2022/08/19

ドロシー・セイヤーズの「ナインテイラーズ」を読みました

Nine-tailers ドロシー・セイヤーズはアガサ・クリスティー程有名ではありませんが,知る人ぞ知る英国の推理作家です。この本の末尾の解説を読んで初めて知ったのですが,クリステーの処女作「スタイルズの怪事件」とセイヤーズの処女作「誰の死体?」は,ほぼ同じころ出版されていたのですね。私はてっきり,セイヤーズはクリスティーの後輩だと思っていました。作品数はあまり多くなく,推理小説としては12編の長編と3冊の短編集があるそうです。そのほとんど全作品が邦訳されているらしいのですが,私は,創元推理文庫で出ている短編集と長編「誰の死体?」と,今回の代表作「ナインテイラーズ」の三冊を読んだにすぎません。
 さてそのナインテイラーズ。この表題は,「仕立て屋(テイラー)は9人が一着のスーツを仕立てる」という言葉から来ているものですが,作品中に仕立て屋が出てくるわけではありません。
 セイヤーズの常連名探偵,ピーター・ウィムジー卿が,ひょんなことからイングランド東部の沼沢地帯(イースト・アングリア地方というらしい)を訪れ,インフルエンザに感染した村人の代わりに,教会の除夜の鐘を突く羽目になる(日本のように一つの鐘を突くのではなく,8つの音色の異なる鐘を8人で突いて音楽的な曲をかなでる。というか,鐘に繋がる縄を引いて大きなベルを鳴らす。しかも大晦日から9時間にわたって)というところから話が始まります。
 正月に入り,村の有力者が亡くなり,その埋葬のために既に亡くなって埋葬されていた妻の墓を掘り返してみたら,見知らぬ男が埋葬されていたということになって,村の牧師がピーター卿に出馬を依頼するということになります。
 この男の正体と犯人はだれかという謎をめぐって二転三転し,最後に落ち着くところに落ち着くのですが,教会の鐘の鳴鐘術のうんちく,沼沢地帯のいい感じの人間関係,献身的な牧師さんの活躍,豪雨による洪水という自然災害など,推理小説的でないエピソードもなかなか興味深く,ピーター卿の個性も相まって楽しく読み進むことができました。
 暗号解読も出てきます。鳴鍾術を使った暗号で,私にはほとんど理解できなかったのですが,ウィムジー卿がとくとくと説明し,結局解けた暗号の示すところさえ分かれば,それでよしとするしかありません。
 そして最後に明かされる謎の男の死因。その死因について,私はもともと知っていました。この作品の特異な死亡原因は,作品を離れて推理小説好きの間では有名です。「トリックとしては長編を支える力はない」と言われていて,推理小説のトリックとして取り上げればその通りでしょうが,死因はこの作品に埋め込まれた謎の一端でしかなく,長編作品としての価値は決して見劣りするものではありません。
 英国の田舎の沼沢地帯の村の描写が優れていると思ったら,セイヤーズの生まれ育った故郷がこの地方だと知りました。なるほどという感じです。

| | コメント (0)

2022/08/10

山沢晴夫「死の黙劇」を読みました

Shinomokugeki 山沢晴夫はあまり知られていない推理作家です。プロというより大阪市水道局に勤務しながら本格推理小を書いていた作家です。作品は創元推理文庫から,短編集「死の黙劇」と長編「ダミー・プロット」が出版されています。このうち,短編集の方を読みました。
 山沢氏の作品は,「銀知恵の輪」をはじめとしていくつかの作品は様々なアンソロジーに採用されており,そこで読んだことがあります。この作品集に収録されているいくつかの作品は,そんなアンソロジーで読んだ覚えがあります。
 山沢晴夫の作品の多くに,探偵,砧順之介が登場します。そしてその短編集。9作品が収録されています。そのどれもがアリバイトリックを使った作品です。例えば,自動車事故が起こり運転者が死亡しますが,その運転者はミイラのように頭部全体に包帯を巻いていて,検死のためにその包帯をとってみると,何ら損傷されていない顔が現れた・・・包帯を巻いていたのは何故?・・・という魅力的な謎から始まる短編も,結局アリバイトリックになっていく。アリバイトリックというのが,山沢氏の特徴といえます。密室を絡めた作品もあるのですが,それもやはりアリバイトリックになっていきます。
 そういう意味では,これだけの作品が並んでいて,いささかアリバイトリックに食傷するという面も無きにしも非ずです。プロになり切れなかった山沢氏ですが,それも理解できる気がします。しかしとにかく,本格推理小説らしい本格推理小説といえるでしょう。

| | コメント (0)

2022/06/03

新川帆立「剣持麗子のワンナイト推理」を読みました

One-night-suiri 最近本屋さんで平積みされている新川帆立氏の作品の中で,初めての作家さんだからという事で「剣持麗子のワンナイト推理」を読みました。本来は法人弁護士である剣持麗子が,亡くなった同僚弁護士のクライアントを引き継ぐ形で刑事事件に関わっていく。
 5話の短編が収録されていて,各編は独立した話ですが,4話目くらいからひょっとして完全に独立はしていないかもと思えてきて,最終編である第5話目にして,独立していなかったんだという事になる連作短編集です。
 この作者の長編「元彼の遺言状」は,フジテレビでドラマ化され,その関係でこの作者の本が本屋に平積みされていたわけですね。テレビドラマは,1話目と2話目が長編「元彼の遺言状」の話で,3話目以降は私が今回読んだ「剣持麗子のワンナイト推理」の各編を元にしています。ドラマの登場人物,大泉洋が演じている篠田啓太郎は,原作の「元彼の遺言状」の登場人物ですが,「剣持麗子のワンナイト推理」には登場していません。ドラマの3話目以降の篠田の位置は,ドラマでも登場しているホストの黒丑益也(源氏名は武田信玄)が原作では勤めています。
 私はこの短編集しか読んでいませんが,殺人事件を扱っている割にはあまり深刻にはならず,ミステリとしてはカラッとしていて好ましいと思います。ただ,お話は各編ともミステリーとしてあっさりしていて,最終話,短編集としての全体構成がわかって印象に残るという連作集でしょう。

(本の表紙は,アマゾン書店より。)

| | コメント (0)

2022/02/16

京極夏彦「今昔百鬼拾遺 鬼」

Kyougoku-oni 長編「姑獲鳥の夏」からはじまる京極夏彦の百鬼夜行シリーズのスピンオフ的な作品としては,「百器徒然袋」の雨と風という短編集,それと「今昔百鬼拾遺」の鬼,河童,天狗の長編3作品があります。前者は薔薇十字探偵社が受けた事件を榎木津探偵がかき回し,中禅寺秋彦が事件を収めるシリーズ。だからより本編長編に近いシリーズです。それに対して,後者は分量的には短い(京極夏彦にしては)長編ですが,中禅寺明彦の妹である科学雑誌編集者の中禅寺敦子と,「絡新婦の理」の登場人物であり女子高生の呉美由紀が事件を解き,呉美由紀が最後に犯行関係者を戒めるというシリーズです。
 その中の「鬼」。昭和28年9月~昭和29年2月にかけて,世田谷区駒澤野球場周辺で日本刀を使った連続通り魔事件が発生。7人目の被害者である片倉ハル子の友人,呉美由紀が「絡新婦の理」事件で知り合った中禅寺秋彦の妹,中禅寺敦子に相談して,この二人が事件の解明に乗り出すという物語です。
 犯人の見込みが二転三転し,今昔百鬼拾遺三作品のなかではフーダニットに関するサプライズエンディングがあって,3作品の中では最も推理小説らしい作品だと思います。
 今昔百鬼拾遺シリーズ3作品は,事情があって講談社,新潮社,角川書店からそれぞれ発売されており,後に3冊が合本された「今昔百鬼拾遺 月」が講談社から発行されています。内容はほぼ分割発売された3冊と同じものなので(ほぼというのは,月では多少直しがある様です)お間違えの無い様。

| | コメント (0)

2021/12/16

チェスタトンの読み方

Poet-lunatician いま,チェスタトンの「詩人と狂人たち」という短編集を読んでいます。随分前,多分高校生のころ,紙で読んだ本を今電子書籍で読んでいます。チェスタトンを読んでいて,時々浮気して他の本を読み,またチェスタトンに戻る。短編集だからできる事ですね。
 チェスタトンは難しい,というか読みにくいと言われています。私は中学校の時,あかね書房の少年少女世界推理文学全集の一冊,「ふしぎな足音」から入ったので,あまり読みにくいというイメージがつかなかったといえるのが幸いしたと言えると思います。やはり大人の本で読むと読みにくい。だから時々浮気して他の本を読むのです。
 あまり細部の描写を気にしないで読み飛ばす事が,チェスタトンの小説に耐えるコツだと思います。結構風景描写がきつい。その描写される景色を想像して読んでいくと,自分の想像と矛盾する文章があらわれ,「あれれ,難しい,読みにくい」ということになります。気にしないで読み飛ばすのが読むコツです。本来チェスタトンを読み飛ばすなどというと誰かに怒られるような気がしますが,そこは読み飛ばすのが読み続けるコツだと思います。

| | コメント (0)

2021/12/03

日本政府,在留資格保持者の再入国も停止へ 南アなど10カ国対象

Colonagreen 日本政府は,南アなど10カ国を対象に,在留資格保持者の再入国も停止されるという報道がありました。さらにその後,国際便の日本到着便の新規予約をずべて停止するよう,航空会社に要請しました。後者の新規予約の対策は,今後変更される可能性があります。帰国はできるが帰国したら何日か行動制限されるという事になると思います。
 オミクロン株の状況を見れば,このような水際対策は致し方ないと思います。年末の来日が多くなる時期ということもあります。だからこそ,海外に居る邦人への影響も大きいのですが,いつまでも行われる対策ではありません。
 水際対策に完璧に成功した国はなく,水際対策は時間稼ぎです。オミクロン株の調査研究の時間稼ぎとして,国内に入ってきてからの対策構築のために,時間稼ぎとし水際対策は存在しているわけです。そういう意味で,このような対策を取る事は致し方ないと思います。

 国内飲食店のグループ利用人数や利用時間など,利用規制緩和がおこなわれていて,これを再規制強化しないのかという意見もありますが,オミクロン株の市中感染が起こっているわけではないので,その必要は今のところないでしょう。今後,オミクロン株の市中感染が広がれば,飲食店への対応も,どうなるかわかりませんね。

| | コメント (0)

2021/11/29

フレンチクルーラー

French-cruller 写真は何の変哲もない,ミスタードーナツ店の定番,フレンチクルーラーです。
 なぜ今フレンチクルーラーなのかというと,今,ヘンリー・スレッサーの「快盗ルビー・マーチンスン」という本を読んでいるからです。この作品は,かつて小泉今日子と真田広之の映画「怪盗ルビイ」に翻案されました。随分昔,紙の本で読んでいた作品ですが,今月になって電子書籍化されたので,電子書籍で再度読んでいるのです。
 紙の本は「ハヤカワ・ミステリ文庫」の一冊でしたが,ミステリというより犯罪コメディーです。語り手であるハイスクールを出たばかりの「ぼく」の23歳の従兄,経理士のルビーが発想するさまざまな盗みを実行に移し,大抵の場合この2人が損をするという話が綴られている短編集です。「ぼく」が大袈裟に紹介するルビーの犯罪と哀れな結末がコメディーになっています。
 この2人が犯罪の相談をする場所が,ニューヨークブロードウェイのキャフェテリヤで,いつも2人でフレンチクルーラーを食べながら奇想天外な盗みを計画します。
 フレンチクルーラーというのは,シュー生地を使ったドーナツで,曲がったという意味のクルーラーのとおり,記事をねじりながら手作りされるのが本当ですが,ミスタードーナツでは,曲げた形を形押しして作っているらしいですね。本来は,機械では作れない手作りドーナツだそうです。

| | コメント (0)

2021/08/31

ブルーバックス「フォッサマグナ 日本列島を分断する巨大地溝の正体」

Fossamagna 講談社の自然科学や科学技術の話題を一般読者向けに解説・啓蒙している新書シリーズ,ブルーバックス。私が初めて読んだのは,都築卓司教授の「四次元の世界」でしたが,今回読んだのは「フォッサマグナ 日本列島を分断する巨大地溝の正体」です。
 新潟県の糸魚川と静岡県を結ぶ大地溝帯「フォッサマグナ」。・・・と私は思っていましたが,実はその線はフォッサマグナの西側の線でしかなく,東側の線がはっきりしておらず,いまださまざまな説があるという事を知りませんでした。まあ考えてみれば,大地溝帯というからには,大きな溝,渓谷であるわけで,西側の線と東側の線があるのは当然ということでしょう。
 さらに,その成り立ちが北側と南側が異なっている事など,私が知らなかった事がたくさん載っていました。
 秋には,フォッサマグナを体験できるジオパークに行きたくなりました。

| | コメント (0)

2021/06/16

Kindleの暗転

Kindle-ebook いつも不思議に思っている事の一つに,「Kindle PaperWhiteの暗転」というのがあります。
 ページめくりの時に,Kindleが一瞬暗転する(白黒が転換し,一瞬ページ全体が黒くなる。この時,通常黒で表示される文字部分は白くなる。つまり,一瞬黒地に白文字という画面になる)という現象のことです。
 SNSなどで,この暗転を気にしている人が意外と多いのです。この暗転は,設定によってページごとに起こすこともできますし,数ページごとに起こすこともできます。KindlePaperWhiteは電子ペーパーを使っている以上,仕組みとして起こる問題で,避けられないことです。私は以前このブログにも書いた様に,楽天の電子書籍端末KOBOも持っていますが,電子ペーパーを使っている以上KOBOでも起こります。これを避けたかったら電子ペーパー式ではない液晶式のKindleなりスマホのKindleアプリなりを使う事になります。
 私には全く気にならない「ページめくり時の暗転」を気にする人が多いことは,KOBOの念の入った暗転設定から気づいた事です。Kindleでの設定は,暗転をページめくり毎に起こすか,起こさないかという二択だけですが,KOBOでは,何ページごとに暗転を起こすかという選択肢があります。私にしてみれば,そんなことは適当にやってくれていいので,なぜ何ページごとに暗転を起こすかなど選択する必要があるのだろうと思いました。そこでネットで「Kindleの暗転」をキーワードとしてググってみて,結構な人がこの暗転を "悪いこと" だと認識していることに気づいたのです。
 電子書籍をお勧めするサイトなどでも,この暗転を問題点の一つに挙げてあったり,この暗転のために「目眩が起こる」なとという人もいて,病院の目眩外来の受診をお勧めしたくなります。
 私などはむしろ,「トイレに行きたい,でも本が佳境に入っている」などという時,「次の暗転が起こったら本を諦めてトイレに行こう」などと,暗転を楽しく利用しているんですけどねwww。

| | コメント (0)

2021/06/03

ローソンが本屋併設店を展開

Convenience_20210602000101 コンビニのローソンが,本屋を併設したコンビニ「LAWSONマチの本屋さん」を展開すると発表しました。
 私は知りませんでしたが,ローソンは地域の書店とのコラボで本屋併設コンビニ店を全国で21店舗展開しており,その成績がいいのでローソン単独で本屋併設店を展開することを決めたとの事。
 かねてより私は,本屋さんは,ネット書店や電子書籍のショーウィンドになるような大規模書店しか生き残れないと思っていたのですが,コンビニ併設というのは,可能性があると思います。別のものを買いに行って,隣に本もあるのでぶらっと立ち寄って「本や雑誌も買う」というスタイルです。
 このような形で,本屋さんが街で生き残っていくのは結構な事だと思います。自然な本へのアクセスが可能になります。

| | コメント (0)

より以前の記事一覧