クリスティの「忘られぬ死」を再読
「忘られぬ死」は,クリスティのいつもの名探偵,ポアロもミス・マープルも出てこない作品で,オリエント急行の殺人やナイルに死すほど有名ではありませんが,批評家など,玄人からの評価がきわめて高い作品です。批評家によっては,クリスティーの作品として5本の指に入ると言っています。
冒頭は6名の登場人物によるモノローグ。一年前に死んだローズマリー・バートンの事をそれぞれに思い出していました。ローズマリーは,1年前の誕生パーティーの最中に,青酸カリを飲んで死んでいます。自殺として処理されていますが,ローズマリーの夫,ジョージ・バートンは,その死因に釈然としないものを感じていました。実際,最初の6名によるモノローグで,それぞれにローズマリーに対して殺意を抱いていたようです。
その1年後の誕生日がやってこようというときに,ジョージの元に匿名の手紙がやってきます。それにはローズマリーの死が自殺でなく,殺人だと書いてありました。念が入った事に,そんな手紙は2通やってくるのです。ジョージは次の誕生日に,同じレストランで,同じメンバーを集めて,誕生会を開くことにします。その場でローズマリー殺害の犯人をあぶりだそうというのです。
そしてその1年後の誕生会の時に,今度はジョージが青酸カリで毒殺されてしまいます。誕生会の出席者や他のレストランの客による複数の証言から,ジョージのグラスに誰も青酸カリを入れる機会がなかったことが分かります。いったいどうやってジョージのグラスに青酸カリが投入されたのか? 犯人はだれか? HowdunitとWhodunitのミステリーと言えるでしょう。
クリスティーの他の作品に登場しているレイス大佐ががケンプ警部に協力してこの謎を解きます。
<以下,ちょっとネタバレ>↓
あまり詳しく書けませんが,ジョージを殺してしまっては,犯人側が不利益を被る,あるいはジョージを殺す動機がないので,読者としては犯人を疑いずらい状況が生まれます。ここら辺は実にお見事ですね。
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