2019/12/09

三崎律日 著「奇書の世界史 歴史を動かすヤバイ書物の物語」

Book-kisyonosekaishi この本は,先日紹介した「偽史と奇書が描くトンデモ日本史」と同じようなトンデモ本だと思って購入しました。なにしろ「ヤバイ書物の物語」ですから,「偽史と奇書が描くトンデモ日本史」の世界版だと思うでしょう。ところがそうではなかったのですね。
 例えば,コペルニクスが天動説を説いた「天体の回転について」。コペルニクスの本の話から,それに発想を得たニュートンの万有引力の発見,師匠であるニュートンの理論を実際の天体に適用してハレー彗星の存在と地球に近づくことを予測したハレーにも言及しています。
 その他,私が知らなかった「ルバイヤート」という豪華本。イギリスからアメリカに運ぶ途中,タイタニック号と共に海に沈んだ本です。さらに,ソ連のロケットの父,人類初の人工衛星スプートニク1号を主導したツィオルコフスキーやドイツ→アメリカのアポロ計画の責任者であったフォン・ブラウンの子供時代,彼らにロケットへの興味をかき立てたジュール・ベルヌの「月世界旅行」などなど。
 これらの書物は,発表当時は奇書という扱いであったが,現在まで影響を与えているブレイクスルーを作った書物です。つまりそんな書物を紹介しているのがこの「奇書の世界史 歴史を動かすヤバイ書物の物語」という本です。
 トンデモ本といえば,要請に応じて系図や寺社・家の縁起を偽造していた椿井政隆の「椿井文書」の話があります。しかしこれとても,謎と真相という感じの話ではありません。椿井文書は,依頼されてその寺社や家の縁起を作っていたという話で,謎要素は微塵もありません。
 謎興味が満たされるトンデモ本に関する本ではありませんでしたが,これはこれで楽しめました。
 奇書といえば必ずピンとくる「ヴォイニッチ手稿」もしっかり扱っています。謎なのはこれくらいですね。しかしヴォイニッチ手稿に対する真相はいまだに謎ですから,謎興味はあっても,謎解きの快感は得られません。

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2019/12/07

オフィステイクオー , 山崎 三郎 著 「偽史と奇書が描くトンデモ日本史」

Gishitokisyo

  著者のオフィステイクオー と山崎 三郎は,世間のトンデモ本やトンデモ物件を品評することを目的としているという,「と学会」の関係者らしいですね。今回読んだ「偽史と奇書が描くトンデモ日本史」は,超古代史,飛鳥時代から平安時代,鎌倉時代から戦国時代,安土桃山時代から江戸時代,というように,時代ごとに章分けして内容が疑わしい書物を並べ,内容と何が内容的に怪しいのかを記載しています。この手の本というと必ず対象となる「竹内文書」や「東流外三郡誌」から,「甲陽軍鑑」「真田三代記」さらに最後に付け加えられた章「まだまだある社会に影響を与えた奇書」として「サンカ社会の研究」「江戸しぐさ」「東方見聞録」のような有名書物まで言及しています。
 このブログでは,いつも本の話題としては推理小説を扱っているのですが,「辻褄の合わないところはどこか?」「真相はどうなのか?」というところは,この種の本も推理小説と類似の興味が湧きます。
 この本で扱っているような奇書の内容やUMAやオーパーツなどの話も,謎解きがないと面白くありません。ただ不思議な事象を紹介しただけでは,面白くないのです。
 推理小説と同じように,私はこの手の本が大好きです。

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2019/12/03

三津田信三の「密室の如く籠るもの」

Mituda-missitu

 三津田信三のミステリーについては,これまで7作ほど紹介しました。刀城言耶シリーズと死相学探偵シリーズの2シリーズを読んできたわけですが,今回紹介する「密室の如く籠るもの」は刀城言耶シリーズの一作です。これまで紹介してきた長編に対して,これは「首切りの如き裂くもの 」「 迷家の如き動くもの」「 隙魔の如き覗くもの 」「 密室の如き籠るもの」の四つの短編集が収録されています。
 どの作品も,刀城言耶が最初から登場するのではなく,まず登場人物が怪異に出会い,何らかの状況で途中から登場言耶が登場し,その怪異の謎を解くという構成になっています。
 各作品は,短編とはいえ或る程度の長さの作品で,中編といっていい読み応えがありました。最後の「密室の如き籠るもの」は,密室状態の蔵座敷でそこに籠もっていた女性が刺殺される事件で,刀城言耶は江戸川乱歩やディクソン・カーの密室講義を持ち出して,他の登場人物たちを辟易とさせますが,今回の密室事件がその分類のどれに当て嵌まるかを検討していく話で,推理小説ファンがニンマリするような展開となっています。
 蔵座敷にあった赤い箱の中身の意味は何か?,被害者が蔵座敷に入る時,皆が並んでいる方を振り向いて凍りついたような表情をした(まるでクリスティーの作品のように)のはなぜか?,もちろん密室の謎,等々,細かい謎から大きな謎まで,絢爛たる謎が揃っています。密室の真相は,乱歩のカテゴリー分けに収まらない,新たなカテゴリーのものでした。
 しかし,やはり中編集。どの作品もいささか真相やラストがあっけない感じで,長編のようにはいきませんでした。とはいえ,怪異を扱った推理小説として,とても面白い作品集だと思います。
 刀城言耶シリーズの短編集には,他に,2011年7月に刊行された「生霊の如き重るもの」,2019年7月に刊行された「魔偶の如き齎すもの」があります。順次これらを読んでいこうと思っています。

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2019/11/24

今何を読んでいるか?

Book 最近,読書の記事を長らく載せていませんでした。かと言って推理小説を読んでいないわけではなく,以前紹介した”はやみねかおる”の夢水清志郎シリーズ前12巻や有栖川有栖の国名シリーズなどを読み返していたわけです。新作としては,国名シリーズの「インド倶楽部の謎」「カナダ金貨の謎」を読みました。同じ国名シリーズでも,インドーーは長編,カナダーーは短編集です。
 そして今読んでいるのは,柄刀一の「或るエジプト十字架の謎」です。これは4編を収める中編集ですが,「或るローマ帽子の謎」を読み終わり,2作目の「或るフランス白粉の謎」を読んでいる最中です。この1作目と2作目はコカインがらみというところで関連があります。ひょっとして3作目,4作目の「オランダ靴ーー」と「エジプト十字架ーー」も,関係あるのかもしれません。全体で大きな長編になっていたりして・・・・・。
 さて,まだ1.5作しか読んでいないわけですが,殺害現場の細かい状況が描写され,図版がなければ理解もおぼつかないという作品です(図版は入っています)。カメラマンにして抜群の推理力を持つ南美希風と,彼の恩人の娘にあたるアメリカ人法医学者エリザベス・キッドリッジ,それに彼らの臨場を気にしない有能な刑事達が推理を戦わせ,真相に至る。細かい系本格推理小説です。状況を理解する必要があり,推理が細かく行われるので,読み手もボーっとしていられない。何回も読み直し,小道具の位置を確認し,それでやっと理解できる。
 私は柄刀一を贔屓にしていますが,もう一つ一般的にドッと一般受けがこないのは,作風が細かい系というところにあるのでしょう。

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2019/10/18

台風だから,本でも読もうか・・・という事で「魔女の隠れ里」再読

Majyo 10月12日土曜日の関東地方は,朝から雨。午後からは時折風も吹いてきて,雨脚も強くなってきました。稀に見る強烈な台風19号の襲来です。
 午後からは鉄道も計画運休してストップし,コンビニも休業・・・という事で,家に釘付け状態です。そこで,推理小説でも読みましょうかという事で,最近Kindleストアで購入したはやみねかおる の2018年の新作,「奇譚ルーム」を読もうかと思ったのです。しかしKindleのマイライブラリーを探している途中に見つけた,すでに読んでいた「魔女の隠れ里」を読むことにしました。内容はよく覚えておらず,好印象のみ記憶にある作品だったからです。
 この作品,読了してみてやっぱり面白かった。漢字には全てルビがふってある,少年少女向けの作品ですが(「はやみねかおる」は,そもそも児童冒険・推理小説作家),推理小説好きの大人が読んでもおもしろい。
 この「魔女の隠れ里」は,12作ある名探偵・夢水清志郎事件ノートシリーズの4作目ですから,シリーズ初期の作品ということでしょう。旅と料理の情報雑誌「セ・シーマ」のタフな編集者にして出不精の夢水清志郎を事件現場に引っ張り出す役目を負っている,シリーズではおなじみの伊藤真理嬢の初登場作品です。
 この本には二つの中編作品が入っています。「セ・シーマ」に謎解きを含めた紀行文を書いて欲しいと夢水の元にやってきた伊藤真理嬢。渋る夢水の背中を押したのが,夢水探偵の保護者の岩崎真衣,しつけ係の美衣,飼育係の亜衣という中学生の三つ子三姉妹。シリーズの語り手を務める夢水探偵の隣家のお嬢さんたちです。
 N県A高原のスキー場へ連れ出された夢水探偵が解くのは,雪霊の藪という竹藪に向かったままその竹藪直近で足跡が消えて行方不明になっていた3歳の男の子の事件。3日後に男の子は竹藪から離れた川の中で見つかりました。足跡は竹藪の直近で消えていて,そこから離れた川で遺体が見つかったという事件です。さらに一本の木に向かってスキーのシュプールが伸びていてその木を挟んで一本づつシュプールが別れ,木の前方でまた合流していた不思議。どちらも前例のあるトリックですが,特に木をまたぐシュプールの謎などは,方法はこれしかないという想像がつくもので,しかし前例の推理小説よりも効果的に使われており,むしろ前例があったのが勿体無いと思われる出来でした。
 そして「魔女の隠れ里事件」。「笙野の里」の村おこしで企画された推理ゲームの取材に,桜餅を餌に食いしん坊の夢水探偵を引っ張り出した伊藤真理嬢。もちろん隣家の岩崎三姉妹も一緒に笙野の里に出かけます。
 笙野の里にある「時空曲屋(ときまや)」という不思議な古屋敷の謎。外見に比べて中の部屋が異常に多く,また大きいという不思議な屋敷。「魔女」から送られてきた11体のマネキン人形,第一の犠牲者である伊藤嬢のコーヒーカップにだけ塩が入っていた事件,目撃された空を行く魔女,村長,村の医師,寺の住職が第二,第三,第四の犠牲者として「魔女」から指名され,寺の住職が密室で襲撃された事件,そして明かされる20年前の一家三人の消失事件。その20年前の事件と今回の「魔女」による事件の関係は?
 殺人事件は起こりませんが,不思議な事件が笙野の里で起こっていきます。
 最後に明かされる真犯人にはびっくり。この作品以降のシリーズを読んできた者は犯人に驚くでしょう。
 推理小説としても,ユーモア小説としても,面白いジュブナイルでした。

 ところで,12日はネットがいつになく重い日でした。みなさん台風情報をネットで見ていたのでしょうか?

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2019/07/05

電子書籍販売サイトが閉鎖

Ebook Microsoftは今年4月2日,電子書籍の販売を中止し事業を閉鎖すると発表し,7月からMicrosoft電子書籍を読めなくなっているそうです。すでに新規購入はできず,予約した本もキャンセルされるそうです。元の購入金額の全額がMicrosoftアカウントへ払い戻しになるようで,そこらへんはさすがMicrosoftだといえます。
 このような電子書籍のサービス終了に関して,拡大している電子書籍販売のリスクをまとめた記事がありました
 記事曰く,「購入すれば必ず物理的に手元に残る紙の本」ということですが,手元に残ってもどこにあるかわからず,読みたいときにはまた買うしかないのが紙の本ですwww。
 記事では,「電子書籍サービスを選ぶ段階で、ある程度体力がある事業者を選んでおく必要があります。」と言っていますが,「マイクロソフトより体力がある事業者って・・・?」ですよね。まあMicrosoftだからこそ,「元の購入金額の全額がMicrosoftアカウントへ払い戻しになる」と言えますけれどね。

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2019/06/24

三津田信三の「五骨の刃」

Gokotsu 先日,三津田信三の「六蠱の躯」を紹介しましたが,今回は同じ死相学探偵シリーズの第4作,「五骨の刃」を紹介します。
 他人の死相が見える探偵,弦矢俊一郎の探偵事務所に20歳そこそこに見える峰岸柚璃亜と菅徳代の女性が訪ねてきました。俊一郎がとっさに死視したところ,そのうちの一人,大学三年生の菅徳代にだけ死相が現れていました。二人は「無辺館」という今では廃屋になっている屋敷に入ったと話し始めます。そこは,その年の4月に凄惨な連続殺人事件が起こった館でした。当時この館では「恐怖の表現」という芸術展のオープニング・仮想パーティーが開かれており,その会場で「13日の金曜日」のジェイソンのような格好をした犯人によって4人の客が殺害され,1人が襲われたがかろうじて生還したという事件が起こりました。第一の兇器は剣,第二は鎌,第三は斧,第四は槍,第五は鋸。5つの凶器により殺傷されていました。
 そして11月,ホラー趣味の俊一郎を訪れた二人の女性と男性二人が廃屋になっている「無辺館」を訪れました。男性のうち一人が不動産会社に勤務しており,この館の鍵をあずかっていたのです。その館の中で四人を襲う怪異。命からがら四人は館から逃げ出します。
 そして,「無辺館」殺傷事件の慰霊祭が行われ,その慰霊祭の出席者の一人が心臓麻痺で死亡する事件が起こります。心臓麻痺なのに不思議なミミズ腫れが皮膚にできていました。おなじみの新垣警部と曲矢刑事の依頼で俊一郎が慰霊祭の参加者を死視したところ,4人の人物に死相が現れているのがわかります・・・・・。
 前作「五骨の刃」は,一部の設定を除いて本格ミステリーでしたが,今作はかなりオカルトに寄っている作品でした。ミステリー的には,フーダニットミステリー,犯人はいつもながら思いがけない人物でした。
 ミステリーファンの私としてはオカルト寄りは残念なのですが,なにしろ「角川ホラー文庫」の一冊ですから,まあ致し方ないと言えましょう。

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2019/06/20

三津田信三の「六蠱の躯」

Mukonokarada

 三津田信三の「六蠱の躯(むこのからだ)」は,死相学探偵シリーズの三作目です。死相学探偵シリーズは,死視という,人の死相が見えるという特殊能力を持った20歳の青年,弦矢俊一郎を主人公にした作品です。
 今回の依頼者は,お馴染みの曲矢刑事。はじめに3人の女性が襲われた事件が起こり,それは襲われると言っても下着姿にされた程度で,なんらいたずらされていないという事件です。その後,3件の凄惨な殺人事件が起こりました。胸,足,腕など,被害者女性の一部を除き酸で焼き殺すという事件です。特殊なキノコから取った催眠剤を染み込ませたタオルで被害者を眠らせて犯行を行い,そのタオルを現場に残していくという犯行で,連続殺人事件であることが明らかです。
 弦矢俊一郎はこの事件について相談されたのです。実際弦矢の探偵事務所を訪れたのは曲矢刑事ですが,そもそもの依頼者は警視庁の新垣警部らしい。俊一郎は新垣警部による警視庁の取り調べにも立ち会い,事件の謎を解きます。
 この作品,オカルトチックなのは,六人の体から美しい部分のみを残し,完璧な女性を作るというアソート殺人事件であること,その裏には黒術師の意向が働いていることくらいで,あとは極めて真っ当な本格ミステリーです。
 完全なフーダニットミステリーで,謎の一つは,犯行時,視線を感じた被害者が辺りを見回しても犯人と思える男がいない事,つまり見えない犯人の謎,それにとにかく犯人は誰かという一点。その意味で,非常に良くできている作品だと思います。関係者を集めて「さて・・・」という推理の披露場面では,俊一郎は指摘する犯人を次々に変えて真犯人を追い詰め,最後に「六蠱はあなたですね」と指摘する。私は,完全に予想外の真犯人でした。しかし女性読者なら,犯人の気持ちがわかって,ひょっとして予想外の犯人ではないかもしれませんね。私の周囲には,論理的にわかったわけではないけれど,犯人の気持ちがわかって,早くから「犯人を予想できた」という女性がいました。
 ネタバレをせずに紹介できるのはそんな事くらいで,後は読んでいただくしかありません。かなりすんなり読める作品でしょう。
 猫好きなのに猫が怖いという因果な曲矢刑事と俊一郎の飼い猫「僕にゃん」とのやりとり,相変わらず頼もしい相談相手の俊一郎の祖母,弦矢愛とのやりとりなどが楽しいアクセントになっています。

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2019/05/20

クリスティーの「白昼の悪魔」

Evil

 最近クリスティーづいている私ですが,「白昼の悪魔」を読みました。
 小学生のころから今までに,既にクリスティーの全作品を読んだことがあるはずの私ですが,この作品と別の作品を取り違えて記憶していました。別の作品というのは,「死との約束」です。「死との約束」は,親族や周囲に絶対権力をふるう嫌な女性が登場し,登場人物達も読者も早くクタバレと思うのですが,そんな女性をクリスティーは必ず殺してくれます。鉄板の死亡フラグの立った女性が,中東の焼け焦がすような陽光の下で死んでいたというミステリーです。この「陽光の下で」というのと「白昼の」というのが被ってしまい,私の頭の中で取り違えが起こったようです。
 さて白昼の悪魔ですが,舞台は英国デボンシャーのスマグラーズ島という小島です。本土とは満潮時には海面下に隠れてしまう細い渡り道でつながっている小島です。この島の邸宅を改造したホテルに,名探偵エルキュール・ポアロをはじめ10名程の滞在客が泊まっていました。その中に,アリーナ・マーシャルという女性がいいました。夫ケネスと彼の連れ子ともにこの島に避暑に訪れたこの女性は,アリーナ・スチュワートという名で有名な女優でした。女性として魅力的なこの女性を見て,滞在客の一人,パトリック・レッドファンという若い男が夢中になってしまいます。妻であるクリスチン・レッドファンと一緒に滞在しているにもかかわらず・・・。アリーナを巡る夫ケネスとパトリック・レッドファンの三角関係,もう一つ,アリーナとパトリックとその妻のクリスチンの三角関係。二つの三角関係が手際よく説明され,何か起こりそうな雰囲気がかもしだされます。
 ある滞在客は,アリーナのことを「男をたぶらかすわがままな悪魔」と呼びますが,上述のようにクリスティー作品では,そんな登場人物は被害者と決まっています。やがて島のとある浜で,彼女の絞殺死体が発見されました。
 この作品は1941年に発表されたものですが,クリスティーの傑作の一つとして広く知られています。
 物語のラスト,ケネス・マーシャルの娘リンダ(被害者アリーナにとっては夫の連れ子)が,「自分が継母を殺した」という遺書を残して自殺未遂を起こし,まさかそれが真相ということはないよねと思っていると,滞在者たちが集まっている場で,ポアロは別の人物を犯人として言及します。しかし,その男で犯人は決まりと思ったとたん,急に矛先を変えて別の人物を真犯人として指摘するのです。論理的に推理が成り立っているとしても,物的証拠がなく,犯人に動揺を与えて自供を促す作戦でした。
一件落着の後,皆にせがまれてポアロが真相を見抜いた推理過程を披露します。読者は冒頭のシーンを読み返し,そこにトリックの手掛かりが指摘されていたことに「してやられた」感を覚えるのです。
 やはりクリスティーは面白い。次は何を読もうかな?

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2019/05/03

霜月 蒼の「アガサ・クリスティー完全攻略」

Agasa

 「アガサク・クリスティー完全攻略」は,著名なミステリー評論家,霜月 蒼によるクリスティー全作の解説書です。早川書房のクリスティー文庫の1作で,クリスティー文庫の各作品と同じ装丁になっていますから,公認版のような本といっていいでしょう(何に公認されたのかわからないが・・・)。最近このブログでも,クリスティー作品を再読した感想などをアップしていますが,それはこの本を読んで,再読したくなったからという事です。
 エルキュール・ポアロ長編作品,ミス・マープル長編作品,トミー&タペンス長編作品,短編集,戯曲,ノンシリーズ長編作品,そして特別収録 ポアロとグリーンショアの阿房宮に分類されています。それぞれ簡単なあらすじが付いていますが,もちろんトリックや犯人には言及されておらず,未読の人も安心して読むことができます。評論の上でネタバレが必要なものは,ネタバレ部分を巻末に抜き出してあり,クリスティーの原作を読んでから巻末を読めばいいようになっています。
 作品には,星マークで霜月氏が考えるランキングがつけられています。同意すべき点もあり,そうでない点もあります。
 たとえば傑作として名高い「オリエント急行の殺人」は星四つです。最高は星五つで,「白昼の悪魔」「カーテン」「鏡は横にひび割れて」「ポケットにライ麦を」「五匹の子豚」などがそれに相当します。「ナイルに死す」は星四つ半,「ABC殺人事件」が同じく星四つ半。「オリエント急行の殺人」は,それよりわずかに評価は低いのです。ここら辺の感覚は,私と同じですね。「オリエント急行」は,私の中では横溝正史の「本陣殺人事件」同様に,史上初という特異なトリックで世評は高いのですが,作品としての面白さは「同じ著者の他の作品のほうがおもしろい」と感じます。
 霜月氏に同意しない部分もあります。「マギンティ夫人は死んだ」を霜月氏は高く評価しています。クリスティーっぽくなく,ポアロが街を始終移動し続け,視点もポアロに固定し,読者はポアロの慨嘆や印象や思考を共有し,すべてはポアロの目を通じて見て,ポアロと共に空間を移動する。それはハードボイルドミステリーのやりかたで,ハードボイルド好きの霜月氏は,これに共感しています。また,登場人物の多くがクリスティーにしては珍しく「裕福でない人」であり,そこらへんもハードボイルド的だと霜月氏は考えます。だから玉に瑕なのは中盤からのオリバー夫人の登場で,ハードボイルド的な雰囲気を壊しているというのです。しかし,被害者は雑役婦であり裕福でない人かもしれませんが,殺害の秘密は裕福な家庭にあり,事件の根はお屋敷にあるので,私はそれほどハードボイルドを意識しなくていいような気がしました。それにクリスティーが被害者を裕福でない人に設定したのは,殺人の動機となった行為を裕福な人が行うのは,単に不自然だからではないかと思います。
 ハードボイルド好きの霜月氏と,謎で背中がぞくぞくするのが好きな私は,微妙に意識がずれていて,私としては,同意できる部分とできない部分がありました。
 ちなみに,私もハードボイルドが嫌いではありません。霜月氏は本書の中で「ハードボイルドの流儀は,謎解きミステリの快楽と矛盾するものではない。ハードボイルドは語り口の名称であり,謎解きミステリは構造の名称であるからだ。」と述べています。まさにその通りですね。

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