称で語られます。そして途中から,警察の磯部刑事の視点でも語られるようになり,「ハサミ男」視点の章と磯部刑事視点の章が交互に現れます。
 そして「ハサミ男」が第三の被害者を殺害しようとして被害者の自宅を見張っていますが,女子高生なのに夜になっても帰宅しません。仕方ないと帰る途中の公園で,意中の被害者が殺害されているのを発見します。しかも,絞殺の後自分が持っているのと同種のハサミでのどを突かれていました。これまでの二件の自分の犯行と同じ手口でした。現場のもう一人の発見者が警察に通報し,「ハサミ男」は発見者の一人として警察の事情聴取を受けます。そして自らも犯人を捜していきます・・・。
 この作品の構造,つまり叙述トリックに脱帽しました。「ハサミ男」と磯部刑事が交互に語り手となるわけですが,磯部刑事目線で認識している「ハサミ男」ともう一人の語り手の「ハサミ男」が同一人物なのかという事です。読者は当然同じ人物だと思うわけですが・・・。
 なお,第三の事件の真犯人は「ハサミ男」ではないわけで,その真犯人が誰かは途中で推測がつきました。

| | コメント (0)

2023/03/30

森博嗣の「ムカシ×ムカシ」

Mukashi-mukashi 森博嗣のXシリーズ第4作目は「ムカシ×ムカシ」です。
 東京郊外の広い敷地を持つ邸宅で老夫妻が殺害され,残された膨大な美術品の鑑定を依頼されたSYアート&リサーチの小川と真鍋が屋敷に赴きます。その屋敷には,殺された老夫婦の孫である若い女性,君坂一葉が滞在していました。
 その後,その屋敷の敷地にある古井戸から,男性の死体が発見されます。死体はこの屋敷,百目鬼家の係累の男でした。そしてそれから,君坂一葉の母,妙子が密室で殺害されます。百目鬼家の古井戸には河童の伝説があり,君坂妙子は皿を頭に乗せて殺害されていました・・・。
 推理小説としては,ホワイダニットの作品です。密室については,「密室物の推理小説はたくさんあるよね」で終わり,どのように犯人が密室を作ったかは明らかにされません。頭の皿の意味もわかりません。眼目はあくまでも "犯人はどんな理由で殺人を犯したのか?" にあります。この殺害動機は,一般的な想像の右上を行くもので,そういう意味ですぐれた作品だといえるでしょう。
 さらにまた,エピローグも印象的です。この屋敷のかつての主人が,何のためにモネの絵画を購入したのかという事に関して,真賀田四季の名が表れます。ここでも彼女の影が表れてくるのですね。Xシリーズでありながら,何だかGシリーズのように感じます。

| | コメント (0)

2023/03/23

森博嗣の「タカイ×タカイ」

Takai-takai 先日の記事で,ChatGPTに内容を要約させようとして,見事に失敗した森博嗣のXシリーズ第3作目「タカイ×タカイ」,読了しました。
 有名なマジシャン,牧村亜佐美宅の敷地内にある高さ15mほどのポールのてっぺんに,亜佐美のマネージャーの死体が乗せられているというところから事件が始まります。XシリーズはGシリーズと同じ世界の話ですが,本作の登場人物が言及するように,やはり高いところに死体が吊り下がっていたGシリーズの「η」は自殺でしたが,こちらは他殺で,自分でポールをよじ登ることはできません。いったいどうやってポールの上に死体を置く(ポールのフックにベルトをひっかけてあったらしい)事ができるのか? この謎は,ポールの図面を見たW大学建築学科の助教である西之園萌絵が解き明かします。
 結局,SYアート&リサーチの小川,探偵の鷹知,それに萌絵の3人が別々の人物を犯人と考え,独自に自分の考えた犯人と思える人物にアプローチします。そして3人の犯人候補から,それぞれ「自分が犯人だ」という自白を引きだします。彼ら3人はそれでいいのですが,収まらないのは我々読者です。いったい自白した3人の中で,真犯人は誰なのか? 三者三様にかばいあって,真犯人を知りながら「自分が犯人だ」と自白してもおかしくない状況です。この作品は,3人の中のだれが真犯人かはわからないまま終わります。まあ,小川ファンは小川の指摘した人物,鷹知の能力を買う読者は鷹知の指摘した人物,これまでの実績から言っても西之園萌絵が指摘した人物が犯人だろうなどと考えるしかありません。
 東野圭吾作品には,やはり犯人が誰だかわからないまま終わる作品がありますが,読者は推理によって犯人を指摘できるように作られています。ところが,森博嗣のこの作品は,三人の中のだれが真犯人か,まったくわかりません。

| | コメント (0)

2023/03/17

森博嗣の「キラレ×キラレ」

Kirare-kirare_20230315205501 森博嗣のXシリーズ第2作目は「キラレ×キラレ」です。
 電車の中で,30代の女性が背中を切られるという事件が発生しました。それほど深刻な切り裂きではなく,衣服を切ったら,少し皮膚も切れてしまい血が出ましたという程度。そんな事件が4件起こります。被害者はみな30代の女性でした。
 たまたま電車に乗っていた某社の男性役員が,その事件の犯人と間違えられたため,SYアート&リサーチに真犯人の捜索を依頼します。そんなわけで,小川&真鍋がこの事件に関わっていきます。
 はじめ,被害者の4人はお互いに何の関系もないと思われていましたが,小川&真鍋の調査で,4人にある共通点があることがわかりました。やがて起こる殺人事件・・・。
 この作品,しっかり本格推理小説しているのですが,前作「イナイ×イナイ」よりも犯人の予想がつきやすいと思います。サプライズエンディングでなかった点は,森博嗣作品らしくないというか,残念でした。最後に電車の中でカッターを持った犯人と対峙する小川を助けたのが,意外なあの人でした。助けてくれた女性は武術の心得があるようだと小川は感じましたが,あの人は武術を習っていましたっけ?

| | コメント (0)

2023/03/13

森博嗣の「イナイ×イナイ」

Inai-x-inai これまで,森博嗣のGシリーズを第1作「φ(ファイ)は壊れたね」から10作「χの悲劇」まで読んできて,先日書いたように第11作「ψ」は未刊の第12作「ω」が発売されてGシリーズが完結した後読もうと思いました。そこで次読む作品として選んだのは「Xシリーズ」です。
 Xシリーズは,美術品鑑定と探偵業を兼業している「SYアート&リサーチ」という東京にある事務所の事務員二人,30代の小川令子と芸大生のアルバイト(報酬をもらっていないのでボランティア)真鍋瞬市が係わった事件を描くシリーズです。常連の登場人物としてはもう一人,資産家の三男で,SYアート&リサーチにしばしば事件を持ってくる鷹知祐一朗がいます。所長の椙田泰男はめったに事務所に顔を見せず,何か別に活動しているようです。それもそのはずで,その正体は保呂草潤平らしい。あるGシリーズの作品で,椙田の事を女性探偵の赤柳初郎がうっかり「保呂草さん」と呼んで,椙田が顔をしかめるというシーンがありました。
 このXシリーズは,舞台となっている時期的には,Gシリーズの「η」の後辺りという考察がネット上に上がっていました。一作目「イナイ×イナイ」には,西之園萌絵もほんの一瞬登場するシーンがありました。萌絵がW大学に赴任してすぐという時期ですから,「η」のすぐ後という事になるでしょう。まあ,S&Nシリーズ,Vシリーズ,Gシリーズ等と地続きというか,同じ世界の作品です。
 さて第1作「イナイ×イナイ」。SYアート&リサーチに佐竹千鶴という若い美人が「私の兄を捜していただきたい」と依頼にやってくるところから始まります。探してほしいという兄は,千鶴が住む離れと同じ敷地にある母屋の地下に幽閉されているらしいというのですが,その母屋には義母(死亡した千鶴の父の後妻)佐竹絹子が住んでいます。佐竹家にはもう一人,千鶴の双子の妹,佐竹千春がいて,千鶴とは別の離れに住んでいます。双子の姉妹は,義母絹子と折合いが悪く,母屋にもあまり行ったことがないという事です。
 そもそも,SYアート&リサーチの椙田所長は,義母絹子から佐竹家の資産である絵画の鑑定を依頼されていて,その絵画の写真撮影を口実に小川と真鍋の二人が母屋へ調査に赴きます(そもそも千鶴がSYアート&リサーチを訪れたのは,絵画鑑定で佐竹家を訪れた椙田を知ったから)。
 その母屋で発見した地下牢,そしてその中では,双子の妹千春が首を絞められ,さらにのどをカミソリで切り裂かれて殺害されていました。地下牢は鍵がかかっていて入ることができない状況でした。やがてもう一つの地下牢への入口が発見されますが,千春の死体が入口の扉にもたれかかって死んでいたので,犯人がそこから逃げることはできません。密室状況の地下牢から犯人はいかに脱出したのか・・・。
 Gシリーズとは趣が異なり,「イナイ×イナイ」では主として小川,真鍋,鷹知達の細かく理屈っぽい考察が描かれ,しっかり本格推理小説しています。しかしその真相は,"やっぱり森博嗣先生" というような感じのものでした。
 Xシリーズがこの調子でいくのならば,オーソドックスな本格推理小説として読めるので,なかなか期待できます。

| | コメント (0)

2023/03/11

森博嗣の「χ(カイ)の悲劇」(たいぶネタバレ)

Kai-nohigeki 森博嗣のGシリーズ前作,「λ」で,島田文子が登場し,「香港に行く」と西之園萌絵に話している状況から,香港が舞台,島田文子が香港で体験した状況を描く本作「χ」の時代は前期Gシリーズと地続きなのかと思っていたら,最後に明かされた島田文子の年齢を聞いてびっくり。たしかに,今作では,香港に来てどのくらいたったのかは言及されていません。香港の会社に新規入社して,「χ」事件の時は相当の地位にいるらしいから,島田文子が長い間香港に来て長く経っていてもおかしくはないです。前作「λ」での萌絵と島田文子との会話から,今回の「χ」が「λ」の直後だと思ったのは,こちらの一方的な勝手な思い込みという事です。
 そのつもりで読むと,「χ」のはじめに新入社員との会話の中で,島田文子は「長らく日本語を話していない」といっており,たしかに香港が長いのだろうと気づくべきだったのでしょう。
 本作は,ある時期真賀田四季側にいた島田文子のモノローグにより,これまでのGシリーズ作品の謎の部分が,ある程度(ほんのりとではあるが)語られます。以前の記事で言及した,各作品の犯行動機の部分についてははっきり語られませんが,真賀田四季が直接かかわっていなかったという事は語られます。Gシリーズ各作品,ギリシアアルファベットが係る事件は,真賀田四季の周囲にいた人達による一種の宗教的活動,金もうけのための活動だったという事のようです。
 さらにまた,真賀田四季がやろうとしていることは,世俗の宗教活動や金もうけ,殺人に非ず。真賀田四季側にいた島田文子のモノローグから,彼女なりの人類補完計画(エヴァンゲリオンでいう・・・)であることがわかります。飛行機事故の真相も,島田の理解に限定されますが,一応語られます。問題の飛行機事故で姉をなくしたという金(つまり萌絵の友人,反町愛の夫,金子勇二か?)が納得するというか「もうどうでもいい」と言うくらいには語られます。
 この作品中盤の,島田文子によるネット上のデータ取得の様子の描写は素晴らしい。リアル(と思わせる)ハッキングの様子を文章に起こすとこうなるんだと思いました。ここまでハッキングの様子をリアル(と思わせるように)描いた文章を読んだのは初めてでした。
 これまでの前期Gシリーズでは,加部谷,山吹,海月,萌絵など,おなじみのメンバー達の推理談議が行わていましたが,今回は金,島田,海月による山荘での推理談議が行われます。Gシリーズは全体として推理小説といっていいのかどうか疑問なのですが(はっきりと謎が解決されるとは限らないから),各作品に存在する推理談議の部分は,たしかに推理小説を感じさせてくれます。
 「φ」から「γ」までの前期Gシリーズ作品では,事件の真相,殺人犯人などは,確定的には示されませんでした。登場人物たちの推測が示されるだけ。読者はそれを信じるしかありませんでした。しかし本作では,香港のトラム内の殺人事件の真相が,島田文子のハッキングによる調査によって,ある程度確定的に示されます。それが真相だったのだろうと読者が思えるくらいには確定的に示されるのです。後期Gシリーズが前期とは異なり,皆そんな風ならうれしい。

   次の作品はGシリーズ第11作目,「ψ(プサイ)の悲劇」ですが,なんとなく,Gシリーズの最終作12作目「ω(オメガ)の悲劇」が出てから読もうかなと思ったりしています。「ψ」では,また今作とは容姿の異なった島田文子が出てくるのだろうなと思わせる「χ」のエンディングでした。

| | コメント (0)

2023/03/07

森博嗣の「キウイγ(ガンマ)は時計仕掛け」

Morihiroshi-kai 建築学会が伊豆の日本科学大学で開催され,M県庁の職員になっている加部谷恵美やM大学助教になっている山吹,それにW大学准教授の西之園萌絵,N大学の犀川準教授ら,おなじみのメンバーが久しぶりに集合します。加部谷と山吹は,学会で共著(加部谷はほとんど名前を貸しただけだが)の論文発表するようです。
 その大学の学長が自らの部屋で射殺されました。その模様は防犯カメラでとらえられており,犯人はキウイに飲料缶のプルトップが刺さったもの手に持ち,逆の手で拳銃を持って学長を射殺しました。学長室には今回の建築学会のトップを務めていた副学長もいましたが,防犯テレビの映像では,犯人は副学長には目もくれず学長を射殺する様子が捕らえられていました。キウイの意味は何か?,副学長を無視したのはなぜか? 
 そしてその副学長も,密室の中で射殺死体で発見されます。学長射殺の時に副学長は無視したのに,後に副学長を殺害したのはなぜか?
 この作品でも他のGシリーズ作品と同様,事件の真相,殺人犯人などは,確定的には示されません。登場人物たちの推測が示されるだけ。読者はそれを信じるしかありません。しかも今回は,犯人の動機も全く示されていません。
 この作品,おなじみのメンバーが集合するのですが,この作品をもってGシリーズ第一部が終了します。NHKの朝ドラの最終回には,これまでの登場人物が一堂に会する場面が描かれますが,そんな感じでしょうか。西之園萌絵は本作の中で,懐かしい島田文子と再会しますが,つまりGシリーズの第二期の主人公である島田文子へのヒロインのバトンタッチという意味もあるのでしょう。私はもうすでに次作「χ(カイ)の悲劇」を読み始めていますが,萌絵たちおなじみのメンバーは登場せず,島田文子が主人公となります。
 Gシリーズは,以前の記事で述べたように,各作品が一つの大きな長編の章のように感じます。一つ一つの作品では,完璧に解明されず,それぞれの作品が謎を残しています。いちばん顕著なのは各作品の犯罪の動機の点です。物理的にこうやれば犯行は可能なのだから,犯人はこの人だろうというところまでは言及される(加部谷や萌絵たちの推測の形で)のですが,なぜそんな犯行が行われたのかは謎のままです。
 そういう意味で,「χ」からはじまる第二期Gシリーズが楽しみではあります。これまでの作品の謎が,「χ」以降の作品でどこまで解決されるのか・・・・・。

| | コメント (0)

より以前の記事一覧