クリスティーの「青列車の秘密」
クリスティーの「青列車の秘密」を読みました。初めてではありません。その昔,子供向けの版(ポプラ社のジュニア世界ミステリーシリーズだったかな?)で読んだのです。それ以来読んだことがなかった。細かい筋も犯人も,すっかり忘れていました。なんとなくオリエント急行殺人事件のように,青列車内でお話が進行するような記憶がありました。ところが,青列車が出てくるのは,初めの方で殺人事件が起こるシーンと最後にポアロが謎解きをする部分だけだったのです。旅情ミステリー要素もあるような気がしていたのですが,まるで違っていました。
フランスを走る豪華列車「ブルートレイン」の個室の中で,アメリカの富豪令嬢(と言っても,イギリス貴族の妻)が殺害され,持っていたはずのルビー "焔の心臓" が紛失していました。たまたまこの列車に乗り合わせた名探偵エルキュール・ポアロは,フランス警察と被害者の父親である富豪から請われるままに,事件解決に乗り出します。しかし,被害者の令嬢とルビーに関係する人々,令嬢の愛人であるいかさま貴族,令嬢の夫,夫の愛人であるダンサー,宝石商,"伯爵" と呼ばれる謎の人物など,うさん臭い人物たちが跋扈し,事件は混迷を極める・・・・・。
これら多彩な人物の中を解決を求めて動き回るポアロの活躍は,とても面白いです。私がクリスティーの最高傑作と考えている作品「五匹の子豚」は,初めポワロが数人の容疑者に対面して聞き取り調査を行い,その後その容疑者たちがポアロの要請に従って事件に対する手記を書くという展開で,いささか退屈なところがあるのに対して(もちろんその聞き取りと手記の中に手掛かりが隠されており,読者はポアロと同じように事件やその犯人を推理できるように構成されている完璧なパズラーで,ポアロの最後の推理の披露では,自分では思いもよらなかった,しかし気づいてもよかったその論理展開に舌を巻くのですが),本作「青列車の秘密」では,ポアロから離れて,第三者目線で胡散臭い登場人物たちの行動が描写され,だからこそ途中の展開がもとても面白く読めました。「五匹の子豚」では物語の構成が完全にわかっているのに対して,本作は物語の今後の展開が全然わからないというタイプの推理小説で,本作品は私の中ではクリスティー作品としてかなり上位に位置しています。
ヒロインともいうべき,遺産を相続したしっかり者の女性は,セントメアリーミード村でお金持ちのコンパニオンをしていた女性で,最後に同村へ帰っていきますが,セントメアリーミードと言えば,ミスマープルが住んでいる村ですね。
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